「火星物語」
火星物語 小説

火星物語 小説 『雨』

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アンサーの時代に居る時のフォボスと古代組の話です。
時期的には十一話の「アンサーの覚醒」冒頭前です。






僕の時代では水は身近な存在だった。でも、数百年前の世界では水は”身近にあって当たり前”じゃなかった。
400年前。火星の地形を大きく変えた超特大地震によって、地下に蓄えられていた水が地上に溢れ出して”海”が出来た。
”海”によって、水が豊富になったことで、それまでの価値観が一変し、世界は大きく変貌を遂げた。
僕は過去の世界に行くまで、その事を何も知らなかった。
*
話の発端は、アンサーの好奇心。
「ねぇ、フォボス。君の時代ってどんな世界なの?」
純粋な好奇心に目を輝かせた問いかけに、フォボスが首を横に振る。
「ごめん……。 そういうことは…言えないんだ」
申し訳なさそうに顔を伏せたフォボスに、アンサーが続けようとした言葉を飲み込んだ。

本来この時代に存在しない異分子の言動で、未来が大きく変わるかもしれない。
特にアンサーは後に一国の王になる存在。どんな些細な事でも「未来」は口に出来ない。
それが時の異邦人としてのフォボスの思い。

頑なに口を閉ざすフォボスの姿に、ポチが溜息を漏らす。
「おいおい、別にいいじゃねぇか。 それに600年も先の、遠いとおーい未来だぜ? 俺達が知ったって構わねぇだろ」
600年という遠大な時の流れ。それは限られた長命な種族しか生きられない、長すぎる時間。
例え記録に残そうとも、失われた数多くの文献と同じく長い年月の間に喪失する。だからフォボスが未来を語っても、誰にも伝わらな可能性が非常に高い。
「そりゃあ、そうだけど…」
フォボスが口を濁らせる。
アンサーは後に王になる存在。だからこそ、慎重にしかるべき相手。
フォボスの心境を察したのか、ポチが肩を竦める。
「でもまぁ、アンサーが本当に王様になるってなら、話は別だけどな」
「もう、ポチったら。またそんなこと言って。 僕が王様になれるわけがないよ」
「人生、何処でどうなるかわからねぇぜ?」
楽しげに笑いあう二人を、フォボスが微笑ましく見つめる。
彼らは全く信じずに、時折冗談として笑い合うが、フォボスはアンサーがアロマの建国王だと確信している。
幼い頃から見てきた”建国王”の石造を子供の姿に変えれば、今のアンサーそのものだから。

「っと、そんなことよりも。フォボス、未来のことをなーんにも喋らねぇけどよぉ……。 おめぇ、本当に未来から来たのか?」
アンサーはフォボスの言葉をすぐに信じたが、ポチは若干懐疑的だった。
今までの旅を通して、フォボスが嘘をつくような人間ではない事は分かったものの、タイムトラベルなど本当に出来るのか?
彼が未来の事をあまり話そうとしないこともあって、ポチは未だに疑問を抱いていた。
「ポチ、失礼だよ。 フォボスは嘘をつくような人じゃない!」
アンサーが眉間に皺を寄せて、ポチを叱責した後にフォボスを見る。
「ちょっとしたことでもいいんだ。未来の事を教えてくれないかな?」
「でも、未来の事を話したら色々と不味いと思うんだ」
「話したらいけないってことは、今と未来の世界とは大きく違うってことだね?」
「……まぁ、そうだけど……」
言葉を濁すフォボスに、アンサーがここぞとばかりに身を大きく乗り出す。その勢いに、フォボスが身をのけぞらせる。
「それじゃあ、どこが違うの?」
好奇心と探究心に満ち溢れた目の輝きに、フォボスが途方に暮れて、天を仰ぐ。
このまま何も話さなければ、フォボスが根を上げるまで絶対に引き下がらずにしつこく聞きだそうとするのは目に見えている。
いつまで続くかわらからない旅の間、ずっと追及をかわし続けて神経をすり減らすよりは、未来のことを話してアンサーの欲求を満たしたほうが楽かもしれない。
「…………わかった。 僕の時代の事を話すよ」
「本当!?」
「ただし、少しだけだよ!」
「うん!!」
わくわくと期待に満ち溢れた眼差しを一身に受けながら、フォボスが思案する。
どんなことを話せば問題ないかと、考えを巡らせるが…すべての事柄が不味い気がした。
まず食生活。これも水のない当時と今では大きく違う。
例えばこの時代では、乾燥しきっているから乾物がメインだ。でも僕の時代では違う。
移動手段。これも問題ありだ。
後の世で機械が主流になるとわかれば、王となったアンサーは機械を中心に国を発展させようとする。でもアロマはリビドーとは異なり、機械工業中心の国ではなかった。
社会背景。……言ってもわからないかな。
でも、これが一番言わない方がいいよね。
流行。……最近流行っているものってなんだ?
この数ヶ月、様々な事件に巻き込まれていたから、最近の事情に疎くなっていた。
他には…………駄目だ。何も思いつかない。
いっそ、クエスの時代のことを話そうか。僕の時代よりは様変わりしていないから、話しても問題ないよね。でも、細かいところを指摘されたら答えきれる自信はない。
過去の世界に行くようになってから当時のことを勉強したり、何度か行ったけれど、やっぱりそこで生まれ育っていないから、言葉の端々や僅かなニュアンスで違和感を与えてしまう。
頭を抱えて唸りながら、必死に考えを巡らせるフォボスに、アンサーが真剣な面持ちで彼を見つめる。
「ねぇ、フォボス。正直に話してくれるんだよね?」
その声にフォボスが身体を強張らせる。
アンサーから漂ってくる威圧感と気迫に、フォボスのこめかみに一筋の汗が流れる。
今の彼を前にして、嘘をつき通せない。
――400年前の話をする選択肢は、消えた。
「…うん。ちゃんと僕の時代の事を話すよ」
若干顔を引き攣らせながら答えた。
アンサーが満足げに頷き、フォボスが深く吐息を吐く。

僕の時代では水が豊富で、砂の海が全ての水で満たされている。
水がありふれた存在となっている世界。
だからこそ、話せなかった。
水が何よりも貴重な存在だったと”忘れている”ことを。
僅かな水を求めて、盗み、傷つけ、殺し合い、戦争で数多の血を流す。
そんな世界で生きる人々に、未来では水は「あって当然」の価値のない代物だと……到底言えなかった。

「……僕の時代では、水が沢山あるんだ」
フォボスが重く閉ざしていた口を開く。
「沢山? カンガリアンくらい?」
「もっとだよ。 カンガリアンとは比較にならない程の水が、世界中にあるんだ」
「じゃあ、フォボスの時代って争いのない、豊かで幸せな世界なんだね」
水が沢山あれば戦争は起きず、人々が争うことはない。
それが常識となっているアンサーは何気なくそう答えた。
彼の言葉にフォボスが表情を曇らせるが、すぐに微笑み返して静かに頷く。
「チッチッ、甘いぜアンサー。 水が沢山あっても、水のある地域がそれを独占する事には変わりないぜ」
今まで黙って聞いていたポチが、揶揄を交えて諭すように話す。
「雨が降るから、地域は関係ないんだ」
『雨?』
聞いたことのない単語に、アンサーとポチが同時に尋ねる。
なんて答えればいいかフォボスは悩むが、端的に分かりやすく説明する。
話を聞いてくるうちに、アンサーが興奮して、頬を上気させる。
「空から水が降ってくるの!?」
「おいおい、フォボス。水ってのは地下から僅かに湧き出るもんだぜ? それがどーやって、空から降ってくるんだ?」
「そんな事はどうだっていいじゃないか、ポチ」
天を仰ぎ、羨望を強く宿した眼差しで赤い空を見上げる。
「水が天から降ってくる……そうなったらどんなにいいだろう!そしたら、世界中の人々にも水が行き届くんだ! これって奇跡だよ!!」
目を輝かせたアンサーの言葉に、フォボスの瞳に陰りが帯びる。
『奇跡』。
雨が降るという、ただの自然現象すらも、過去の人間には”奇跡”だ。
あまりの価値観の落差に、フォボスが誰にも気づかれぬように静かに…深く重い吐息を漏らす。



言い訳
アンサーやクエスの時代では「水さえあれば戦争はなくなる」世界ですが、フォボスの時代ではその水の大切さを人々は忘れているので、争いが起きる。そしてフォボスはその事をアンサー達には知らせたくないんです。
最後のシーンですが、どんなに一緒にいても仲がよくなっても、根本的な価値観はあまりにも違いすぎてかみ合うことはない。だからフォボスは過去にいる間は異質なままで、孤独なんです。
フォボスは最後まで異邦人という立場です。

2011/7/1 小説へ移行
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