その他

スレイヤーズ 小説 『今は叶わぬ遠い夢』

 ←『短文集』 1 →『短文集』 2
注意
悲恋です。














私はあなたの母親になっていたでしょう?
でも、本当になりたかったのは母親じゃなくて――
――――――――――
全身から血の気が引く感覚を、生まれて初めて体感した。
”真実”を知ったとき、黄金竜が滅びたときに彼女を襲った、今まで彼女のを包んでいた世界の崩壊よりも――。
まるで足元から、自分自身が崩壊していくようだった。
恐怖に萎える気持ちを奮い起こして、震える唇を動かす。
何か言葉を紡がなければ、気がおかしくなりそうだった。
「……何て言ったの、ヴァル?」
無意識に放った言葉に愕然とする。
―せっかく耳が聞く事を拒絶したのに、何故聞き返すの?
もしかしたら”聞き間違え”かもしれないという、淡い希望にすがっているとでも?

一抹の希望と、それを覆い尽くす絶望と悲しみを抱いた目が目の前にいる男に向けられる。
しかし彼の答えは先程と同じ、彼女の希望を粉々に打ち砕くものだった。
「…もう母さんの嘘には付き合えないんだ」
今までの欺瞞を全て弾劾するかのように、強い眼差しで養母を見る。
「あんたは一体どれだけの嘘をついているんだ?」
養い子の告発に、思わず息を呑む。
その眼差し。
それは嘗て見た―――。
ある人物の姿と、養い子の姿が…完全に重なる。
心臓の鼓動が一瞬、完全に止まった。

本当の事を知られるのが怖かった。
彼が真実を知って、罪を糾弾され、憎まれるのが何よりも恐ろしかった。
だからヴァルが転生した後、今は亡きジラスやグラボスに頼んで、全てを嘘で塗り固めることにしたのだ。
真実を知られるくらいなら、生涯彼の”母親になるつもりで…。

嘗て強い憧憬の想いを抱いていた”母親”を見つめる。
嘘を糾弾され、別れを告げられた彼女は、まるでこの世の終わりかのような絶望に満ちた顔で彼を見つめていた。
闇の中に放り込まれたその姿に、強い後悔が過ぎるが、すぐさま振り払う。
「あんたは一体どれだけの嘘をついているんだ?」
フィリアの動揺を見抜き、ヴァルが冷たく目を細める。
その目。
彼が一番嫌いな、フィリアの顔。
自分を通して、誰かを見つめている眼差し。

子供の頃から彼女が重大な嘘をついていることは察していた。それでもいつまでも一緒にいたかったから、その事実に目を閉じていた。
何を隠しているのか。いつか全て包み隠さず話してくれると信じていたというのもある。
だが、長い年月を経るごとに嘘によって生じた歪みは大きくなり、両者間の亀裂は修復不可能となっていた。
もし、子供の頃に勇気を振り絞って彼女に何の嘘をついているのかを聞き出せればこんなことにはならなかっただろうか?
しかしそれも昔の話。もう取り返しのつかないことだ。
未練と執着に満ちた女々しい思考を振り払うように、静かに首を横に振る。

ヴァルを”ここ”に呼び止めるために名前を呼ぼうと口を開いた瞬間、彼は彼女の存在を拒絶するかのように首を振った。
その動作に言葉が出なくなる。
呼び止めなければ…。
せめて誤解を解かなければ…。
今こそ、本当の事を話さないと…!
思えば思うほど、焦りだけが身体を巡り身動き一つ出来ない。
拒絶される恐怖も相俟って、声を出すことはおろか、何の行動も出来ずに、ヴァルから目を逸らし顔を伏せてしまう。
だから顔を逸らした瞬間、ヴァルがどんな顔をしたのかを彼女は知らなかった。

重苦しい沈黙が部屋を満たす。
その間、二人とも口を開くこともなければ、相手の顔を見ようとしなかった。
どれくらい時間が流れただろうか、ヴァルが深々と息を吐き、重々しく腰を上げる。
立ち上がる音にフィリアが反射的にヴァルの顔を見上げるが、彼女の目に映ったのは”養い子”の姿でなく、一人の”男”の姿だった。

「…さよならだ、フィリア」
初めて呼んで貰った名前は、最初で最後になってしまった。

本当のことをどうしても言えなかった。
言えば、彼が離れてしまうと恐れていた。だから全てを嘘で塗り固めた。
真実を雪の下に覆い隠して、誰の目に触れられないように封じ込めた。
でも……。

永遠に自分の元から去っていくヴァルを見送ることしか、今の私には許されなかった。
――――――――――
本当はあなたの母親じゃなくて、愛する人になりたかったの――。


言い訳
ヴァル→←フィリアの悲恋で、嘘で塗り固めたためにヴァルを失ったフィリアです。
本当の事を知られたくないための嘘からすれ違いが起きてしまったという…。
互いに深く想っているからこそ、ヴァルはフィリアの嘘が許せなかったんです。
フィリアは本当の事を知ってヴァルが全ての記憶を取り戻して、自分を憎み、離れていくのが怖くて、ずっと嘘をつきつづけていた…という。

2011/5/24 小説へ移行
スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png ドラゴンボール
総もくじ  3kaku_s_L.png 火星物語
総もくじ  3kaku_s_L.png 聖剣伝説
もくじ  3kaku_s_L.png その他
もくじ  3kaku_s_L.png 未完
もくじ  3kaku_s_L.png 考察もどき
もくじ  3kaku_s_L.png 短文
もくじ  3kaku_s_L.png 裏部屋
  • 【『短文集』 1】へ
  • 【『短文集』 2】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【『短文集』 1】へ
  • 【『短文集』 2】へ