未完

火星物語 未完 『お題2』

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8話『クエスとの再会?』


注意
オリジナル設定があります。













オリジナル設定の説明。
風使いは血筋で、風使いとしての能力も先天的に決まっている。














薄暗く底冷えする空気が漂う牢屋の一室。
隅に備え付けられた古ぼけた簡素な寝台の上に、少年が無造作に横たえられていた。
暫し昏倒していた少年がやがて小さな呻き声と共にうっすらと目を開き、緩慢な動作で身を起こして、どこか呆然としたような面持ちで周囲を見回す。
少し遅れて此処が何処か分かると、混乱と動揺に突き動かされる形で思わず立ち上がった。
―なんで僕が牢屋なんかに!?
わけがわからなかったが、このままではいけないと目を閉ざして、何度か深呼吸を繰り返す。
落ち着いた頃合にここまで至った経緯を思い出して、軽く落ち込んだ。
チェーンウォッチにより過去の世界に来たッ直後、いきなり頼れる二人に敵対視され、挙句の果てには叩きのめされて牢に閉じ込められた事は正直言ってショックだ。
何故?という疑問はあるが、それよりも気になるのはあの時の二人の態度。
―この前会ったばかりだというのに、まるで初対面みたいだった。
改めて前回の事件の事を思い返してみれば、何故か彼女達は彼を知っているような言動だった。当時は不思議に思いながらも頼もしかったが、後から考えれば不自然だ。
その答えも、今なら分かる。
あの時の二人は既に彼に会っていたからだと。
「……それじゃあ二人から見て、今が僕と初めて会った時だね。 ややこしいなぁ」
これからの事に思いを巡らせば、深い溜息が勝手に漏れた。
「とにかく、僕がアショカとは何の関係もないことを証明しないと……」
しかしこれは完全な出来レースだ。
”黒”と断定されている中、それを覆そうにもそのための証拠も術も、フォボスは持ち合わせていない。
例え幾ら違うと主張しても、恐らく信じてもらえないだろう。
このままでは違う事を証明するどころか、アショカ兵として処刑されるのを待つばかりだ。
―そんなの、冗談じゃない!
脱獄。
その言葉が頭を掠めて、意を決した。

”前回”のことから疑いが晴れたことは分かるが、そのためにどうすればいいのか分からない。
―とにかく、クエスとサスケに会って話をしよう。
彼をアショカ兵として牢屋に閉じ込めた張本人ではあるが、あの二人なら頭ごなしに否定したりしない。
それだけの希望を胸に抱いて、信じる。
この時代でフォボスが頼れるのは、クエスとサスケだけなのだ。

いかにも頑丈な作りの格子に指先が触れた瞬間、弾かれたように手が止まり、咄嗟に胸元に抱え込んだ。
小さく唸り声のような音を立てながら微振動をする格子を見た後に、痺れが残る手に目線を落とした。
触れた瞬間に感じた力は、自分の時代で風の谷やこの屋敷を覆っていたものと同質の力だ。
「……どうしよう……?」
風の力が使われているなら、こじ開けられない。そもそも風使いとしては未熟なフォボスでは、この格子全体を覆っている風の力を解除する事は不可能だ。
工具セットが全て取り上げられ、今手元にあるのは少しばかりの道具と、巨大スパナだけ。
こんな装備で鍵を開けられるのかと不審に思いながらも鍵穴を調べようとするが、特殊な作りであるらしく鍵穴らしきものは何一つ見つからなかった。
手詰まり、万事休す。
そんな言葉がフォボスの脳裏を掠めた時、格子の中央の凹凸に目がいく。
ひし形のへこみの中に見覚えのある凹凸模様があった。
―この形は……もしかして……?
慌てて隠しポケットの中を探る。
幸いな事にそれは気付かれることなく、フォボスの手元に残されていた。
ホッと安堵の息を吐いて手に持ち、その模様と凹みを交互に観察する。
両者の形は、同じだった。
〈この鍵は君にとっても大切なものだから、絶対になくさないように〉
この時代に来る直前に読んだクエスの手紙の内容が頭に浮かぶ。
―どうせなら、こうなる状況を教えてくれてもよかったのに。
もし、知らされていたとしても状況が悪すぎる。というより、気づいたら牢の中では、こうするしかないだろう。
少し釈然としないものがあったものの、仕方ないと割り切って、レリーフをそっと鍵穴に差し込む。
直後格子全体を覆っていた風の力が一瞬大きく震えると揺らぎ、風の幕が波打ち、霧散した。
自動的に開いてゆく扉を前にして、
―こんな簡単にいってもいいんだろうか?
と、呆気に取られたものの、気を取り直して外に向かって足を踏み出した。

慎重に周囲を窺いながらも音を立てないようにゆっくりと扉を開いていく。
その姿が何よりも怪しいのだということに、残念ながらフォボスは気づいていない。
顔を覗かせ素早く目配せをして、付近に誰もいない事を確認して牢獄から出るのと、廊下の曲がり角から馬族の青年がやってきたのは同時だった。
ほんの僅かな時間。だが、両者にとっては長い時間、動きすらも忘れて目が合った。
次第に顔面から血の気が引いていくフォボスとは対照的に、馬族の男の顔つきが敵意を帯びていく。
「アショカ兵め!! 牢屋から抜け出すとは、いい度胸だ!!」
「ちょ、ちょっと待って!?」
怒声と共に放たれたあらぬ誤解に、フォボスが抗議の声を上げた。
馬族の男が腰に提げていた剣を抜き放つ。
磨きこまれた刀身が窓からの光に反射して煌き、フォボスの姿を映し込んだ。
「これでもくらえっ!!」
男が力強く床をけり、一気にフォボスの間合いにまで跳躍した。
馬族特有の強靭な脚力を生かした攻撃にフォボスがスパナを抜こうと手をかけた直後、曲刀がフォボスの頭上めがけて振り下ろされる。
刀に染まるのは少年の血か。
男が勝利確信したが、甲高い金属音と共に男の曲刀は弾かれていた。
何が起きたのか理解しがたい男の目の前でフォボスが通常サイズのスパナをポケットに入れなおし、巨大スパナを振るい、隙のない型で構えた。
信じがたいことだが、曲刀が振り下ろされるまでの僅かな時間、フォボスは別のスパナを抜き、男の刀を弾いていた。
約一秒に等しい時間の中でそれをやってのけた速さと、利き腕でない手で筋骨隆々の大男の攻撃を撥ね退けた怪力。それだけでも驚きに値するが、それをやってのけたのが”子供”であることが、更に恐怖すら伴って馬族の男に衝撃を与えた。
しかしフォボスも先ほどの攻撃を受け止めた片手が痺れ、痛みすら伴って満足に動かせなかった。
対峙する相手に気づかせぬように、動かぬ手を抑える形で、両手でスパナを構えて誤魔化しているが、実際に戦えば不具合が生じる。
風使い特有の身体能力で誤魔化しているが、フォボス自身戦いにおいては所詮アマチュアレベルだ。幾ら風使いであろうとも、百戦錬磨の戦士を前にしては、敗北の恐れがあった。

相手の出方を見極めるように間合いを取りつつ、気の抜けぬ心理戦が始まる。
だが、このような戦いの経験は皆無に等しかったフォボスはそれに耐えかねたのか。身じろぎをして、僅かに気を緩ませた。
その好機を見逃すほど、馬族の青年は愚かではない。
周囲の空気すらも震わせる気合の声にフォボスが怖気づき、半歩下がった。その隙に馬族の男がすかさずフォボスの間合いに飛び込み、あっ!と声を上げた少年のスパナを刀で弾き飛ばすと同時に、鳩尾に膝で強烈な一撃を加えた。
内臓が破裂してもおかしくない攻撃に、悶絶しながらも命に別状なさそうな少年におや?と思ったが、構わず少年のうなじに刀を添わせる。
首筋から伝わる冷たさに、フォボスの動きが止まった。
「アショカ兵め。どうやって脱獄したかは知らんが、間もなく風使いの猛者達がやってくるだろう。
もう、貴様に逃げ場はない」
嘘を交えた脅しに、少年が額に脂汗を滲ませながら、強い眼差しで男を睨んだ。
「僕はアショカ兵じゃない!!」
「何、違うだと?」
男が真意を読み取るべく、フォボスの目を鋭く見据えた。
間近で見る少年の目はアショカ兵のように淀んでおらず、とても澄んだまっすぐな目をしている。
鵜呑みにするのは危険だが、信じてもいい何かが少年にはある。少なくとも、このような眼で嘘をつける人間を男は知らなかった。
「…………なるほど……」
流麗な所作で剣をしまうと、安堵の息を吐いたフォボスを立たせてやり、深々と頭を下げた。
「悪かったな」
「いいえ。 わかってくれたのなら、それでいいです」
本当は色々と言いたい事はあったものの、今は誤解が解けただけで十分だった。

「お前は風の民だろ?」
―風の民?
聞き覚えのない言葉に困惑するフォボスに気づかずに、男が頷きながら言葉を紡ぐ。
「そうじゃなきゃ、こんなちっこいのにあんな芸当は出来ないからな」
常人を遥かに凌駕する優れた身体能力は風使い、ひいては風の民の特徴だった。
しかし、今では風の民の殆どはアショカに滅ぼされ、風使いの多くもアショカとの戦争に命を散らした。
「それにしても、まだ生き残っていてよかったよ」
「はぁ……」
「腹の痛みはまだあるか?」
気遣うような眼差しを向けられて、フォボスが鳩尾に手を当てる。
いつもの通り、今では僅かに痛みが残っている程度だ。
「もう殆どありませんから、大丈夫です」
尋常でない頑強な体と回復能力はフォボスのコンプレックスだったが、以前共に戦ったクエスとサスケも似たようなものだったから半ば安心して答えた。
しかし男は目を瞠った後に、フォボスの肩をつかんでまじまじと凝視した。
内臓に大きな損傷を加える攻撃を受けてもすぐに治癒するなど、幾ら風の民とはいえありえない。
それが可能なのはアロマ王家のように特別な血を持つ者か、血を重ね合わせ極限まで濃度を高めた者だけだ。
先程の戦いぶりといい、この少年の血はかなり濃いのだろう。
「あの…、何か?」
「君、もしかして……風使いではないのか?」
「はい、そうですが……」

「まだ風使いが生きていてよかったよ」
アショカの虐殺から生き残った風使い達も戦争に借り出されてゆき、確実に数を減らしていた。そんな中、子供とはいえ風使いが戦力に加わる事は心強かった。
「新しくサスケ隊長が入れた新入りだね。 一緒にアショカから町を守ろう!」
「はい!」
力強い答えに男が満足げに頷くと、フォボスの手首を掴んだ。
突然の事にフォボスが目を丸くして、男を見上げる。
「ちょっと、何ですか?」
「さあ、新入り。 早速仕事だ!」
「え!? でも、僕これから……」
―クエスとサスケを探さないといけない。
のだけれど、彼らが何処にいるのかも分からない状況だ。
それならいきなり探すよりも、色々と聞いてからにしよう。
本当なら振り払えられる手を見ながら考えていると、馬族の男がフォボスを見下ろした。
「この風の谷には多くの傷ついた風使い達が療養している。
動ける奴が少なくて、困っていたんだ」
重傷者が多く、比較的傷の浅い者達まで治療に借り出されている状況が続いていた。そんな中、健康体のフォボスは貴重な働き手だ。
「そんなに多くの人達が……」
「ああ。 相手は風機と対風使い暗殺者だからな」
アショカが作りし、最強最悪の殺戮兵器、風機。
風を動力源として動き、風の攻撃を無効化する。例え効いたとしてもその損傷は微々たるものでしかない。
風機の力を前に、数多の国の軍隊と風使い達は殺されていった。


フォボス達が医務室に一歩踏み入れると、眼前に広がる光景にフォボスが目を瞠り、後ずさった。
薬品と血の匂いが充満し、多くの者達はベッドから動く事すら出来ない状態だった。
凄惨な光景を見ていられずに、フォボスが顔を背ける。
「おい、新入り。 大丈夫か?」
気遣う声にフォボスが笑顔を貼り付けて、男を見上げた。
「はい、大丈夫です」
若干蒼白になりながらも、気丈に答えた。
男が安心させるようにフォボスの肩に手を置いた後、近くにいた看護師の元に行き話をする。
声を潜めているようだが、フォボスには全て聞こえていた。

「坊主、ところでお前エンブレムはどうしたんだ?
風の谷に入る時に隊長に貰ったはず……だよな?」
「それなら……何処かに落としてしまったんです。 それで、新しいのを貰いに屋敷に来たんですけれど、誤解されてしまって……」
また疑われては堪らないと、懸命に言葉を紡ぐ。
フォボスの言い分に男はやや目を丸くした後に、顎に手を当て彼を観察するように眺めた後にふっと息を吐いた。
「仕方ない。 俺が貰いに行ってやるから、それまでの間ここで働いていてくれ」
「はい!」

「ここにはアショカとの戦いで傷ついた風使いが沢山いるのよ。
フォボス君には比較的容態の安定している患者の包帯を取り替えてもらいましょうか。
……包帯の替え方は、わかる?」
「大丈夫、怪我には慣れてますから」
子供の頃から体力お化けなフォボスに付き合っていたアービンとランプーは何かと怪我をしていた。
フォボスが機械弄りを初めてからは何かと爆発させるので、その被害を蒙る二人の手当てを無傷に等しいフォボスが行っていた。
そのためかやけに傷や火傷の手当や処置に慣れてしまったのだ。

患者の包帯を直そうと、体液の滲んだ布を丁寧に剥いで行く。
そうして露わになった肌は、爛れて半ば腐りかけていた。
想像を絶する光景にフォボスが絶句して、息を呑んだ。
「うぅ……くそ…ぉ……アシ……ョカめ……」
焼け爛れた唇が微かに動き、低い音を出す。
怨み、怒り、憎悪。そして健康そのものであるフォボスへの強い羨望。
底冷えする目で痛いほどの視線を浴びて、フォボスが思わず目を逸らして手を放した。
見られているだけでも、恐怖が込み上げてくる。
それをグッと堪えながらも包帯に手を伸ばそうとしたが、震える指先は包帯を掴む事が出来ずに取り落としてしまった。
「あ!」
慌てて巻きなおし、新しい包帯に取り替えようとした時に肩に手を置かれた。
振り返ったフォボスの視線の先には、先ほどの看護師がいた。
「……ごめんなさい。 あなたには刺激が強すぎたわね。
彼は私が診るから、あなたは別の患者を診てあげて」
「……………はい……」

全身の至る所に包帯が巻かれた患者を前に、フォボスの脳裏に先ほどの患者の姿が浮かぶ。
手を伸ばそうするが、躊躇って中々触れられなかった。
すっかり萎縮しているフォボスの姿に、患者が子供を安心させるために明るい笑顔を浮かべた。
「俺は骨折や切り傷だから、そんな酷くはないよ」
「そうですか…」
意を決して、包帯を丁寧に外すと、二の腕を大きく切り裂くような深い傷があった。
一瞬ビクつくが、先程のよりはマシだと自分に言い聞かせながら作業する。

「初めて見るけれど、君は?」
「風使いのフォボスです」
「ん? 新入りの風使い?」
男が驚きに目を丸くしたが、すぐに顔を綻ばせた。
「よかった!まだ他にも生き残っている奴がいたんだ!!
よし!怪我が治ったら俺が特訓してやろう!! 俺は五回に一回も風が呼べるからな」
自信に満ちた声音にフォボスが顔を上げて、男の顔をまじまじと見つめた。
クエスとサスケ、そしてフォボス自身。彼の知る風使いは皆必ず風が呼べる。だから、風使いとはそうしたものだと思っていたのだ。
「…………必ず、風を呼べないんですか?」
「あー……そんな芸当が出来るのは、今じゃクエス様と隊長だけだ」
風を呼ぶにも、風の強大な力を受け入れるだけの身体のキャパシティが必要になる。だから風の民でも必ず風使いになれるわけではない。
風使いとしての最終的な能力は、血統と生まれた時にどれだけ多くの風を纏ったかで決まる。

男が遠くを見つめる眼差しで、包帯を巻いている少年の手を眺める。
「俺達風使いがもっと強ければ、クエス様や隊長に迷惑をかけないで済むのになぁ……」
「十分強いじゃないですか」
フォボスの時代に伝わる風使いの伝承。
その殆どは捻じ曲げられてしまっているものだが、その中でも常人を逸脱した能力を誇り、僅か数人で数千を超える大軍を滅ぼしたという伝説もあった。
フォボス自身も、風使いとしての能力のおかげで戦いでは負け知らずだ。
「人間相手ではな。 でも風機が相手では、俺達は……」
同族と、長年風の研究をしてきた狂科学者が作り上げた、対風使い殺戮兵器。
その力を前に風使い達は成す術もなく殺されていった。今生きていることだって、それ自体が奇跡のようなものだ。
3体の風機を破壊する事はできたが、あれが後7機もいる。それに対して殆どの風使いの多くは戦えぬ体だ。


フォボスが深々と椅子に座り込んで、重い瞼を閉ざした。
色々とあって疲れたというのもある。それよりも、もっと大きなものは……。
「…君、フォボス君、フォボス君」
呼ばれているの気づき、顔を上げた。
先程の看護師が、気遣うような目の色を浮かべて彼の額に手を当てていた。
「フォボス君、顔色が悪いけれど……疲れたのなら、もう休んでもいいのよ?」


窓から外の風景を眺める。
底に広がるのは水のない時代とは信じられないほどの緑。
自分の時代のアロマと比べても遜色のない、豊かな自然が広がっていた。
世界の殆どが砂と荒野に覆われたこの時代では、ありえない光景だ。
その光景に感嘆しながら眺めていると、人の気配を感じて振り返った。
「君が新しく来た風使いの坊や?」
「はい、そうです」
あまりにも早く広がる噂に半ば唖然としたが、それだけ風使いが貴重なのだなと思った。

「ここは、とっても自然が豊かなんですね」
「風の栗廃りに秘められた魔力が沢山の水を生み出しているんだよ。
あれを創ったアロマ初代国王アンサーって人は凄いね……」
「……アンサー……」
アロマの建国王。風車を使い地下から水をくみ上げて、テラフォーミングを開始した偉人。

―クエスは大国だったアロマを滅ぼしたけれど、何故そんな事をしたんだろう?
以前会ったクエスは、国を滅ぼすような事をする人物とはとても思えなかった。
そんな事を考えていると、背後から肩を叩かれた。
ギョッとして振り返ると、先程の馬族の男がいた。
「あなたは……」
「おい、新入り。 これがエンブレムだ。
もうどこかに落とすんじゃないぞ」
「ありがとうございます」

「君、隊長達を探しているんだったな」
「はい」
さっき医務室に向かう道すがら、そんな話をした。
「だったら、長老の家に行ってみたらどうだ?」
「長老?」
フォボスが訝しげに聞き返すと、男が応用に頷いた。
「風の谷の長老だ」
嘗てこの谷に風使いが多くいた頃からいる老人で、数十年前にアロマ王国からこの村の管理の忍を与えられた人物だ。


古びた一軒家でありながらも、屋敷から此処に至るまでの道すがらに見かけた家々よりも、大きく立派なものだった。
扉を叩くが、反応はない。
―留守、かな?
仕方ない。屋敷でクエス達が帰ってくるのを待とう。
諦めて帰ろうとした時に、ふとした拍子に扉が開いた。

―鍵がかかってないってことは、もしかして寝ているのかな?
「お邪魔します……」
フォボスが扉から顔を覗かせながら、声をかけるが反応はなかった。
家の中に入り、辺りを見回すが、生活観の薄い内装だった。
「誰かいませんかー?」
恐る恐る声を上げながら、土間に足を踏み入れた。
その時だ。

「だだ…誰じゃ貴様!!」
「うわっ!!」
突如大声を上げられて、思わず叫んだ。
疚しいことがないのに焦って、冷や汗が流れる。
少年の心の動きに気付いたのか、老人の顔つきが見る見る剣呑さを増していく。
「僕は風使いのフォボスです!」
フォボスが慌ててポケットから、馬族の青年に貰ったエンブレムを取り出す。
疑うような眼差しでフォボスとエンブレムを交互に見ていたが、本物であると分ると先程まで渦巻き、爆発寸前だった敵意が瞬く間に霧散した。
「なに……アショカ兵じゃないとな? ならばよいのじゃ」
フォボスが安堵の息を吐いた。

金属がぶつかり合う音と、肉の切る音が響く。
聞こえてきた異様な音に、フォボスが窓から外を見つめる。
「……何?」
「むう……どうやら公園で誰かが戦っておるようじゃな……」
長老が少年の隣に歩み寄り、少年と同じ先に視線を向ける。
「誰が?」
「うーむ……この気はクエスとサスケじゃなぁ……」
「わかるんですか?」
「分かるも何も……気は人それぞれ違うものじゃぞ」
「あー、そうじゃなくて……」
「修練を積めばお主も出来るようになるわい」

「公園はどっちですか?」


クエス達の姿を見つけて、フォボスが安堵の息を漏らす。

「誰だ!?」
敵意に満ちたサスケの声。
フォボスが覚悟を決めて、茂みから出てくる。彼の姿を見て、サスケの目が大きく見開かれる。
「おめぇ!!どうやって牢を!?」
「えーと…それは……」
サスケの恫喝にフォボスが目を泳がせる。
―素直に言って、信じてもらえるかな?
それでも、嘘をつくよりはマシだ。
フォボスが答えようと、毅然とクエス達を見据えた時、クエスの背後に迫る敵の姿を見つける。
「危ない!!」
フォボスが反射的に声を上げ、彼女を庇う。
斬り損ねてバランスを崩した兵士を、サスケが切り捨てる。

「クエス。大丈夫か?」
「ああ……大丈夫だ」

クエスが姿勢を正し、真正面からフォボスの顔を見つめる。
一点の曇りも迷いもない目。
その瞳に見つめられて、フォボスの息が止まる。
「助けられてしまったな……ありがとう」
サスケがフォボスに顔を向ける。
「おめぇ、名前なんていうんだ? ああ。俺はサスケ。クエスに武術と風の指導をしている。まっ、言ってみれば師匠みたいなもんだ」
「指導?師匠ぉ~?」
「あ……いや……
今は、一緒につるむ相棒ってとこだな」
二人のやり取りを微笑ましく見る。

「僕は未来から来た風使いのフォボスだ」
力強く宣言した。
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