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試行錯誤

聖剣伝説をメインに、気の向くまま二次創作を綴っていくサイトです

火星物語 未完 『暴走』

未完

注意
私的設定があります。
時系列としては16話前です。












ブラパン党に呼ばれて招かれたホテルのスイートルーム。
工具セットを傍らに置いたフォボスがなにやら作業をしているのを見つけた。
セイラが帰ってきたのにも気付かないほど集中しているらしく、何をしているのかと気になってフォボスの隣に行き、彼の手元を覗き込むように中腰になる。
ここまでしても気付かないくらい熱中しているとは、珍しい。
「……フォボスさん、何をしているんですか?」
機械に詳しくないセイラにはガラクタの部品から機械を作り上げるフォボスの手は神がかって見える。
またタローボーのように新しく機械を作るのかと期待を篭めて見るが、フォボスが解体しかけているものを見て、ドン引きした。
……いくら部屋の中を好きにしていいとランディの許可を得たからって、部屋に備え付けの3Dテレビを解体するのは如何なものか。

「このネジ、格好いいと思わない?」
「え?」
ドヤ顔でネジを見せるフォボスに、セイラが間の抜けた声を出す。
フォボスが摘まんでセイラにみせているのは、どこからどう見てもただのネジだ。そもそも本人も、ネジ、と言っている。
格好いいって……何がですか?
そう返さなかったのは、フォボスの目が輝いていたからだ。
「この種類はある中小企業が少数のみ生産していたんだけど、倒産した今じゃ幻のネジと呼ばれているんだ。
限りなく不純物を取り除いた材質に、計算され尽くした美しい形状。
なんて、素晴らしいんだろう!!」
今まで見たことがないほど熱く語るフォボスを前に、セイラが唖然と立ち尽くす。
セイラが、アービンやランプーのように話を遮らず、立ち去らないのを確認してフォボスが更に語り出した。
自身のネジ論を嬉々と語り、どの国の、どの会社のネジがよいか、その魅力を蘊蓄も混ぜつつ喋っていく。
今までこんなに楽しそうなフォボスを、セイラは見たことがない。

「クエスやアンサーの時代のネジも現代とは違った味があって、魅力的だよね。
あの時代の機械類はあまり残っていなかったから、この前直に見られてとっても嬉しかったなぁ。
昔の機械は四百年前まで大砂漠にあった鉱物で作られていたんだけど、その鉱物は水に濡れたら劣化して溶けるから、今じゃ原石は存在していないんだ。
あの時代は湿気なんて殆どなかったから、強度や加工面でその鉱物は万能だったんだけど、超特大地震の後の長雨と大洪水などで殆ど使い物にならなくなったんだって。
今でも当時の機械はごく僅かに残っているんだけど、湿度が高ければ劣化するから管理が大変らしいよ。
僕の家にあった六百年前のテレビも、外殻は鉄だけど、中身にその鉱石が使われていたからボロボロになってたよ。
あ、そういえばネジの歴史なんだけど……」
更にヒートアップしたのか、どんどん早口でネジの歴史を話して、ついには理想のネジとは何かを熱く語っていく。

「ね、セイラもそう思うよね!?」
今までにないほど目を輝かせたフォボスが尋ねるが、セイラは黙っていた。
普段のフォボスなら両者の間に激しい温度差があることに気付くが、クエスを語るセイラのように、ネジを語ることに夢中になっているフォボスは寒暖差に一切気付かず、セイラの答えを今か今かと待ちわびている。
そんなフォボスに満足に応えられないことに胸が痛くなった。

「……………………フォボスさん、ごめんなさい。
フォボスさんのネジへの濃厚な情熱にはとてもついて行けなくて、その……」
セイラの思い詰めた顔に、暴走してしまったことに漸く気付いたフォボスが顔を青くした。それを見てセイラも余計心苦しくなる。
両者の間に流れる気まずい空気は、タローボーが部屋に帰宅するまで暫く続いた。

言い訳
「緩んでるネジとかが我慢できないタチ」という設定(byオフィシャルガイドブック)から、ネジ好きに繋げました。
単に機械に対してのみ神経質なだけかと思うけども……。
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火星物語 未完 『写真』

未完

注意
フォボスの家族捏造があります。












アロマ城を去る前に色々寄りたいところがあると言って去ったクエス達を、フォボスが城の中庭で待っていた。
城内を見て回ってもいいと言われたが、広大な城だ。それに後の廃城で散々迷った記憶もあって、動くのは躊躇われる。
手持ち無沙汰で待っていては時間はより遅く感じる。何かすることはないかと思い、周囲を見回した。
爆破される前のアロマ城。
もしこれをアロマの考古学者だったという父が見たらどんなに感動するかと思い、改めて見ればより感慨深くなる。
両親はフォボスが物心着く前に亡くなったから殆ど覚えていないが、数少ない家族写真は残っていた。
フォボスがポケットの中から折りたたまれた古い写真を取り出す。
手垢がこびりつき色褪せた写真は、幼い頃から肌身離さず持ち歩いていた大切なお守りだ。
写真の中の父母に、今回この時代に来てからの出来事を心の中で語り始めた。

写真を通しての両親への語らいも終盤にさしかかった頃、
「何を見てるんだ?」
気配もなく背後から声をかけられ、写真を覗き込まれる。
「わっ、わあ!」
咄嗟に写真を隠して振り返れば、そこにはクエスとサスケがいた。

「で、何を隠したんだ?」
興味津々に尋ねてくるサスケに困って助けを求めるようにクエスを見るが、彼女も好奇心に目を輝かせていた。
「もしかして、おめぇの彼女の絵か?」
「違うよ!!」
即座に否定する。
セイラの写真を持ち歩くなんて、恥ずかしくて出来ない。
例え持てたとしても、過去にいるときにセイラの写真を持てば逢いたいという気持ちがより増すだけだ。
写真を通していつもセイラのことを考えて、今頃どうしているかと、何か事件に巻き込まれていないかと、平穏無事に過ごせているかと心配になってしまう。
命懸けの状況が続くこの時代で、心ここにあらずは危険極まりない。

「じゃあ、何だ?」
二人がかりで詰め寄られて、その勢いと圧力にフォボスはついに負けた。
このままでは写真を見せるまで退いてくれないと、諦める。
「……両親の写真」
渋々両親の写真を見せれば緊張の面持ちで見ていた二人の顔はすぐに唖然として、写真とフォボスを交互に見比べ始めた。
フォボスが家族写真を他人に見せるのを拒むのにはいくつか理由がある。
プライベートに他人が土足で踏みいる嫌悪もある。両親の記憶がないフォボスにとって写真は家族に繋がる唯一の縁だから、他者に見せたくない気持ちもある。だが、何よりも大きいのは……。
「フォボス、君は……。お父上と瓜二つだな」
写真を見た人間は大概この台詞を言うからだ。
アービンやランプー。最近ではセイラやタローボーですらも必ず言った台詞で、皆フォボスと父を年齢以外で違いはないかと必ず見比べる。
ここまで寸分違わず酷似した親子、というのも非常に珍しい。一時はクローンと呼ばれたこともあった。
せめて母のような鳶色の髪か翡翠の瞳だったら顔の作りは父と同じでも印象は変わるのに、と残念に思う。

クエス達の視線はまずフォボスに生き写しの父親に吸い寄せられ、母親の顔に意識が向く前に拗ねたフォボスが写真を折ってポケットにしまった。
「……だから写真を見せるのは嫌だったんだ」

「僕の父はアロマ専門の考古学者だったんだ。だからこうして崩落していないアロマ城を見ていると、感慨深くなったんだよ」
「……写真を通して、親父さんにアロマを見せたかったのか?」
「…………うん」
写真は何も見ず語らない。いいこと、悪いこと、聞いて欲しいことがあれば写真に語りかける。
幼い頃からそう接してきたので写真を通して父に見せるというのはピンとこない。
それでも、父が見たらこのアロマ城を見たらどんなに喜ぶかと思案したのは事実なので頷いた。

聖剣伝説3 未完 『可能性の話』2

未完

注意
私的設定があります。












デュランは、信仰と病気は関係ないと確信している。
世界的に見れば異端の考えだ。もし、知られれば社会的信用を失うとわかっている。
それでも心の中で叫ぶ。
正しいマナの女神教徒でも、毎日教会に通っていても病にかかるのだ。
信心深かった母が病気になってから投げられた悪口を、デュランは覚えている
悪魔と情を通じたからその罰として死病に感染したのだと嘲笑われたことも。
傷は治せども病気を治せない神官が、自分たちへの不平不満を逸らすために病は悪魔が体内に入ったと教会を通じて教えているのだ。
そんな経験をしたからだろうか、デュランはマナの女神を信仰していても、教会には通わない。
デュランが信じるのは英雄王と、家族と、剣だけだ。
だからこそ……。

「ホークアイ、ナバールの医療をどうすれば世界に広められる?」
世界水準から突出しているナバールの医術を広めたかった。
そうすれば、母のような悲しい犠牲者も少なくなるし、謂われのない誹謗中傷を浴びる人間も減る。
デュランの真摯な眼差しに、ホークアイは頭を振るうだけだった。
「無理だな」
「何故だ?」
確かにナバールの医療知識は常識を凌駕するもので、悪魔のようだ。
帝王切開も、自分の細胞から臓器を作ることも、なにもかも。
でも、それでも救われる人間がいるのなら広めるべきだとデュランは断言する。
「お前達は到底受け入れられないだろう」


「デュランもバカね……」
すっかり呆れたアンジェラが吐き捨てる。
ナバールの医療知識は確かにアルテナを凌駕している。それは認めよう。
でも、だからといって。
「アルテナでさえ受け入れがたいものを、信仰ガチガチの他国が認められるわけないでしょ」
アルテナは魔術を基に成り立つ国だ。魔力の次に知識が求められる社会風土がある。
だから様々な分野への研究は怠らないし、ウェンデルから赴任してくる神官や司祭へ多額の寄付という名の口止め賄賂を与えていた。
アルテナは全てにおいて世界一と自負していたが、見事に覆されたわけだ。

「あたし達でも臓器移植はあるのよ。でもそれは他人の臓器を使うの」
「へえ、それは……」
それ以上は憚って言わないホークアイに、アンジェラが苦笑する。
自分の細胞からどうやって臓器を作るのか、全く分からない。
アルテナとナバールでは、それくらいの隔絶がある。
ホークアイの様子では医療知識は要塞全体で当たり前らしいが、砂漠には一切流れていない。
もし、砂漠にも広まっていたらもっと早くに他国に悪行として知れ渡っていただろう。

「ねえ、ホークアイ。
王侯貴族ってのは生き延びるためなら高い金を払っても、時には倫理すら無視するわ。
だから、平和になったら医師団の派遣業ってのもありじゃない?」
「あははは、まさか。そんなことありえないよ」
「狙われることを危惧してるの?それなら大丈夫じゃない?要塞への道はナバール人とフェアリーしか知らないわよ。
それに一騎当千の猛者と間諜や暗殺業のプロ集団相手に下手な手は打てないでしょ」
ナバール要塞は巧妙に隠されている。
ホークアイがいるときは彼の案内で、いないときにはフェアリーが案内してくれた。
どうやら何らかの仕掛けが施されているらしく、フラミー以外の飛行艇では要塞を見つけるのは不可能だ。
「そうかもしれないな。
でも、アルテナも医療に自信があるんだろう?だったら、何故やらないんだ?」
「そんなことしたらウェンデルが黙ってないわよ。
でもナバールは今に至るまであの国をはね除けているわ。だから可能性があると思ったのよ」
「関係ないからといって、これ以上ギャンギャン喚かれるのも迷惑なんだよ」
「病気にかかった司祭達に恩を売るってのもありでしょ?」
「ナバールが病気を振りまいたと吹聴されるのがオチだ。
第一、他国人ってやつは恩をすぐに忘れる連中ばかりだ。喉元過ぎれば熱さを忘れる、それと同じさ」
「恩と怨を末代までっていうナバール人の考えが変わっているとあたしは思うけどね」

聖剣伝説3 小説 『可能性の話』

聖剣伝説3(HOM)

注意
私的設定があります。












「ナバールの医療水準は突出しているのね」
人間の歴史はこれまで大戦や災害、疫病などで文明が何度もリセットされてきた。
そして、現代のファ・ディール全体の医療水準は歴史的に見ても低い。
回復魔法に病を治す力はなく、怪しげな民間療法が跋扈している。
それに対して、ナバールはどうか。
心臓に障害を抱えているジェシカが投薬だけで生きていられるという。
これひとつだけをとっても、高度な製薬知識と技術を有していることが分かる。
何故そんな技術があるのか、とリースがホークアイに尋ねれば、
「長い歴史に裏付けされた医療知識の賜物だ」
と、事も無げに言った。
元から高度な知識を持ちつつ、ナバールでは文明をリセットされる回数が少なかった。
そして、動乱期でも先人達が命懸けで知識と技術を守りぬいてきたのだろう。
ローラントの王女として真に悔しいが、認めざるを得ない。
ナバールの知識と技能は世界水準の医療を遙かに凌駕していると。
そして。
「……帝王切開という概念と、それを行える医師がいれば、お母様は今も生きていたのかしら?」
ぽつりと、リースが呟いた。
母体の腹を切って、赤子を取り出す。
それを聞いたとき、皆はなんとおぞましい所業だと恐れ戦き、シャルロットは胸の前で聖印を切って女神への祈りで悪魔の知識を忘れようと躍起になっていた。
それが普通なのだろうが、リースは違う。
弟の命と引き換えに亡くなった母を想い、それを有するナバールへ羨望と妬みを抱いた。
もし、もしも。
ありえないことだが、リースは考えてしまう。
もっと早くにナバールとの和平が叶い、ローラントの医療水準が上がっていたら。
そうでなくとも、ナバールから医師団を招けるだけの、良好な関係を築けていたら。
母は、生きていた。
今まで考えもしなかったもしもは、リースを容易く打ちのめす。
二十年前以上昔にナバールとの和平案が可決寸前までいった事実を鑑みれば。
防げたかも知れない母の死を、弟の世話で紛らわせた孤独な幼少期も。
運命だと諦めていたそれらが、避けられたかも知れないなどと……考えたくもない。

『短文集』20

短文

現在掲載しているジャンルと掲載数です。
ジョジョ 二部  2

















『成長促進』
闇の一族は三千年の覚醒期と千年の休眠期を経て、”一年”の歳を重ねる。
石仮面を被った影響でカーズとエシディシの休眠期は二千年に延びたが、それを超える恩恵は受けた。
ただ生態リズムが変われば、育児において大いなる打撃となる。
「この赤子共も後千年で休眠期に入るが……。カーズよ、本当にやるつもりか?」
「当然だ。氷河期が終わり環境が激変しているこの地上で、何万年も育児が出来るか」
人間の十年が大凡一日程度の闇の一族にとって、地上の変化は世界が加速して見える。
過酷な環境の中、育児に腰を据えられない二人に選択肢は二つだ。
赤子を捨てるか、共倒れるか。
カーズが選んだのは、どちらでもない道だった。
細い針を頭に刺し、脳を刺激して成長速度を極限まで早める。これは頭蓋骨が柔らかい赤子にしか出来ない処置だ。
五千年で赤子から大人に成長させる。
これを人間で例えるなら、生後半年の赤子を一年と少しで大人にまで急成長させるものだ。
そんな赤子が障害なく健康に育つのか?下手をすれば脆弱な不具者を二人も抱え込む羽目になる。
かといって、生態リズムの異なった二人が何万年も育児できるかとなれば、それは難しい。
ジョジョ 二部 カーズ+エシディシ (二千歳の赤ん坊からの成長速度がおかしく感じたので) 2019/4/30

『ある風景』
すりつぶした獣の肉を嫌がる赤子の口に含ませる友人に、エシディシは溜息を吐いた。
「おい、カーズ。肉が食えるようになるのは最初の休眠期明け以降だぞ」
赤子は生後二千歳まで母乳が必要だが、それ以降は大人からの皮膚接触でのエネルギー補給でも成長できる。
これが後少し遅く産まれていたら、育てることは諦めていただろう。
「む……。だが、早く育てるにはより多くの栄養を与えるのが」
「腹を壊して体調を崩すだけだ」
エシディシがカーズの腕の中にいる二本角の赤子を抱きかかえ、口内に指を入れて肉を吸収した。
闇の一族は細胞から消化液を出して、触れるだけで他の生物を補食する。
ただ、同族同士ではちゃんと接触ができる。それは彼らの細胞には特殊な細胞膜があるためだ。
故に他の生物の体内に入り込んでも、抜け出た際に血脂がつかない。
「皮膚間の補給か……俺はそのやり方を知らんぞ」
「赤子の場合は喉に触って、流し込む。それだけだ。
なに、難しく考えずとも本能で出来る」
ジョジョ 二部 カーズ+エシディシ (分担決めまであと少し) 2019/4/30

BOF4 未完 『神を捨てる』

未完

注意
もし何事もなくソン村で暮らしていたら…というパラレルです。
『短文集』18 での、フォウルが村から出ていく話です。












少女が畦道を走っていた。
フォウ帝国の農村特有の藁葺き屋根がぽつぽつと建つ村落の中を、息を切らせながら懸命に走ってゆく。
父母が止めるのも省みず、少女には行かねばならない場所があった。

小屋と呼んで差し支えのない家の前に着くと、肩で息をする少女が周囲を見回す。
まだ誰もいないのを確認して、
「ロン爺様!!」
勢いよく戸を開けた。

全てが一間に纏められた家の中に、一人の青年がいた。
ロンと呼ばれた人物は、爺様という呼称がつくにはあまりにも若々しい。
銀の髪をしているが、年老いての白髪とは異なる。そして、少女の髪も同じ色だった。

彼が大切にしまっていた行李の蓋が開いている。
青年は少女が今まで見たことのない衣装を纏い、既に身支度を終えていた。

「何故来た?」
「だって、ロン爺様が……」
青年の鋭い詰問に、少女が言葉を詰まらせる。
村に来てから数百年近い年月を経ても若々しい青年は化け物、物の怪と呼ばれ孤立した暮らしをしていた。
そして、ついに村人達は武力でもって青年を追い出しにかかろうとしている。
大切な爺様を傷つけたくない一心で、少女は逃げるなら今だと知らせたかった。

「おら、爺様と一緒に行く!!
年をとらないからって、爺様を不気味がって追い出そうとする村の奴らとは一緒にいたくねぇ!!」
「メイ、よさないか」
「……爺様……」
青年にとって、ソン村の住人達は須く守るべき存在だ。
彼を追い出そうとする者達は嘗て彼を受け入れてくれた人々の子孫であっても、帝国に裏切られた時のような失望と悲しみはなかった。
数百年経っても姿の変わらない化け物と思われるのも、仕方がない。
人間達の中でうつろわざるものが共に生きられなかっただけという諦めもある。
自分が身を引くことで、村人達が幸せに暮らせるのならそうしよう。
この村に暮らしていたのは、盟約に縛られてではない。彼の、フォウルの意志でこの場所にいたかっただけなのだから。

不老不死の彼から距離を置く子孫達の中で、少女だけは爺様と呼び慕ってくれた。
それで十分だ。

「私の願いは、ただひとつだ。
お前達が幸せに暮らすこと。それが叶うのなら、何でもする」
幼子をあやすように、少女の頭を撫でる。
最近は微笑むことすら稀になっていた爺様の笑みに、少女は涙が止まらなくなった。

LAL 小説 『パンドラの箱になりえるか?』

その他

注意
私的設定があります。












公式には謎の巨大生物の発生によって出動した陸軍が相打ちという形で巨大生物を倒したとされる事件。
あれから暫く経った現在、事件の当事者の一人である藤兵衛は、自宅兼骨董品店兼研究所でコーヒーを飲みながら書類を読んでいた。

「ふーむ……やはり、アキラの潜在能力は半端ない」
以前までは能力は多様ではあるが出力的に大したことないと侮っていたが、その評価は覆った。
今までもブリキ大王を動かそうとした超能力者は数多くいるが、全て失敗している。
”動かせはした”が、それだけ。その代償はあまりにも大きすぎた。
廃人になったのはまだマシな方で、操縦中に死亡するケースが圧倒的に多い。
無法松が亡くなったのは急性マタンゴ中毒もあるが、精神力だけでなく生命力も全て奪われたことが原因の一つとしてあげられる。
根性の一念のみで、本来動かせないブリキ大王を動かしたのは驚異的だが、それでも命が対価だ。
そのブリキ大王を自由自在に操縦してみせたアキラは。
何もなかった。
操作後に丸一日眠ったが、意識が戻ってからの経過を見ても後遺症一つなく元気に暮らしている。
無法松を失った精神的ショックから立ち直っていないようだが、それでも至って健康体だ。

「アキラの超能力は儂が考えている以上じゃ」
一時的な感情の爆発で動かせるほどブリキ大王は安くない。
そもそもブリキ大王は本来五人で操縦するものだ。
四人が補助に就き、主力となる一人が操縦する。
それを、たった一人で操縦しただけでなく、生きている所から見てもアキラの潜在能力の高さが窺えた。

「そういえば、昔、超能力の暴走で無法松を重体にしたという話を聞いたことがあるぞ」
以来超能力の威力が激減したという。とはいえ、それ以前のアキラを藤兵衛は知らない。
アキラに聞けば、超能力を使う時は感情に流されず冷静を心がけているという。
「あれか。いうならば今のアキラは巨大なダムでせき止められているようなものか」
僅かばかりの放出される力が普段の出力で、その殆どはトラウマも相俟って無意識に封じ込めているのだろう。
「完全に解放されたアキラの超能力……それは一体どれほどのものか」
藤兵衛にとって超能力は、科学者として、趣味として生涯をかけて研究している分野だ。
アキラの潜在能力の高さがどれほどのものかを知りたいという欲求は、あの日から日増しに強くなっている。
だが、それは抑え込まねばならない衝動だ。
これは勘という、あやふやなものでしかないが、それでも危険だというのは分かる。
もしかしたら人類史上最強の超能力者、かもしれないアキラの封印は解いてはならないだろう。
そうでなければ、パンドラの箱をこじ開けるに繋がる。

聖剣伝説2 小説 『短文集』4

聖剣伝説2

短文集に掲載している「聖剣伝説2」の話が40個以上になりましたので、その分纏めてこちらに掲載します。
尚、此処に記載する話は『短文集』にあるものを一部修正したものです。。



参照
『短文集』16、17、18、19








内容の系統
四天王話     4
ランディ一行話  1
その他      6










注意
一部私的設定があります。


『短文集』16

『鼻血体質の中年騎士はどうですか?』
注意
ジェマのキャラがぶっ壊れてます。

ぶはぁっ。
凄まじい音を立てて勢いよく噴出した鼻血と、仰向けに倒れるジェマをルカ・ルサが呆れきって蔑みすら伴った眼差しで見下ろす。
「…ロリコンめ」
心臓に深々と突き刺さる眼差しと言葉に、ジェマの残り少ないHPが一桁になった。
恋し愛する者を前にして、平常心を保てぬこの心。年若いお前には分からぬかも知れぬ。
だからこそ、言わねばならぬことがある。
「………わしは、ロリコンではない……」
「ホウ」
凍える毒を孕んだ冷ややかな声で返されたが、めげずに続けた。
「俺は……ルカコンだ」
最後の力を振り絞って誤解を解くと、安堵したのか意識が底なしに堕ちてゆく…。

白目を剥いて意識を失ったジェマに少女が溜息をつくと、その姿が変わってゆく。
腰まで流れる艶やかな藍玉の髪は漆黒の髪へ。宝石のようと賛美される紅の瞳は黒曜石の瞳へ。太陽を知らぬ白い肌は、健康的な肌色へ。
神秘的な美しき巫女から、端整な美少年の忍びへと。
瞬く間に変化すると、未だ鼻血を流し続けるジェマの姿に頭痛を催されて額に手を当てた。
ジェマ+クロウ(オリキャラ) (ジェマ→ルカ前提で、鼻血体質の対策兼治療の一幕)

『かの騎士の秘密』
「ハハハッ! ジェマも剣を落とすってことだな!」
セルゲイは朗らかに話しながらベッドの脇の椅子に腰掛けた。
貴族と平民という身分の隔てを超えた友人はいつも容赦ない。
あんまりな物言いに、ジェマは乾いた笑顔を貼り付けつつも複雑な心境になる。
本当のことなど死んでも言えないのでクロウに適当な理由を伝えてもらったが、それは剣士としてのジェマからすれば顔を顰めたくなる内容だ。
しかし内外の者達に一番納得してもらえる内容でもあった。
例え剣士としてのプライドが少々傷つけられても、ジェマ本人の名誉ためには大したことではない。
……どうして、真実を誰かに言えようものか。
初恋の女性への鼻血対策兼治療のために友人の忍びに変化して色々と協力してもらった挙句、鼻血の海に身を沈めたことを。
それで死の淵を彷徨ったことは、誰にも知られたくない黒歴史であり、墓場まで持っていく極秘事項だった。
ジェマ+セルゲイ (『鼻血体質の中年騎士はどうですか?』の後日談)

『誘惑』
潤む藍玉の瞳に魅入られたように、言葉が出なかった。
妻以の女性に想いを寄せる自己嫌悪と、彼女の恋慕には決して応じられない罪悪感を抱く。
「ランディ…」
名前を呼ばれて我に返った時にはクリスの手が彼の頬を優しく包み込んでいた。
「クリス。僕は君の気持ちに応えられない」
鼻先が触れる前に、ランディは優しくクリスの手を下ろして、首を横に振る。
初恋の拒絶に女性は息を呑んで、絶望と悲哀に瞳を揺らした。
懸命に涙を堪えて俯き背を向けるクリスに、ランディがしてやれることはない。
ランディ・クリス (EDの数年後でランプリ前提のクリス→ランディ)

『カルチャーショック』
ジェマと側仕えの男は思わず声を失った。
金髪を短く切り落としているだけでなく、男の装いで剣を帯びてその扱いにも慣れている様子は彼らの常識からすれば異常だ。
恭しい素振りやお辞儀もなく、女のしとやかさは微塵もない代わりに男のように大胆に彼らと向き合っていた。
世界各地を旅するジェマでも驚くのだから、タスマニカから滅多に出ない側仕えには理解不能の狂人の域だろう。
しかしクロウはごく自然に差し出された手を取り、力強く握手を交わしてから、動揺の真っ只中にあるジェマ達の代わりに自己紹介をしあった。
それを見て新たなるレジスタンスのリーダの態度は、東国系列の国々では驚くに値しないのだとわかって、ホッと息を吐く。
ジェマ+α (数年前のジェマとクリスの初対面時)


『短文集』17

『嫉妬』
ファウナッハが冷厳たる眼差しで捕らえられても威厳ある女を見て、歪んだ笑みを貼り付ける。
尊敬するタナトスから聞かされていたアルテナの大魔女に一度会ってみたかった。
何故と問われれば、好奇心だ。
決してゲシュタールが言うような嫉妬ではない。
嫉妬とは、劣等感や自信のない者が持つものだというのがファウナッハの考えだ。
対して彼女は今までの人生で培われてきた自信があり、魔力も美貌も地位も恵まれている。
同じ只人に嫉妬を感じる理由などないのだ。
ならば、何故此処まで興味を持つのか。
タナトスが珍しく褒めて、シークが感嘆の思いを口にした。
彼女の尊敬し、認める者達が高く評価した”偉大なるアルテナの魔女”
本人ですらも気づかぬ深層心理では、その存在をこの手で葬りたいと、強固な矜持に隠されながらも願っていた。
ファウナッハ (滅多に嫉妬しないけれど、嫉妬すれば激しく根深い) 

『時代と共に変わるもの』
まだ若い癖に髭を生やした姿を見て、ゲシュタールは露骨に顔を顰め、シークは冷ややかな眼差しに嫌悪を滲ませた。
ファウナッハなど見るのも汚らわしいとばかりにそっぽを向いている。
タナトスはと言うと……仮面をしているので表情はうかがい知れないが、語り口調は明らかに見下したものとなっていた。
四天王 (2時代での若者が生やす髭への社会通念)


『短文集』18

『教養の一つ』
「月が綺麗だ」
それはシークを必ず黙らせる言葉としてタナトスから聞かされた台詞だ。
どういう意味かと問えば、東国の古典知識の一つだという。
東国系列のヴァンドールでは教養があれば知っている言葉遊びなのに、何故貴族の君が知らないのかが不思議でならないとも言っていたが、それは無視した。
昔から興味のない事は殆ど覚えない性質なので、ただ記憶に蓄積しなかったに過ぎない。
同僚からは無学者と誤解されたくなければ教養の一つとして学び直せと煩く言われているが馬耳東風だった。
もしもゲシュタールの記憶の片隅にでも古典教養が残されていれば、この後の事態は確実に避けられたであろう。

「月が綺麗だ」
先程までは激しく口論を繰り広げていたシークは、即座に黙った。
凄まじい効果に感嘆し、認めたのも束の間。
おぞましく奇異なものでも見る眼差しと共に、容赦なく頬を叩かれた。
ゲシュタール+シーク (二人の黒歴史)

『Evasion』
タナトスがジッとシークを見つめて、一言。
「シーク。 モフらせなさい」
ギョッとして珍しく音を立てて後ずさるシークの腕を力強く掴んだ。
瞬く間に血の気が失せていくシークの目を見て、更にもう一言。
「私はただ、あれをモフモフしたいから君の許可を得たいのだよ。
勝手にモフるゲシュタールに比べて、良心的だとは思わないのか?」
シークが拾った獣人に悪意や害を加える気はない。あるのは珍獣への興味だけだ。
しかし、彼はキッと鋭い眼光でタナトスの意思を跳ね除けた。
素早くタナトスの手を振り払うと、そのまま掻き消えたシークの姿に舌打ちをする。
「………逃げても無駄だよ、シーク」
タナトス+シーク (『beast』の没シーン) 


『短文集』19

『異なる文化』
パンドーラでは、教育は特権階級と富豪のみに許されたもので、一般の人々にはその機会すら与えられていなかった。
それどころか、選ばれたもの以外が学問を志そうとすれば罪に問われて処刑された時代もあったという。
そのような国柄故に、貴族のプリムは別として、ランディは文盲である。そして優秀な仕官候補であったディラックも、プリムとパメラに文字を教わるまでは読み書きは全く出来なかった。
彼らにとって教育は人々から乖離した存在だった。
だからこそ、ヴァンドールのように身分や貧富関係なく教育や学問が民衆の中に深く浸透しているというのは、ランディとプリムの”常識”からはとても信じられない事象だった。
(パンドーラの文明水準だと識字率は低いのでは?)

『幕開け前』
「セリン。本当にタナトス達を倒せるの……?」
「大丈夫だ。マナの剣でタナトスと皇帝を倒せば、また家族三人で暮らせる」
不安に駆られる妻を安心させるべく、抱きしめた。
マナの剣を以てすれば、不死者達を殺せる。
その奢り故に、セリンは身を滅ぼした。
マナの剣で心臓を貫かれても、タナトスにとっては取り込んできた魂の一つを消費したに過ぎない。
唯一タナトスを倒す方法は、乗り移る際に肉体を捨てた時に聖剣で斬るのみだ。
悲劇が、これから幕を開けようとしている。
セリン (ランディがポトス村に置き去りにされる前) 

聖剣伝説FF外伝 未完 『沼の洞窟』

未完

注意
私的設定が強い話です。
2→FF外伝という時系列です。

ヒーロー=デュークです
ヒロイン=エレナです。













物理攻撃の効かない魔物を炎の魔法で倒す。
旅の男、否ジュリアスが今使っているのは、魔法道具によるファイアだ。
二千年前にマナの激減によって精霊魔法が途絶えた後に興隆した疑似正術は、使用者の寿命と引き換えに魔法を行使する。
文字通り命がけの術だ。
故に、ジュリアスは魔法を使うべき時を心得ている。

人の命を用いて作られた魔法道具は、知る人ぞ知る代物だ。
魔導士でなくとも魔法が使用できることから需要は高いが、素材と技術の問題で量産はされていない。
一部では人道的観点から廃止にすべきだと言われており、摘発も行われているらしい。
マナの抽出に人間を使うのは合法なのに、魔法道具の素材とするのは違法なのはおかしな話だと、シャドウナイトは笑っていた。
今ジュリアスが使用しているのは独自に作った魔法道具だ。
バンドールを復興した暁には、下々の命を魔法への研究に投資する。

僅かな油断。それがジュリアスを傷つけた。
雑魚に顔を傷つけられたという怒りのあまり、自前の魔法で魔物を返り討ちにする。
こんなことで寿命を削ってしまったと自己嫌悪にかられつつも道具袋からポーションを取り出すが、それは使われなかった。
デュークの手がジュリアスの傷口にかざされる
「ケアル」
暖かい光が患部を包み、傷を癒していく。
「…………あんた。なぜだ?」
寿命を削ってまで、見知らぬ他人を癒す。その理由がジュリアスにはわからなかった。
旅人の男を助けても得も見返りもない。何よりポーションがあったのだからわざわざ命を削る理由にはならない。
こいつは何を考えているのか。助け合いの精神?そんなもののために寿命を引き換えにしたのか?

「困っている奴がいたら助けるのは当然だ。
この先何が控えているかわからないんだ。なるべく回復アイテムは温存しておいたほうがいい」
用心した挙句、自身の命を削っている。
……馬鹿じゃないのか?
「……あんたという奴は、とんだお人よしだな。
度の過ぎた親切は、遠からずあんたの身を亡ぼすことになるぜ」
「それでも、なにもせずに人を見捨てるよりはずっといい」
デューク自身、剣奴時代によく偽善やただの自己満足だと罵られた、嘲笑われた。
善人ぶるつもりはないが、見て見ぬ振りをする卑怯者にはなりたくない。
自分の力の届く範囲で、出来ることをする。
旅の男の傷を治したのも、出来る範囲だったからだ。

「……あんた、魔法の常識を知っているか?」
「精霊への感謝だろ?」
嘗てウィリーが教えてくれた精霊魔法の心得を答える。
エレナが教えてくれた魔法がどの精霊の管轄に当たるか分からないが、ヒールウォーターという魔法があったのだから、水の精霊だろうと考えていた。

魔法を使っていながら、その特性を知らないとは。
とんだお笑いぐさだ。
いっそのこと、お前の使っている魔法は疑似正術という寿命を対価に行使する術だと教えてやろうかと思う。
さすれば、軽々しく旅の男に回復魔法を使った自身の判断を呪い、八つ当たりをするだろう。
「あんたの使っている魔法は……」
途中で口をつぐむ。
教えた所で、この男は動じない。
偽善者は信念に基づく殉教というのを好む。それを与えるのは癪だ
「……とても筋がいい。これからもどんどん使っていくといい」
ならば、何が起きたか分からないまま突然死ぬ方がいいだろう。

ジュリアスは知っている。
疑似正術は命を削る禁断の魔法であると。人間には過ぎたる力だと。
エレナは勘違いしていた。
元々疑似正術はマナの血族が敵を排除するために、尖兵とした只人に広めた術だ。
クォーターとはいえマナの血族である彼女は、寿命を削らずに己が力のみで魔法を行使できる。
幾らでも無制限に使えるといってもいい。
ケアルしか覚えられなかった落ちこぼれの自身がそうなのだから、全ての人がそうなのだと思い込んでしまう。
だからケアルの魔導書を渡すときに、デュークに教えなかった。
魔導士ならば誰もが知っている常識を、デュークは知らない。

彼が本当に只人ならば、旅の半ばで命を落としていただろう。
この世界に現存する全ての疑似正術を使いこなせるだけの、魔力の持ち主。
どこまでも際限なく強くなれる肉体。
人間でありながら、人間でない。
そういう存在を、闇の一族と呼ぶ。

聖剣伝説2 未完 『値引き不可』

未完

注意
私的設定があります。
ワッツ→ランディがあります。














ヴァンドールに着いてから、出費がかさんでいた。
パンドーラに比べて、ヴァンドールの物価は遙かに高い。
回復アイテムなどは世界一律で決められているが、それ以外はランディ達にとって目玉が飛び出るほどの高値だ。
クリス曰くヴァンドール系列のゴールドシティなどはここよりも物価が高いという。
ゴールドシティは大砲屋もない孤島らしい。ならランディ達が訪れる機会はないだろうが、そんな所に行きたくないというのが三人の共通認識だった。

主な出費は装備や武器Lvアップなどに費やされる。
懐は寂しく、魔法のクルミすら満足に買えない。
これは、死活問題だ。

一行の財政を担うプリムが頭を抱えた。
計算機片手に家計簿を睨み付ける。
村育ちの百姓と、記憶喪失の妖精では計算が覚束ないため、貴族の令嬢のプリムが財布番となった。
当初はランディ達もプリムが散財するのではないかと危惧したが、彼女の財布の紐は意外に固く倹約家だ。
ただ、そんな彼女にも唯一浪費するこだわりがあるのだが……。

「……どこか削るしかないわね」
「下手に装備をケチったら、何度も地獄を見るぜ」
プリムのぼやきを耳ざとく聞きつけたポポイが苦言を呈する。
マタンゴ村でプリムは装備品を買わなかったせいで、フラミーを救助するまでに何度も逃げ帰る羽目になったのだ。
そもそもあの時に装備品を買わなかったは、プリムの散財があったせいなのだが。
「回復アイテムといっても、魔法のクルミは外せないわよ。天使の聖杯を削るのも危ないわね……」
「あのさ、プリム……」
うんうんと唸り思案するプリムに、ランディが恐る恐る手を上げる。
「なによ?」
「だったら、武器の出費を抑えようよ。
レベルを上げるのだって多額の資金が必要だから、お金に余裕が出来た時に改めてやってもらったらどうかな?」
「嫌よ」
即答だった。
「私、武器Lvを上げてるんだから、四季の森のようにレベルが途中で上げられなくなるのは嫌なのよ」
プリムの唯一の散財。それが、武器を鍛えるためにワッツへ投資することだった。

「こうなったら、店で装備品を値切るしかないわね……」
「プリム!?」
「ネエちゃん、なに言ってるんだ!?」
貴族としての矜持をかなぐり捨てたプリムに、ランディとポポイが声を上げる。
「そうと決まれば、善は急げよ!!
さ、行くわよランディ、ポポイ!」

不機嫌きわまりないプリムが八つ当たりするように足に力を篭めて進んでいく。
触らぬ神に祟りなしとはいえ、放っておく訳にもいかずランディ達は早足で追いかけた。
プリムは武器屋で値引きを強行したが、結果は惨敗だ。
恥ずかしいから辞めるように説得するランディ達を押しのけて挑んだが、相手は商い慣れしていない貴族の小娘よりも遙かに上手だった。
武力による強硬手段に打って出かけたプリムだったが、強盗扱いされ衛兵を呼ばれては引き下がるしかない。
辛うじて逃げ出したものの、当分は武器屋に近づけなくなった……。
「あの商人、あたしを挑発したからつい、手が出ちゃったの。
……ごめんなさい」
「もう、いいよ」
「……こうなったら、武器の方を値切るしかないわね」
「ネエちゃん……まだ諦めてなかったのか?」
「そもそも、プリム。君がサウスタウンで装備一式を買わなければ、ここまで財政難になることはなかったんじゃないか?」
「一割引に踊らされて、とはいうけど……。あそこの商売人もタフだな」
「う……」
痛い所を突かれて、プリムが押し黙る。
マタンゴ村での経験を踏まえて、サウスタウンで装備一式を買い求めたのだが今回はそれが裏目に出てしまった。
でも、誰が想像するだろうか。サウスタウンとノースタウンで、装備の性能が明らかに違うと!
違う国なのにカッカラ王国とトド村では装備品が同じだった。ならば国内の街でも装備品が同一だと判断するのは間違っていないはず。
プリムにしては色々と異議を申し立てたいが、今の財政難を作った原因が彼女の判断にある以上、強くは言えなかった。


武器屋にも行けず、お金がないため宿屋にも行けないランディ達にとって一休みする場所はクリス達レジスタンスが営むカフェだった。
「カフェに来たのに、水だけしか頼めない私達って明らかに冷やかしよね」
プリムの自嘲に、ランディはなんとも言えない。
クリスはランディ達の経済苦を悟って、メニューを安く提供してくれると言うが、ここの二階は孤児院も兼ねている。
色々と出費がかさむレジスタンス達に、そこまで面倒を見てもらうほどランディ達は厚顔無恥でなかった。
そんなことをつらつら考えていると、カフェの隅にいるはずのない人物を見つける。
「ワッツ!?」
「やあ、ランディ。君達が武器屋で騒動を起こしたから、あそこにいたんじゃ君に会えないと思って一時ここに引っ越してきたんだ。
さーて、ところで武器パワーは溜まってるかな?」
「あのさ……ワッツ。そのことなんだけどね」
ランディが言葉を濁した後、プリムに視線を向ける。
「ねえ、ワッツ。私達これまであなたに大金を払ってきたわよね?
だから、今回は少し値引きしてくれない?」
プリムが手を合わせて上目遣いに媚びを売るが、ワッツは。
瞬きの間、阿修羅の形相に変貌した。
あまりの早業に目の錯覚かと疑うランディがワッツの顔を見つめるが、彼はいつも通りの表情だ。
ただ、放つオーラーが……とても怖い。
「嫌だよ」
懇願から拒絶まで、僅か3秒。
プリムが更に値引きを続けようとするが、ワッツは手で制して黙らせる。
「君達は高いと言うけどね、武器Lvが高くなるにつれて加工が難しくなっているんだよ。
それに、代金の中には僕と道具一式の移動費も含まれているんだよ。1ルクだってまけられない。 わかる?」
「……なあ、ワッツ。オイラずっと気になってたんだけど……」
ポポイがワッツの目を見上げて、ついに禁断の質問をする。
「……あんた、一体どうやってオイラ達の先回りしてるんだ?」
行く先々に必ず先回りしているワッツは、ランディ達にとって世界七不思議の一つに数えられていた。
何故?どうやって?と疑問は尽きず、不気味とすら思いつつも便利さ故に放置していた問題だ。
ついに答えてくれるかと期待を込めた視線を三方から注がれても、ワッツは、
「それは企業秘密」
黙秘権を行使した。

「本当は1ルクだってまけないけど……ひとつ条件がある」
「なに!?」
目を輝かせるプリムに、ワッツが笑う。
ワッツも笑うのかと奇妙な感慨を抱いたランディの手を、ワッツの手が包む。
「ひっ!」
思わず声を上げたランディの反応を楽しむように、ランディの手を撫で回した。
「ランディ。初めて会った時からすっかり頼もしくなったね」
ランディの手とワッツの手を絡める。ランディの全身に毛虫が這いずり回る悪寒が走った。
「もし、ランディが手伝ってくれるなら半額以下にしてあげてもいいよ」
手を放そうとするが、ワッツの力は強くて離れない。
このままでは両手を切り落とすしかないと追い詰められた頃合いにワッツが手を放す。
「本当!?」
手を洗いたい衝動に駆られるランディを尻目に、プリムは乗り気だった。
「嫌だ!!」
このままでは何をされるか分からない、そんな危機感から叫ぶ。
プリムが口を開く前に、その場から命懸けで逃亡した。

「もう、何なのよランディったら。ワッツの用件を聞かずに出て行くなんてあり得ないわ!」
訳も分からず突如逃げ出した仲間に憤慨するプリムに、ワッツは頷いて同意する。
「あのさ……ワッツ。
今後のお互いのために、これからは適切な距離でいこうぜ」
「僕としてはもっとガンガン行きたいんだけど……駄目かな?」
「ニイちゃんが嫌がっているんだから、駄目だろ!!」
「そっか……じゃあ、しょうがないね。
悪いけど、まける話はなしにするよ。 お金が貯まったらまた来てね」

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