未完

DB パラレル 未完 『螺旋』2―5

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注意
若干人を選ぶ要素があるため、ある程度ご覚悟の上読んで下さい。























冬の夜は暗く星もない。郊外よりも都市から離れたその場所では街灯もなく、道中は闇に包まれていた。
全てを凍らせんとする風が、殺された人々の悲鳴のように泣き叫んでいるこの夜に、牛魔王邸大虐殺事件によりなくなった人々の葬儀が行われていた。


喪服に身を包んだ悟飯とピッコロを筆頭とした警邏隊の主だった者達が、合同葬の行われている会場に入る。遺族から殺意に満ちた目、激しい憎しみの宿った目、冷酷な目…様々な眼差しを受けるが、その共通点は虐殺を行った犯人と同じであろう、混血の悟飯とパンへの敵意と、犯人を捕らえる事の出来ない警邏隊への不信感だった。
今まで浴びた事のない敵意に満ちた視線に、パンが耐え切れずに隣を歩いていたビーデルの手を握り締める。ビーデルがパンを見ると、彼女は悲しみと共に怯えも滲ませていた。
ビーデルがパンの手を優しく握り返すと、パンは安心したのか、怯えの色が薄まっていく。そして縋り付くようにビーデルの手を握り締める。
ビーデルが前を歩く悟飯に目をやるが、後姿からは何も読み取る事は出来ない。パンや他の人々が怯え、不快な気持ちになるこの視線すらも、悟飯にとっては当然の事であり、反応するまでもない程慣れきったものなのだ。
―…可哀想な人。


悟飯達が前に進もうとした時に、遺族の一人が彼らの行く手を遮る。


「何しに来た、サイヤ人。
皆、サイヤ人に殺されたんだ。それなのによくもノコノコ来られたものだな!!貴様らには心がないのか!?」
一方的に自分勝手で的外れな事を喚きたてる男の言葉に、悟飯は表に出さないが、呆れと侮蔑を抱いていた。
彼が犯人ではないのに、犯人同様の扱いを受けるのも”混血”という理由だけだ。それだけで犯人扱いされるのも溜まったものではないが、それよりも


場の空気を刺激せぬように男の暴言を受け止めている悟飯の姿を見ていられなくなり、ビーデルが悟飯と男の間に割り込み、悟飯を庇うように男と対峙する。
「よしなさい!!今はそんな事を言う場ではないでしょう!!
混血ってだけで、悟飯を犯人扱いするのは止めなさい!!」
「うるさい!!売女め!!サイヤ人に足を開き、俺達地球人を裏切った、汚らわしい能無しの雌犬の分際で人間様に口答えするなっ!!!」
男は狂気の宿る血走った目で、唾を飛ばしながら怒鳴り散らす。ビーデルが怒りのあまり言葉を失うどころか、身動きすらも封じられ震えることしか出来なかった。
男の怒りと狂気を反映して、場の空気が急速的に異常なまでに過熱していく。
―売女!!売女ですって!?
彼女が男を殴り、先程の侮辱を取り下げさせ、謝らせようとする直前、突如全身に悪寒が走り、血の気が一瞬で引き、歯の根も合わなくなる。両足は萎え、震えている。心臓は苦しく不安定に高鳴っている。息が出来ず、冷や汗が全身から流れ落ちる。
それらは全て恐怖により引き起こされていた。
ビーデルが辛うじて周囲に目配せすると、他の人間達も同じであり、目の前の男は目を大きく見開き全身を滑稽なまでに震わせて、失禁していた。
一歩間違えば人間を発狂させかねない恐怖だ。
その正体は冷酷で純粋な殺気であり、集団の狂気をいとも簡単に鎮めるほどだった。
怒り、憎悪、悲しみにより熱して、爆発寸前だった空気が一瞬にして凍える。
誰もが言葉どころか物音を立てることも出来ず、静寂に包まれている中、恐怖とその源の殺気を放っている人物が口を開く。
「忘恩の略奪者風情が。ビーデルや俺の部下を貶める事は、許さん」
その声を聞き、身動きを封じるまでの恐怖を与える殺気を放っている者が悟飯だと知り、ピッコロとビーデル…警邏隊の間で衝撃が走る。


悟飯が殺気を鎮めると、場を凍りつかせていた恐怖がなくなり、再び息が出来るようになる。時間にすれば僅かな時間だったが、その場に居た者達には途方もない時間が流れていたように感じられた。
恐怖から解放されても、今だ固まった空気の中、悟飯がよく通る声で
「俺は警邏隊として…いや、一人の人間として大恩ある人達と最後の別れにきました」


一人ずつ献花台に花を添え、黙祷を捧げる。遺族の黙祷が終わり、警邏隊の順番になり、ピッコロの次の悟飯の番が来た時に、一際長く黙祷を捧げる。その後姿はとても寂しかった。


パンが涙を湛えながら、台座を見る。
体が残っている者。判別可能だった人間は棺の中に納められていたが、肉片だけのバラバラになっており判別不可能だった者達はまとめて、大きな棺ともいえない器の中に納められていた。
棺は数えるほどしかなく、大きな器が幾つか場を占めていた事からこの事件の残虐性が現れていた。
―こんなの…あんまりよ!
犯人に対する怒りと、早々に葬儀を終わらせようとする警邏隊…いや、政府の思惑に吐き気がする。


牛魔王の遺体は首を切り落とされていたものの”綺麗な”遺体だった。他の遺体の棺は酷い有様であったのか、固く蓋をされて対面出来ずないにも関わらず、唯一対面できる遺体だった。
―おじちゃん…こんなの…嘘よね…?
顔面を潰されていたと聞いていたが、骨を削り、シリコンをいれ、顔貌を復元させた形跡が痛々しく残っていた。
目を閉ざされていても、苦痛の歪んだ顔のまま凍りついている。
献花台の上に飾られている写真の、大らかで暖かく人を優しく包み込む豪快な笑顔と裏腹の死に顔が喉を締め付けて、涙が止め処もなくあふれ出してくる。厳粛な会場に僅かに漂う啜り泣きが苦しくて、顔も上げられずに動く事も出来なくなる。
泣き叫ぶ事で、死んだ人間が生き返るのなら幾らでも泣き叫ぼう。しかしそんな事はありえない。今彼女に出来るのは泣かずに厳粛に亡き人を見送る事だけだった。
涙を拭い、手を合わせ黙祷する。
―おじちゃん。……今までありがとう。犯人は私が必ず捕まえるから、安らかに眠って……
黙祷を終えた後、パンが決意に満ちた目で毅然と顔を上げる



警邏隊の本部に帰った後に


「俺さ…隊長が遺族達を殺すんじゃないかと思ったよ」
クリリンがぼやくように呟く。
ビーデルを、警邏隊を侮辱した男に対する殺気は凄まじく、あの場で殺しかねないと思っていた。
隊員として今までそれなりに危険な目に遭って来て、ヤバイ連中と戦った事もあったが、それでもあれほどの殺気を感じたことはなかった。恐怖だけで狂気を封じ込め、人間の身動きを完全に封じるほどの殺気は。
――悟飯はおっかねぇ――
時々悟空がぼやき、皆に笑い飛ばされる事も、今は実感を伴っていた。今なら誰もが認めるだろう。
あの時の悟飯は誰よりも恐ろしい存在だった。殺気…恐怖だけで狂気に染まり爆発寸前だった空気を、一瞬で沈静化させたのだから。
クリリンが更に言葉を紡ごうとする前に、遮るように悟飯が苦笑を浮かべる
「俺はそこまで考えなしじゃないよ。それに理性を失う程の激情家でもないからね。そりゃあ、許せなかったけどね…。でもあの歪んだ顔を見ていたら、憐れで怒りなんか消し飛んだよ」
「……そう、ですか…」


「暴力沙汰になればマスコミの格好の餌食になるからね。…あの場を鎮めるには威圧するしかなかっただけだよ」
それは正論だ。先日の強行捜査でマスコミから悪意に満ちた過激なバッシングを受けている中、合同葬でも問題がおきれば、警邏隊の権威は完全に失墜する。
あの場では誰が何を言っても聞き入れられずに、更に火に油を注ぐ結果となり、暴動がおきていただろう。
悟飯は誰も傷つけずに、暴動を未然に防いだ事になる。
ただ、それによって隊員の大半が漏らしたり、腰を抜かしたり、今でもやや錯乱気味になっているだけであり、暴動は起きずに済み、失禁した者は気分の悪い中、葬儀を行う事になっただけだ。
クリリンは幸いにも腰を抜かし、生涯のトラウマになっただけで、衆目に恥を晒されるという恥辱まで背負う事はなかった。


「…隊長は、人間が嫌いなんですか?」
それは問いかけでなく、確認するものだった。そんな事、わざわざ聞くまでのない。
人間への不信と嫌悪と憎悪は、今までの悟飯の言動の中にも見え隠れしていた。
もしこの場で悟飯が”人間が好き”だと言っても、クリリンは信じる事はなかった。その彼の心中を読み取ったのか
「嫌いだよ。…あんな存在、到底好きになれないね」
あまりにも淡々と放たれた言葉だが、その中に含まれているのは、嫌悪と侮蔑と憎悪だった。
悟飯と悟天が幼少期に人間達にどのような扱いを受けてきたか…。その事を考えれば、人間を好きになる事など不可能だ。
悟天は物心つくかどうかの年齢の時に、リンチに遭い殺されかけた。悟天はリンチが鮮明に覚えている最初の記憶だなんて、嫌になるよねと笑っていたが、その全身は無意識によるものだろう、震えており、涙は出ていなかったが、目は泣いて…泣き叫んでいた。悟天の背中には今でもその時についた深く切裂かれた傷が痛々しいまでに大きく残っている。
その話を聞いたとき、あまりの事にクリリンは言葉を失い、悟天の前から逃げ出したくなった。
幼子にそんな事をする連中に憤ったが、それよりも許せなかったのは、それを容認するどころか英雄視する、当時の…そして地続きである今の社会だった。そしてそんな連中と同じ”地球人”である自分だった。
悟飯にも同様かそれ以上の事が何度か遭ったらしい。本人達は思い出したくないのか固く口を閉ざしており、当時の二人の事をよく知るピッコロは誰よりも厳重に口を閉ざしているため、よくわからないのだ。ただ、噂では自殺してもおかしくない程の迫害と差別が公然と行われていたようだった。
悟飯達の世代の混血にとって、地球人ほど相容れず、憎悪の対象は存在しない。
けれど…それでは…
「……ビーデルさんや、俺達はどうなんですか…?」
「君たちは別だ。…ただ、例外がある。…………それだけだ」
決して人間を好きではない。
目がそれを物語っていた。


彼らは知らない。
ビーデルが最初から話を聞いていた事を。


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