未完

火星物語 未完 『短き生涯』

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23話~24話の間の時期です。
セイラ→フォボス要素強めの、クエス←フォボス→サスケ前提です。














夢を見た。
それは僕にとって”悪夢”そのものの最悪な光景で、幾ら眼を閉ざし、耳を塞いでもそれは執拗に僕を責め立て続ける。
とうとう心が耐え切れなくなって、魂切る悲鳴と共に夢から覚めた。
それが、切欠だった。

秋も終わりに差し掛かり、冷たさを増した風に吹かれた花々が揺れる。
その中でセイラが丁寧に花を手折りながら、籠の中に優しく積み重ねていく。
心此処にあらずという面持ちで花を摘む少女の心の中で堂々巡りを繰り返すのは、一人の少年のことだった。
必ず助けると誓った大切な友人達を歴史の渦から救えなかった事を深く嘆き、悔やみ続ける心優しい少年。
セイラが密かに想い、好意を寄せる少年…フォボス。
彼は現代に帰って来てから暫くは陰りを宿したくらい面持ちで考え込む姿がよく見かけられたが、ある時を境に他者との接触を拒み続けていた。
硬く閉ざされた部屋に独り閉じこもって碌に食事も取らない彼の姿に、まるで我が身を切り裂かれる以上の痛みを心が訴えた。
セイラは、知っていた。
フォボスがクエスとサスケに特別な感情を抱き、彼らを”生き延びさせる”ために奮闘していた事を。
けれど彼の想いも努力も全て報われる事なく、”歴史”通りに彼らは火星の為の犠牲になった。そのフォボスのやるせなさを。
そして、もっと強ければ本当に救えたかもしれないと無力感に苛まれ、悔やみ続けている事を。

小さめの籠に花を摘み終えて、大きく背を伸ばした。
―これぐらいあれば、十分かしら。
凍える冬を迎える中懸命に咲いていた花の命を散らしてしまったという罪悪感はあったものの、”ある人達”の墓前に供えるものであり、またフォボスの心を少しでも慰められればという思いで摘んだのだ。
そんな考えを巡らせていると、ゆったりこちらに向かってくる足音に気がついて、振り返った。
瑠璃色の瞳に映ったのは、よく見知った人物。
「サフィさん」
花々を積んだ可愛らしい籠を抱えた少女が、顔を綻ばせた。
そこにいたのは二十半ばの柔和な顔立ちの女性だった。
フォボス達の面倒をこまめに見てくれる情愛深い女性で、フォボスやセイラは彼女に幼い頃亡くした母親の姿を重ね見ていた。

「フォボス君はまだ…?」
気遣わしげに尋ねられて、セイラがやや間を置いて頷いた。
まだ付き合いの短く浅い風の谷の住人は仕方ないにしても、幼い頃からよく見知っているアロマの住人ですらフォボスの心を開かせる事は無理だったが、度重なる戦いの中、お互いに背を預けあい深い信頼関係にあるセイラならばあるいわという希望がサフィの中にはあった。しかしセイラですらも変わらず拒絶しているのならば、サフィには最早打つ手はなかった。
サフィの胸中を察してセイラが心の中で寂しそうに笑った。
フォボスが物心着く前から共にいるアービンやランプーでさえ、彼の閉ざされた心を解き放つ事はできなかったのに、それをセイラが出来るなどと、買い被りすぎだと想う。
今の心の闇から解き放てる人間は400年も昔に亡くなっている。だからこれは誰かの手を借りるのではなく、フォボス自身が乗り越えるしかないのに。

フォボスの心の傷は癒えることなく、血を流し続けている。
ある夜魂を引き裂かれるような悲痛な叫び声を上げたその時から、フォボスは変わった。
誰も寄せ付けず、独りで部屋に閉じこもって、他者との接触を拒み続けた。
鍵穴から除き見た様子では、雨戸に閉ざされた暗い部屋の中で、樽とその上に置かれた手紙に祈りを捧げていた。だが外と中の唯一の接点だった鍵穴は、差し込まれる視線に気づいたフォボスによって閉ざされてしまい、今の彼の様子を知る術はない。
セイラの脳裏に最期に見たフォボスの姿が鮮明に蘇る。
厳かに樽と向き合い、深く思案するそれが歴史をを変えられなかった自らを責め、追い詰めるものでない事を、願うしかない。
「そう……」
天高く仰ぐ。
「まだクエス王女達を救えなかった事を、悔やんでいるのね……」
クエス達のことは”今”起きたことではなく、400年も”過去”の出来事であり、既に”起きて”定められたことだ。
だから彼女達を救えなかったことは、フォボスに何一つ責任はなく。そもそも彼が何をしようとも歴史の流れには無関係だったと言い切れる。だが、フォボスには納得できない、割り切れない。
フォボスにとってクエス達は過去の存在などではなかった。今を生きている存在であり、”現在”そのものだったから。

「二人とも若い人達だったでしょうに……」
風にかき消されてしまいそうなほど小さく漏れ出た言葉だったが、セイラの耳には届いていた。
自分達の未来を知りつつも、自らを犠牲にして火星を救う道を選んだ英雄達。
死ぬ未来を知っても尚、生きたいと願わなかったのか?
サフィのかすかな呟き声に、セイラが空を振り仰ぎ、雲の切れ間から見える青空の果てに望むものがあるかのように見つめた。
死ぬと分かっていて、それでも世界のためにあえて”歴史通り”に生きる事を選んだ二人。
そこに至るまでの覚悟と決意は誰にでも出来るものではない。それを乗り越えた彼女達は真の英雄だ。
でも……。
「クエス王女達は、一度も迷わなかったのかしら……?」
まるで心の中を読み取ったかのようなタイミングで聞こえた声に、セイラが弾かれたようにサフィを見つめた。
「彼女達を待つ人達だって大勢いたのに、アショカを倒して自分達も生き延びる術を探ろうとしなかったのかしら?」
風の谷の古い書物や文献には当時の住人やアロマ王国から移住した者達が、帰らぬ王女達を待ち続ける内容が記された日記や手記が幾つか現存していた。
文面から伝わってくる、胸を打つ切実な思い。待ち続けて尚諦められぬ思いなどが伝わってくるそれらを見るたびに、サフィの胸は押し潰されそうだった。
だからこそ歴史をそのまま受け入れたクエス達には、どうしてもわだかまりがある。
未来が分かっていたのなら、生きて、生きて、生きて風の谷に帰ってきて欲しかった、と。
そうでなければ自分達の先祖は信じて待ち続けた王女達に見捨てられたも同然ではないか?
そんな事はないとわかっていても、浮かび上がった考えは心の中にこびりついて離れず、消える事はなかった。
「……………それは、わかりません。
でも、下手に動けば最悪の結果になると、クエス様は考えたんでしょう」
歴史とは人々が折り重ねていく繊細なタペストリーみたいなものだとセイラは思う。
僅かな変化が全体に影響を与え、出来上がる”未来”の様相が大きく様変わりしてしまう、そんなものだと。
自分達が生き延びるために”歴史”に逆らって行動する。そうすることが巡り巡って、世界がアショカに支配されるという最悪な未来が織り上げられるかもしれない。
それを、彼女達は何よりも危惧したのだと思う。
少なくとも”歴史通り”に行動すれば、”未来”はアショカの脅威に晒されぬ世界だということはフォボスを通して知っていたクエス達は、その未来を勝ち取る事を選んだのだろう。


「これからクエス”さん”とサスケさんの墓参りに行きますが、サフィさんもどうですか?」
風の谷の屋敷近くにある丘の上、彼女達が何よりも愛していた風の谷を一望できる場所に新しく建てられた墓。
フォボスがこの時代に帰ってきてから、クエス達の墓を作ったのだ。
特別な思いを抱いていた彼女達の死を受け入れるために、フォボスのけじめのためには墓を作るという作業は必要不可欠だった。
一面を覆いつくす花々に彩られた墓所は、四季折々に咲く花が墓を見守り続ける事を願ってのもの。


厳重に施錠され、滅多に日の光が入らぬ部屋の中。
フォボスがゆっくりと瞬きをした後に、緩慢な動作で身体を起こした。
……夢を見た。
”あの悪夢”を払拭させる、そんな夢を。
何日も碌に食べ物や口を入れていない体は力が入らなかったが何とか立ち上がると、窓に向かってカーテンを勢いよく開け放った。
日の光が部屋を射抜き、それまで満たしていた闇を駆逐した。
何日ぶりかの暖かな光が、部屋の中を満たしてゆく。
暗闇に慣れた目には、その光があまりにも眩しかった。
目を細めて耐えていると、次第に光に慣れて外の風景を見ることが出来た。
眼前に広がるのは、自然に溢れた平和な光景。
アショカの脅威に震える過去の世界では、無縁な風景でもあった。

―クエスとサスケは、僕に未来を託したんだ。
彼らを救えなかったことは、今でも辛い。
けれどその悲しみや無力感に苛まれ押し潰されて、自分を見失うことはもっといけないことだ。

とりあえず、今する事は……。
「………お腹、すいたなぁ…………」
小さく掠れた声。
無意識に呟いた言葉に、フォボスが笑った。
それは生きる気力が再び湧いてきた事を、何よりも照明する言葉だったから。
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