試行錯誤

聖剣伝説をメインに、気の向くまま二次創作を綴っていくサイトです

聖剣伝説3 未完 『旅の終わり』

未完

注意
私的設定があります。











白装束を身に纏ったホークアイの姿を一目見て、フレイムカーンはそれが喪服であると共に死に装束だと看過した。
「……ホークアイ、何のつもりだ?」
平伏したホークアイに問う。
髪を短く切り、喪の色である白一色に包んで、この場に現れる理由。
聞かずともフレイムカーンにはもうわかっていたが、否定してほしいという微かな希望から問うた。
「同胞を殺めた者には死を。 それがナバールの掟であり、法です。
オレはビルとベンを殺め、ローラントにいた駐屯兵を殺しました。
この命を以て、その責を負います」
粛々と言い終えると、首を差し出すように頭を垂れたホークアイに、フレイムカーンが深く重い吐息を吐き出す。
「……馬鹿者が。
イーグルを死なせたことか、ビルとベンを殺めたことか?
馬鹿馬鹿しい!あいつらは美獣に殺されたのだぞ!断じてお前の責任ではない!!」

「お前は、わしにもう一人の息子を死なせるつもりか?
お前を処刑したところで失われた命は戻ってこない。ならば、生きてナバールのために貢献して、その責を果たせ!」
ハッとホークアイが面を上げる。どこか焦燥の滲んだ顔だった。
「ですが、フレイムカーン様!それでは……!!」
さらに続けようとしたが、フレイムカーンの鋭い眼光に威圧されたように口を閉ざし、深々と頭を下げ直した。
「ホークアイ、面を上げろ」

「わしはお前の両親に、必ずお前を幸せにすると誓ったのだ。 それを破らせるな。
お前を死なせたとあらば、イーグルのことだ。極楽から現世に舞い戻って、お前の両親共々わしの枕元で延々と恨み言を吐き続けるだろう。
あの三人に、死後も尚恨まれ、憎まれるなんぞわしはごめんだ」

「ホークアイ。イーグルとビルとベンを殺したのはイザベラだ」
「……ビルとベンは……」
「妖魔に寄生されたら最早人間ではなく、ただの生きた傀儡よ。 寄生された時点で、あいつらの人間としての命は終わっていた。
ホークアイ、ビルとベンを妖魔から解放してくれたことは、わしから礼を言おう」
「ですが……!」
ホークアイの抗議を手で制し、黙らせる。
「ローラントに駐屯していた者共はナバールの人間であっても”血の同胞”ではない」
ホークアイのそばに歩み寄り、彼の肩に手を置き、立たせる。
「お前がイーグルとビルとベンを殺していない以上、お前は同胞殺しではない。
ホークアイ、お前を死罪にする理由などなにもないのだ」
「…………フレイムカーン様」
フレイムカーンのあからさまな言葉に失望よりも、無性に哀しみを覚えた。
これ以上その目を見ていられずに、目を伏せた。
例え許しを得られたとしても、ホークアイは覚えている。
イーグルを切った時の感触を。ビルとベンの命を奪った手応えを。ナバールで共に生きていた仲間を殺めた時のことを、全て覚えている。
フレイムカーンのように、割り切り、切り捨てることなど、どうして出来ようか。
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聖剣伝説 『女神の騎士』 小説 【短い曲の物語】9

聖剣伝説 『女神の騎士』

注意 短文集です。
『女神の騎士』シリーズは独立したパラレルシリーズである以上、『短文集』での分類が難しいので、このような形で分けさせていただきます。
これに限っては聖剣シリーズの曲目を題に140字以内で10個纏めて更新します。





















『脅威』
妖魔と体を共有することで強大な力と不死を手に入れられたが、その代償はあまりにも大きかった。
どんなに掬い上げても指の間から流れ出ていく水のように、日々失われていく記憶。
忘れないように思い出しているが……。いずれ、それも叶わなくなるだろう。
(ゲシュタール)

『滅びの大地』
海神ブースカブーが一行を運ぶのは、大昔に滅びた国。
闇のマナストーンが眠る地は、瘴気に満たされた穢土だという。
「……私達がタナトスを倒せなかった場合の、後の世界の姿でもあるわけですね」
「そうならねぇように、これから行くんだろう」
(シャルロット+デュラン)

『女神の息吹き』
マナ帝国が滅びた世界に降り立った女神は。
荒廃し、生命の気配が乏しい大地を一から作り替えた。
狂奔した神獣によって完膚なきまでに破壊された世界は、終焉を迎える。
(マナの女神)

『ゴッドレス・ゴーレム』
極寒の大地に眠る遺跡から発掘された太古の遺産。
未知の金属で作られた理解不能のオーパーツを前に、人々は好奇心と欲に目を輝かせる。
操縦者―神のいないゴーレムは、ただの鉄塊に等しい。
(二部)

『浄夜』
マナの女神がこの世界に現出したという神聖な生誕日。
丸一日かけて行われる大祭の最後を締めくくるのは、聖都を鮮やかに彩る魔法の灯、らしい。
穢れとされる少女は、聖誕祭を見ることが許されなかった。
(シャルロット)

『氷と雪が奏でる歌』
支配国の重石がなくなり、世界に覇を唱えるために結ばれたロリマー皇帝とアルテナ王女との結婚式。
野心に燃える熱き皇帝とは対照的に、王女は氷のように冷ややかで、華々しい場に不釣り合いだった。
(アンジェラ)

『冷たき鼓動』
触れた体は冷たく、少女の胸に耳を当てても鼓動は聞こえない。
死体が、マナの種子の力で生きているかのように、動いている。それだけ。
生命の宿らぬ体に、この方は本当に死人なのだと、ジェマは泣いた。
(ジェマ)

『Solitude』
永遠の時を生きる青年は、誰も寄り添える者もなく、唯一人だけで終わりに見えない旅をする。
(一部から二部の間)

『闇のこだま』
乗り移りを繰り返していく度に、頭が軋む痛みと共にノイズが聞こえる間隔が狭まっている。
『返せ、命を、体を』
ノイズを言葉に置き換えると、こんなものか。
未練たらしく喚き立てるだけの亡霊に、タナトスはわざわざ煩わされない。
(タナトス)

『Pure Smile』
シャルロットは初めて出会った幼い頃から、年老いた今に至るまで、ミックの太陽だった。
だからこそ――。
「ヴァンドールの狗よ。 ミック・シーバ最期の相手を務めてもらうぞ」
私の天使のためならば、老い先短いこの命など、惜しくない。
(ミック)

聖剣伝説3 未完 『呪術師の怒り』

未完

注意
私的設定があります。
2→3の時系列です。
ベルガーの中の人が某呪術師です。











ギガンテス。
アルテナの空中要塞の名前を知った仮面の導師の中で耐えがたい憤りが湧き上がり、アルテナ人への殺意に変わる。
「おやおや、これはまた大きく出ましたネ」
愉快そうに笑う死を食らう男の愉快そうな笑い声が耳に障り、導師の神経を殊更逆立てた。
「…………只人というものは、つくづく人の神経を苛立たせることしかしない生物だ」
神話になぞらえて作られたアルテナの最新空母は、マナの文明を継ぐという宣言を込めてギガンテスと名付けられた。
ああ、なんと腹立たしい。
思い上がりも甚だしく、無知で身の程も知らぬ連中は、存在しているだけでも不愉快。

世界の真理を解明したことにより神々の怒りに触れて、神獣がこの世界に遣わされた時代とは、何もかもが違う。
文明も知識も遠く及ばない、例えそれらがあったとしても、根本的な土台が欠けている。
何よりあの頃は正術を行使できる種族が世界を、宇宙を統治していたのに今では全て絶滅して、代わりにこの星にいるのが只人だけ。その時点でかつての文明を再現しようと考えるなど、最早言葉も出ない。
脆弱な身体と、塵程度の魔力しかない只人が、自らの分を忘れ傲慢になった姿はおぞましい。見るに堪えない醜さだ。
只人は、只人らしく地を這って死ね。
「ヒース、死を食らう男よ」
重々しい声に、ヒースと死を食らう男が深々と頭を下げる。
「テルーマの鉄槌だ。 やれ」
「ちょ、ちょっとお待ちを! それは何です?」
「……古代の神話ですね。 マナの一族がマナ抽出の技術を得ようとした傲慢なラバラス人に与えた罰」
ヒースが淡々と答える。
マナの女神信仰が根付いた現代では、それ以前の宗教は異教とされている。古代神話もその部類で、宗教都市ウェンデルでは古代神話を調べただけでも、一族全員が火あぶりに処される極刑だ。
この時代の人間は無知蒙昧、無教養の愚者しかいないが、ヒースが多少なりとも物を知っていることに”彼”は満足して、ベルガーは誇らしく思っていた。
それにしても、何故何万年も生きている死を食らう男がこのことを知らないのか?それが導師には解せない。
「……導師様。テルーマの鉄槌とは、どのような話で?」
「簡潔に言えば、ラバラス人の国にテルーマという罪人を収容した空中都市を墜落させて、双方を滅亡させた話です。
神の怒りに触れる行いをすれば、天罰が下るという、そんな話です」
「ちょっと、ワタクシはアンタに聞いてるんじゃありませんヨ!
……にしても、その話からすると二万年以上昔の出来事ですよネ。当時の国と都市の人口を考えたら………ああ!なんて勿体ないことを!その時にその場にいたら、たらふく食べられたのに!!」

「それでは、どこにギガンテスを墜としますか? アルテナ?フォルセナ?それともウェンデルにいたしましょうか?」
災害によって生じる死者の魂を想像するだけでも、涎が流れてくるのを我慢して、死を食らう男は嬉々と尋ねる。
「私個人としてはアルテナに墜としたいのだが……さて、どこがよいものか。 ヒース、君の意見も聞かせてもらおうか」
「父上。これを機会に邪教の都を消し去りましょう。
アルテナの空母がウェンデルを潰す。 神話のように、罪人同士を一緒に消し去りましょう!!」

「死を食らう男よ、その”ガラクタ”を墜落させよ。
死者の魂は……」
「ワタクシの取り分は勿論、10分の9で」
「おや、10分の1でいいとは。 君は実に謙虚だね」

聖剣伝説 『女神の騎士』 小説 【短い曲の物語】8

聖剣伝説 『女神の騎士』

注意 短文集です。
『女神の騎士』シリーズは独立したパラレルシリーズである以上、『短文集』での分類が難しいので、このような形で分けさせていただきます。
これに限っては聖剣シリーズの曲目を題に140字以内で10個纏めて更新します。





















『永遠の別れ』
「またな」
身分も、国の等級も異なる、本来なら出会う筈のなかった三人は。
もう二度と交わらぬ道へと帰り、または新たな道へと進んでいく。
(デュラン)

『Little Sweet Cafe』
「リース」
緊張で固くなっている少女の心を解すように、微笑みかける。
少女の顔がぽっと朱に染まり、彼に見られまいと顔を逸らす。
わかりやすい反応に、ホークアイが笑う。
「お茶にしよう」
(ホークアイ)

『懐かしき歌』
「その鼻歌、よく口ずさんでるわね」
好奇心を湛える少女に、青年は首をかしげた。
人間だった頃のことを忘れていく中で、これだけは忘れまいと毎日歌っていたおかげで覚えている歌だ。
しかし、この歌に付随したであろう記憶も、感情もとうの昔に失われている。
(二部)

『伝説』
「ヴァンドールの支配者は不老不死だったと伝えられているが、それは権威を増すための誇張だ。
神皇帝も三柱も称号というのが、現代の定説だ」
「しかし、伝説では同一人物だと」
「それは根拠もない伝承に過ぎない!
では聞くが、人間がどのようにして何千年も生きながらえるというのだ?」
(一部から二部の間)

『還らざる道』
王よ。あなたは許せと仰せられた。しかし私は貴方を死に追いやった輩を許せない。
王を裏切った不忠の輩は皆私が始末しました。残すは、三人だけ。
三柱は貴方の仇、そして我が主を食い殺した敵。
(三柱の影)

『賜りし絆』
「ホークアイ」
イーグルが眠る赤子の手を握りしめる。
両親を支配国に殺され、王は憎しみを呑み込むのに精一杯で、孫を省みる余裕はない。
「オレが、お前を守ってみせる」
額を重ね合わせて、己と赤子に誓った。
(イーグル)

『その心のままに』
「人生は、自分の手で選び取るものだ」
押しかけ女房となった妻は、故郷も許嫁も捨てて彼の元に来た。
戸惑いと困惑。そして喜びの渦中にいたガウザーへの、プロポーズ。
(ジェレミア)

『マナのもとへ』
長らく彼をこの世に留めていた使命を終えた今、輪廻の輪に飛び込む。
漸く、遙か昔にマナの元へ還った人々を追える。
あまりにも遅すぎる旅路故に、見つけられるかもわからない。
それでも、永遠の時を捧げて、大切だったであろう者達を探し続けるだろう。
(二部)

『戦友とともに』
一万年を共に現世を漂泊してきた相棒の煌めく刃に頬を寄せ、間もなく終わると呟く。
狂った女神との戦いが、間近に迫っている。
(二部)

『悠久の草原』
草原が風に波打ち、草木が生い茂るこの地が、かつて荒野だったと誰が信じるだろうか。
汚染された土地は一万年という歳月をかけて、生命の育む地へと浄化していた。
そこに立つ青年は、荒野だったこの地に生まれたことも、ここに骨を埋めたかったことも。
全て忘れている。
(二部)

聖剣伝説HOM 未完 『閉じた会話』

未完

注意
私的設定があります。
ペダン、ウェンデルについての捏造があります。
時期的には四話の直後です













ナイトソウルズのコクピット。そこは飛行技師であるジェレミアにとって聖域と呼んでも過言ではない。
いつもは緊張しながらも意気揚々と操縦しているが、今の彼女の表情はどこか暗い。

「ウェンデルに行ったところで、どうにかなるのか?」
ロジェは乗り気だが、ジェレミアには不安と疑念しかない。
「辛辣ですね」
やれやれと肩を竦めるユリエルに、ジェレミアが眉根を寄せる。
「隊長やロジェもウェンデルのことを高く評価しているが、連中は宗教の皮を被って国政にとりつき人頭税を強要する寄生虫も同然だぞ」

国はウェンデルが承認して初めて国家として認可される。
その代わり多額の上納金や政治的介入を受け続けることになる。また民衆にマナの女神の祝福を与えるという名目で、各国から人頭税を徴収している。
ナバールはどちらも拒否しているから公式的に国家として認められない代わりに宗教介入を防いでいる。ペダンはといえば、金は払っているが神官の入国や国政への介入は一切許してない。
しかしビーストキングダムを除く他国では国政にまでウェンデルの神官や関係者が深く介入しており、ウェンデルの意に添った政が執り行われている。
そのような実態を知るジェレミアからすれば、信用しろというのが無理な話だ。

「そんなことは知っていますよ。
ですが獣人差別の根強く残る他の国よりも、まだウェンデルの方がマシです」
「……そうだといいんだが」

「はあ、そんなに信用できませんか」
何を言うのかとユリエルを見る。
ウェンデルは人頭税と上納金に飽き足らず、ペダンの国政にも執拗に介入しようとしている。それだけならばまだ我慢できる。しかしペダン独自の宗教を異教と蔑み、根絶しようとしている。
そんな連中のことなど、とても信用できない。
「私から言わせれば、信頼できて背中を任せられるのはナバールだけだ」
「だからこそ、ナバールは危険なのです」
首を振り、眉根を寄せたユリエルにジェレミアは何を言うのかと訝しげに見る。
「ペダンはかつて世界を牛耳ったといえど今は小国。全世界相手に喧嘩を吹っ掛けるには戦力的に無理があります。
ここだけの話ですがペダン軍は技術力はあっても兵の練度は大したことはなく、MOBシステムも他国に劣るところが多々あります。
このまま戦争を仕掛けるにしても、途中で詰むでしょうね」
「……戦力的に足りない分をナバールに出させるつもりか。
だが、そう事は容易く運ばないだろう」
「何故?」
「オウルビークス氏は思慮深く現実家で、何より頭が切れる。夢見がちで周囲の意見に流されるくせに変に頑固なフレイムカーンと違って、ペダンと手を組むとは考えられない」
「しかし、その彼にも大きな弱点があります」
「弱点?」
「亡き弟バウチャー」
「彼は病死だと新聞に書かれていたが……。その言い方では違うのか?」
「ええ、ナバールとローラントとの休戦協定時に、ローラント側の兵士が彼を殺したのです」
「はあ!?なんだそれは! だったら何故それを隠した!?徹底的に叩けばよかっただろ!!」
「過剰防衛とはいえ賓客を殺したローラント側も悪いですが、そうなるようなことをやらかしたのはナバール側ですからね。自業自得ですよ。
なによりあの事件は、ナバールにとって醜聞以外の何物でもないでしょう」
ナバール側にも全面的にバウチャーが悪いという自覚があり、ローラント側としても一介の兵士が賓客を殺めたという事実は国際的に曝け出したくない。双方共に穏便に早急なる幕引きを図ったのだ。
オウルビークスの気性と弟への溺愛ぶりを考えれば、弟を殺されたのに事件は抹消され、その犯人は罰を受けることなくのうのうと生きている。それを許しがたく思って、ペダンの計略にあえて乗る可能性もある。

「そのわりにはローラントに行って、答え次第ではナバールに行くと?」
「オウルビークスが良識を失っていなければ、勝手な振る舞いをしたペダンを牽制してくれるでしょう。
どちらにせよ、キュカはローラントで下ろすことになりますが」
まあ期待半分でいきますよと溜息混じりに呟く。

聖剣伝説2 未完 『タナトスにはまだ遠い』

未完

注意
私的設定がかなり強い話です
魔物のルーツや獣人やエルフのルーツについてかなり捏造しています。
マナの要塞についても捏造しています。

タナトスがタナトスとなる前、まだ彼が最初の肉体だった頃の話です。
倫理的に壊れているところがあります。












神獣はマナの要塞を、文明を悉く滅ぼした後、忽然と姿を消した。
ある者は、神獣が小さく分裂して各地へ飛び去ったという。またある者は神獣とマナの血族の戦いの後、瀕死の神獣の体が大気に溶けるように霧散したという。
神獣の行方については様々な流言飛語が飛び交っているが、どれも信憑性に乏しく荒唐無稽な内容が多かった。
それでも今言えることは、あの日以来神獣を目撃した者はいないという、事実のみだ。

闇の血族の科学者は壁伝いに歩いた。
植物が建物を破壊する勢いで増殖、繁茂して移動もままならないが、それでも乏しい体力を底なしの魔力で補いながら歩く。
シダの葉の間に澄んだ空が見えた。シダの葉をかき分け、その間から出ると、足下にはこれまで科学者が暮らしてきた世界とは異質の世界が広がっていた。
科学者が立っているのは、岩棚のような場所だ。もう一歩踏み出していたら絶壁から落ちるところだった。まあ落ちたところで魔力で浮遊できるから関係ないのだが、愉快な気分ではない。
眼下のジャングルは揺らめき、渦巻き、大きく揺れて葉や枝や蔓の全てが風もないのにひらつき、虹色の光を放っている。遙か下では鳥のような生物があちらからこちらへと飛び、森の天蓋のすぐ上で狩りをしている。
このジャングルはあまりにもでたらめな起伏や裂け目の多い地形の上に、どこまでも広がっている。遠くには巨大な山脈が、浸食する雨風など存在しないかのように側面が平らで先端が針のように尖った塔が見える。
これらの山脈はビルの波だ。惑星全体を覆っていた都市を崩した後の地形だ。
眼下のジャングルには首都惑星の廃墟が埋まっている。

植物に食われる形で雲の上にも届く数多の建物は消失し、数万年ぶりに地上に太陽の光が届くようになった。
科学者いる場所は元々乗り物の発着場の一部だった。側壁が強化されていたおかげで、周囲の建物が破壊されたときにも残ったのだ。
これがかつて宇宙全土を支配した文明の発祥地など、圧倒的な破壊の一部始終を見ていてもとても信じられなかった。

食べ物は探せば手に入る。その殆どが人間の餌である合成食材や下層市民の保存食品など。それらがなくとも生存者を殺せば新鮮な肉が手に入る。
水も、正術で幾らでも作り出せるがその必要はない。都市惑星全土が森に覆われてから天然の雨が降るようになったからだ。
海も森も、大昔に失ったものが多大な犠牲を伴って戻りつつある。

かつて一兆以上いた人口の一割が死滅した後、神獣はこの都市惑星の機能を停止させるためにこの星を緑で覆い尽くした。
神獣が惑星中にばらまいた種子は建物や屍に根付くと、周囲を駆逐する勢いで増殖し、人も建物も何もかを飲み込んでいった。
神獣が生み出した植物の根は建物や生物に根を張り、砕き養分とする。地表も地下も文明の痕跡は全て植物によって粉々に砕かれつつある。
この猛攻を科学や正術で押し止めようとしても、神獣の力の前には一時凌ぎに過ぎず、繁茂を防げないでいる。

神獣が生み出したのは、先ほど述べた植物だけではない。もう一つ、非常に厄介なものを生み出していた。
ふと、”奴”の独特の雄叫びが風に乗って耳に届く。
恐怖が先立つが、正術で自らの気配と姿を完全に消してから、魔力で浮遊して声の元に空中を滑空する。
”奴”の生態には非常に興味がある。身の危険があろうとうも、観察できる機会を逃すわけにはいかない。
”奴”とは、神獣が吐き出した化け物だ。その姿は様々で、人間を捕食する。これだけならば大したことではないが、興味深いのはその後だ。
捕食した内容物を肉の卵として吐き出して、卵から奇っ怪な生物が孵る。その姿や能力、特性は様々だ。どうやら”奴”の種類と、内容物によって変わるようだ。
肉の卵を破壊しようとしても、それは無駄だ。
卵は強靱に出来ており、外皮を傷つけられれば特殊な液体が噴出する。それを浴びた人間の姿形や能力等が変化して人外へと変える。
”奴”自身もどういうわけか正術のみならずあらゆる攻撃を受け付けないようで、数多の亜人種が捕食された。現在残る亜人種はマナの血族と血統者のみだ。
生き残った連中は奴に攻撃が効かないと悟ると、空間転移による逃げに徹したから助かった。他の連中は慢心や仇討ちや義憤といった些細な感情に振り回されて自滅したようなものだ。
なんと哀れで愚かしい。
神獣による直接的な被害よりも、これらによる二次被害の方が遙かに酷い。


魂の伴侶とも呼べる存在を失い、彼と共に作り上げたギガントをあのような形で失った私が廃人にならずにすんでいるのは、”奴”のおかげだ。
神獣も”奴”も、宇宙中探してもここにしかいない希有なる存在。
実に研究のやりがいがある。



言い訳
後の時代に当時の文明の名残が殆ど残っていない理由を考えたら、こうなりました。
この頃の亜人種とは、正術という自らの魔力のみで魔法を行使する力を有する種族のみです。
獣人やエルフといった後に亜人種と呼ばれる人種はこの時に発生しました。

聖剣伝説HOM 未完 『ロジェの家族』

未完

注意
私的設定があります。










ウェンデルに寄った後は、共に戦う各国の有志から、家族や友人についての話が切り出されることが多い。それに触発されたナイトソウルズのメンバーも家族や友人についてポツポツと語り始めることもある。
友人についての話なら気兼ねなく聞けるし話せるが、家族の話題を聞きたくない者や話したくない者もいる。
家族の思い出を持たない孤児のキュカと、故あって家族の事を話せないロジェは後者にあたる。そのため話の輪に入る機会もなく、一人どこかに立ち去るか、少し離れた所から、彼らの会話を聞き流すのが常だった。
ユリエル隊長のように聞き役に徹することは、ロジェには難しい。

いつものように部屋から物音を立てずに出て行ったキュカを横目で見送り、家族談義に盛り上がる面々をロジェは眺める。
家族かぁ。
家族になるはずだったユハニとエレナを失ったロジェの家族は亡き父と兄だけだ。
ロジェの双子の兄は幼い頃から卓越した魔力を有しており、何をやらせても優秀だった。それ故に厳格な父は兄を溺愛してロジェには見向きもしなかった。
幼い頃は寂しい思いをしたが、父に期待するのは早いうちから諦めていた。父からの愛情を求めない代わりに、ロジェは見たこともない母親に思いを馳せることが多かった。

幻夢の主教は15歳の成人の偽を終えた日から、流れ作業のように女性と床を共にする、ようだ。
伝聞なのはロジェが15歳になる前日にミラージュパレスから出されて庶民になったからである。あくまでも主教の心得の一つして兄に語られていたのを、聞こえたに過ぎない。
ロジェ達兄弟の母親はそうした女性の一人なのだろうし、ロジェ達と無理矢理引き離されたか、義務として差し出したのか。その辺りを考えれば考えるほど、泥沼に囚われ雁字搦めに動けなくなるので、いつしか考えるをやめた。
それでも、父からは愛されず使用人達は親しくしてくれるも大きな壁を感じる扱いだった幼少期のロジェは、時折もし母親がここにいたら?という幻想を抱いて、理想の家族像に思いを耽ることもあった。
それも長く続かず、10歳になる手前に父を亡くし、それまで父に依存していた兄が代わりにロジェに依存するようになった。初めは混乱と困惑しかなかったものの、自分よりも遥かに悲しんでいる兄を慰めて支えるのに一生懸命で、いつしか家族に纏わる幻想は消えていたが。

そんなことを思い返しながら外の景色をぼんやりと眺めていたら、ナイトソウルズから少し離れた所でキュカが一人黙々と剣の素振りをしているのが見えた。

聖剣伝説 未完 『老妖精と旅人達』

未完

注意
私的設定のかなり強い話です。
2→FF外伝→3(HOM)という時系列です。
FF外伝のヒロインの血縁を捏造しています。












おやおや、客人か。珍しい、貴重じゃ。こんな場所に流れ込んでくるとは、一体どんな方法で来たんじゃ?ここは現世と幽世の狭間。来ようと思っても来られる場所ではないぞ。
ああ、お前達は現世の存在じゃから、ここに長居をするのはお勧めせんぞ。そりゃあ、腹も減ることもなければ、眠りも必要としない空間じゃが、それはいかん。現世への強い想いがなければ、幽世に引っ張り込まれるからの。
特にそこの若いの、今にも死んでしまいそうな目をしておる。お前みたいな奴が一番危ないんじゃよ。

わしがいつからここにいるのかって?そのことを話せば長くなるぞ。それでも構わんと?
そうか、そうか。いやあ、嬉しいの。長すぎる間独りぼっちじゃったから、こうして話し相手がいるだけで、もう。感無量じゃ。
あれはそう、かれこれ一万と数千年も昔。わしがまだ子供の頃じゃ。当時の事で、わしが鮮烈に覚えているのは、仲間と共に旅をしたことじゃな。あの時は本当に楽しかった。あの日々はとても懐かしく、今でも大切な思い出じゃ。
どのような旅じゃったかと?ふふふ、聞いて驚くなよ。聖剣の勇者がマナの種子を巡る旅じゃ。今の時代で神話と呼ばれるあの旅じゃよ。
聖剣の勇者と二人の従者が、聖剣を手にマナの要塞を破壊して、神獣を封じる。今ではそのように伝わっておるのか?
従者、ねえ。わしとニイちゃんとネエちゃん……ああ、ランディとプリムのことじゃ。わしら三人は主従ではなく、対等な関係だったんじゃよ。わしとプリムが気弱なランディを引っ張る形での。今ではどう伝えられているのか知らんが、わしの知るランディは出会った頃は何とも頼りなくて、本当についていっても大丈夫なのか?と心配になるような人物じゃった。
なに?いやいや、旅を続けるうちにランディも何かが吹っ切れたのか、意思もしっかりしてきて、それに伴い貫禄も出てきたのじゃ。ランディは元々整った顔立ちじゃったから、モテ始めた時には、それまで歯牙にもかけていなかったプリムも焼き餅を妬いての。そんな二人のやり取りに、わしも面白おかしくて笑ったものじゃ。

……そう。あれからもう一万と数千年……。どうりでわしもこんなヨボヨボのじっちゃんになるわけじゃな。
あの時。世界のマナが薄まり、妖精と精霊が現世から弾かれたあの時から、今に至るまで。わしはずっとここで世界の行く末を見守ってきた。何故一人残ったのかって?ランディ達の行く末が気になって、未練たらしくここに踏み留まったのじゃよ。

ランディとプリムが結婚して娘二人が生まれたときは我が事以上に喜んだぞ。そして必ず待ち受ける別れを思えば、辛くなったがの。
何故って、マナの木もなく、神獣もいない状況というのが、どんなに危険かわからんか?マナの木も神獣も存在するだけで膨大なマナを放出する、世界の屋台骨じゃ。世界を支えるマナの供給源が失われたままでは、一切の生命が存在しない死の世界となるんじゃよ。幸いこの時は神獣の残した超高濃度のマナが世界に降り注いだおかげで、滅亡までの猶予は伸びたが、最期を先延ばしにしただけじゃ。
マナの女神?違う違う、マナの木じゃ。神々に性別なぞあるものか。はあ?何を言っておるんじゃ、お前達は。
……オホン、話を戻すぞ。
マナの木はマナの一族の女性にしかなれん。フェアリー?それは後で話す。この時代マナの木になれるのはマナの一族の女性のみだったんじゃ。そしてランディは、マナの一族最後の生き残りじゃ。世界を救うためには、ランディの娘達がマナの木となるしか未来はなかったんじゃよ。
…………ふう。この頃の事を思い出すのは辛いの。それよりも悲しいのは、嘆くのは娘達の末路じゃ。
先にマナの木となった姉はバンドール帝国に汚され、朽ちた。千年の眠りについていた妹はジェマの騎士を導き、帝国を滅ぼして、マナの木となった。
……わしは、叶わぬと知りながらも、娘達にはマナの一族とは関係のない、平穏な生涯を送ってほしかった。大切な友人の子供じゃもの。幸せになってもらいたいと思うのは当然じゃろう。マナの木となっても、せめて天寿を全うして欲しかったが……それも叶わなかった。二人とも、殺されたんじゃ。
娘の後を継いでマナの木となった孫娘。マナの女性の使命として、作られた予備。わしはそんなことをして欲しくなかった。それでも、せめてもの救いは娘なりに、孫娘を愛していたことじゃ。
孫娘が恋人と別れてマナの木となった後、わしはこれからどうなるのか心配した。マナの一族はもうおらず、マナの木だって永遠の命じゃない。寿命があるからの。そんなわしの懸念を孫娘は、マナの種、現代の人間がフェアリーと呼ぶ存在を作る事で解消して、自分亡き後も世界が存続できるようにしたんじゃ。
その後色々あったが……わしは一度だけ怒りに打ち震えたことがある。今から一万年ほど昔、ペダンという国が海底に没していたマナの要塞を蘇らせて、南半球の大陸を灰燼に帰し、神獣を暴れ狂わせた愚行を見たときは、人間に心底絶望した。
ペダンがやったことは、わしらがやってきたこと全てを否定した上で、わしの思い出を消し去ったようなものじゃ。ふふ、わしらの故郷と旅してきた国々の多くが、カッカラとヴァンドールを除いた全てが南半球の国々だったんじゃよ。
ペダンが呼び覚ました神獣によってマナの要塞は今度こそ木っ端微塵となった。それでいい。神々の怒りを買うあんな物この世にあってはならぬからの。しかし、神獣は暴れ狂い止まらん。これでもう世界もお終いかと落胆したとき、闇の血族の魔導師がマナの種子を用いて神獣を封印したんじゃ。
闇の血族といえばわしにとって最も印象深いのはタナトスじゃ。あの禍々しさは今でも忘れられん。そのタナトスと同じ闇の血族が、自らを盾にして人々を救い、命を危険に晒してまで神獣を封じた。そのことを忘れてはならん。
魔導師は神獣を八つに分け、マナの種子と融合させ、マナストーンに変えた。それを見たとき、わしの時代の名残が完全に消え去ったと悟ったよ。
ここで見るのをやめればよかったんじゃが……その後はもう、惰性で見続けておったんじゃよ。それでも中々面白いものを見ることが出来たから、結果的にはここで現世を見続けていて、よかった。

約五千年前のあの時代は、悲惨の一言じゃった。……悪いが、あの時代の事はあまり語りたくないんじゃよ。
ただ、これだけは言える。闇の神獣が暴れたのは、人間の欲深さが招いた自業自得であると。
人間が、尊厳や謙虚を忘れたあの時代は、これまでの文明の人間達よりも心根が最も穢れていた……。
すまんが、これ以上は言わんぞ。

先日、ペダンがまた騒動を起こしたようじゃな。アニスの鏡という別の世界から流れ込んだ代物に操られていたとか。
わしが語るまでもなく、知っておるとな?……うむ、あまり言われたくないのなら、これ以上口にはせんよ。

わしの名前?おいおい、ここまで身の上話を聞いておきながら今更尋ねるのか?なに、その前に長話が始まって聞くに聞けなかったじゃと?ホ、ホホ。老人の話はいつの時代も変わらず長いものじゃよ。
名前かあ……。なんじゃったかの?もうとっくの昔に頭の中から転がり落ちたようじゃ!
ボケたわけではないぞ。今まで独りじゃったから呼ぶ者はおらんし、ここに居続けると、名前が失われると先達も言っておった。彼らはどうしたかって?わしが子供の頃に幽世に行ったきりじゃ。見るべきものは見たから、もう未練はないとそう言い残しての。

いつまで現世を見続けるのかって?さあ、今のところ死ぬまでと考えておるよ。でも、もしかしたら気が変わるかもしれん。
その時になってみないと、わからんよ。

聖剣伝説HOM 未完 『お年玉』3

未完

注意
私的設定が強い話です。












ラビの森の奥深く。
ジェレミアが一心不乱に双剣を振るい、鬼気迫る形相で、脳裏に浮かぶ敵と戦い続けた。

ナイトソウルズ内での華やかな空気に耐え切れず、一人無心になるために剣の修練に打ち込んでも、雑念は消せない。
去年までの楽しかった正月は、家族と共にいられた正月はもうない。叔父の死によって理不尽に奪われてしまった。
今のジェレミアにとって正月とは一人である事を突きつけられる日であり、仇への憎しみを掻き立てる忌日だ。
叔父の仇を、将軍と王をこの手で討つ。二つの首を叔父の墓前に捧げる。
今の彼女の生きがいはただ、それだけだ。
思索の中、人の気配を感じ取り反射的に双剣の片割れを目に留まらぬ速さで投げた。
ナイフを弾く音と、一拍遅れて短い悲鳴が聞こえた。
「テケリか」
あわわ、と腰を抜かすテケリの肩に乗る魔物が、触角を伸ばして威嚇している。
臨戦態勢の魔物に触発されて、ジェレミアが双剣の片割れを構えた。
両者の火花が飛び交う空気の中、それを切り裂いたのは間に挟まれたテケリだ。
「ジェレミアさん!!」
テケリの叫びにジェレミアが気まずくなり、剣をしまう。
魔物はジェレミアを胡散臭げに見ていたが、テケリに睨まれて渋々触覚を額に収納する。それでも彼女への警戒は怠らず、毛並みは逆立てたままだ。
青い毛並みの猫に近い姿、三つの尾を持ち、爪は分厚い鉄板を削る。額の触覚は硬く柔軟性があり、数mは伸びる。小柄で愛くるしい姿でも、油断ならない恐ろしい魔物。それがなんという種類の魔物なのかジェレミアにはわからない。
時折、何処からともなくテケリが入手する魔物の多くは、見たことのない種類か絶滅種だ。ユリエルやベルガーは彼の魔物入手先に興味津々らしいが、ジェレミアには関心のない話だ。

「いきなりナイフを投げてくるなんて、いつからそんな粗暴になったんでありますか?」
「……悪かったな」
批難するテケリに、ジェレミアが溜息をついて謝る。
ウェンデルへの避難民の中にはペダンの出身というだけで、ナイトソウルズの面々に悪意を持ち、害をなそうとする者もいる。そのような事は子供のテケリに知らせる内容ではないので、面々は彼に気付かれないように隠していた。
ロジェやキュカは逃げに徹しているが、ジェレミアは襲撃する輩の足を傷つけ身動きを封じた上で、みずおちをぶん殴り、失神させる程度に止めている。
ロジェ達からはやり過ぎだと苦言を呈されているが、ジェレミアに言わせれば殺そうとしてくる相手に手心は必要ない。殺していないだけマシだ。なのにあの二人ときたら……。

「それよりも、わざわざこんな所に足を運んだということは、私に何か用でもあるのか?」
「あ、そうでありました。
ジェレミアさん、お年玉を下さい」
深々と頭を下げてお年玉を請う姿に、ジェレミアがやれやれと肩を竦めて、
「今手持ちのお金はないから、これで我慢しろ」
言いながら、ポケットに入れていたパチンコ玉をテケリの掌に落とす。
何ともいえない顔でパチンコ玉を見るテケリに、嘗ての自分を重ねる。
「お年玉」と称して、パチンコ玉を掌に落とすのは、彼女の叔父が行っていたことだ。
ジェレミアが幼い頃叔父の家に引き取られた後の正月から去年の正月まで、叔父は正月の度にジェレミアに「お年玉」と言って彼女の掌にパチンコ玉を落としていた。
その後でちゃんと正しいお年玉が貰えたから、愛されていないのではと気に病むことはなかった。
初めの頃は何か理由があるのかと思い悩んだが、今では一種の謎習慣だろうと考えている。

嘗ての叔父と同じ行動に内心苦笑しつつも、テケリの帽子を撫でる。魔物が気にくわなさそうにジェレミアの手を凝視するが、そんなもの無視だ。
「……いつか余裕が出来たら、お年玉をやるから借用書代わりにとっておけ」
「…そこまでしてお金が欲しいわけではありません。
ただ……」
言いにくそうに少し思案するが、意を決したのかジェレミアを見上げる。
「ジェレミアさんが、こんな古典的な寒い駄洒落をしてくるなんて、思いもしなかっただけであります」
「は?」
「「お年玉」と「落とし玉」。東語では同じ音でありますよ」
「そうなのか?」
現在のペダンの公用語はペダン語だが、大昔は東語も公用語として用いられていた。今でもペダンの公文書は東語のみだからペダン人なら誰でも読み書きは出来るのだが、東語の音は遠い昔に失われていた。
ちなみにナバール語の文語は東語のままだが、口語は東語を基とした類似言語だ。
テケリはその出生ゆえに東語を知っていても不思議ではないからさほど驚きはない。むしろ驚いたのは叔父が東語の音を知っていたということだ。
叔父は博識で古代の文化にも深く造詣があったから、遊び心でジェレミアに落とし玉をあげ続けたのだろう。……多分、おそらく、あるいは。

聖剣伝説HOM 未完 『お年玉』2

未完

注意
私的設定があります












テケリは意気消沈と歩いていた。
その頭の中を巡るのは、先程やらかしたことへの後悔だ。
今までは正月になればお菓子だったり、玩具がもらえた。年を重ねることが出来た祝いだと、抱きかかええてくれた叔父の温もりを覚えている。
ペダンに来て、ユリエルに拾われてからはお年玉はお金に変わったが、それでも貰えることが大事なのだ。
ロジェは小銭しかくれなかったが、彼は庶民代表だと自称しているし、今のナイトソウルズの経済苦を考えれば、なけなしの気持ちをもらえただけでも嬉しい。正直もう少し欲しかったけれど、それをロジェに求めるのは、気の毒だ。
しかし、キュカは……。思い出しただけでも、気が重くなる。
テケリに渡すものは何一つないと言われたあの時、頭に血がのぼってキュカを叩き、ラビに突き飛ばさせてしまった。
冷静になって考えてみれば、今までお年玉という言葉や概念すら知らなかったキュカに、いきなり何か欲しい!と言っても困らせるだけだし、相手にされるわけがない。
謝りに行こうかと思うが、何といって謝ればいいか……。
憂鬱な気持ちを溜息として吐き出すと、さっきキュカにけしかけたラビが戻ってきて、テケリの胸に飛び込んできた。すかさず、抱き支える。
「ラビてん」
主人の落ち込んだ気持ちを敏感に感じ取った魔物は、つぶらな瞳でテケリを見つめると、涙を舐め、甘えるように顔に擦り寄った。
魔物相手なら気持ち一つでお互い通じ合えるのに、人間はそこに言葉を介さなければならない。
つくづく不便だと思うが、人間社会で生きていくと決めた以上、避けては通れぬ道だ。
「おや、テケリ君ではないか」
背後に気配を感じて振り返るのと、声をかけられたのは同時だった。
「ベルガーさん」
ウェンデルで闇の神官という職に就いているベルガーを、テケリは好ましく思っていた。
ロジェやキュカ、リチャード王子などは彼をドS神官などと呼び恐れおののいているが、ベルガーの言うことは筋が通っていて、間違ったことは言っていない。テケリに言わせれば、怒らせる事をやらかす方が悪いのだ。
時々、中の人が入れ替わったような言動をする事もあるが、神官は二重人格なのだろうと決めて、それ以上考えないようにしている。
神官をまじまじと見つめ、観察して、不気味ではない方だとわかると、安心して笑顔を浮かべた。

「あの、ですね……。ベルガーさんは、お年玉って知っていますか?」
恐る恐る尋ねた。
ペダンやナバール人でないベルガーが、東国の風習の名残の一つであるお年玉をしっている筈はない。しかし、テケリにはもしかしたら?という期待もあった。
食事中の見事な箸さばき、時折見せる東国への深い造詣が、その根拠だ。
「ああ、勿論知っているよ」
「本当でありますか!?」
「ちょうど君にあげようと思っていた物があるんだ。受け取ってくれるかい?」
「はい!!」
ベルガーが鞄から洒落た包装紙に包まれた物を取り出すのを、テケリは目を輝かせて見つめる。
掌に乗せられたそれを丁寧にはがすと、中から出てきたのは10個の飴玉だった。
テケリが飴玉を一つ手に取り、翳して見ると、中で光が反射して、美しい文様が浮かんでいる。
「綺麗でありますねえ……」
「ウェンデルでも有名な菓子屋で作られているあめだ。これはとても美味しくてね、妻や息子のお気に入りでもあるんだ」

「でも、どうして飴玉を?お菓子なら他にもありますよ?」
この飴玉を見る限り、高価なのは間違いないが、それならば別のお菓子でもよかったはずだ。何故飴玉に拘ったのかという好奇心が募る。
「テケリ君、東国のお年玉は国ごとに違っていたそうだ。
ある国ではお金を、ある国では反物や飾り物を、ある国では年齢分の飴玉を、とね。
子供のうちから多額の金銭を持つのは感心しないし、戦時中に飾り物をもらっても困るだけだ。そうなれば、年齢分の飴玉が一番じゃないか」
「はぁ……そうでありますね」
大事そうに包装紙に包まれた飴玉をポーチに入れると、ベルガーを見上げる。
「でも、ベルガーさん。よく大昔の風習を知っているでありますね?どこから、どのようにそれらの情報を得ているのか、是非とも気になるところであります」
「なに、この程度のことならば文献を探っていけば出てくるよ。
どれもこれも一万年以上昔の古い書物だから持ち出して貸すことはできないけどね」
ベルガーの答えに、テケリは少し考える素振りを見せたものの、頭を振るい、深々とお辞儀する。
「お年玉、ありがとうございます」
「なに、これくらい。 テケリ君、今年もよい年で」

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