「火星物語」
火星物語 お題

火星物語 小説 『お題6』

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『命名の儀』






明日は命名の儀。
やっぱり緊張するなぁ…。
どんな名前と職業が与えられるのかはわからないけれど、それでもカンガリアンだ。長老のように変な名前が与えられる事はまずない。
一抹の不安はあるものの、それよりも大きな期待と希望に満ち溢れていた。
少年B…ううん、アービンという名を貰った彼は、頭脳指数が高い事から科学者としての職業を与えられて、勉強に明け暮れている。
それでも彼は勉強する事がとても楽しそうだった。
その姿を見ていると、名前と職業を与えられて大人になるのが楽しみになる。

親友とアロマからカンガリアンに来てから早数日。誕生日も近くなったので、寄宿舎からセンターに移ってからもう三日だ。
寄宿舎では1人で何日も過ごした事はとても心細かったが、それでも大して寂しいとは思わなかった。
こんな事を言えばアービンに馬鹿にされるけれど、それでもまるで誰かが傍にいてくれているような気がしていたんだ。
だから心細くはあっても、寂しいとは思わなかった。
その気配も寄宿舎にいる間だけで、センターに移ってからは途絶えてしまった。それがとっても残念だった。
でも……。ううん……こんな事を考えても仕方ない。
明日になれば僕は大人の仲間入りだ。だから、子供のように非現実的な事を考えちゃ駄目だ。

早く朝にならないかなぁ…
明日への期待を込めて眠りにつく。

その日見た夢はとても不思議なものだった。
Aチップ。タイムスリップ。風使い。クエス、サスケ。アショカ。風。ブラパン党。風の谷。黒の風。アンサー、ポチ。地下世界。風機。アービンの死。アスラ。エデン。風の未来。堕天使。そしてセイラ…。
夢の記憶が一気に溢れ出し、感情も、何もかもが自分を包み込み、飲み込んでいく。
それは大きな波となって、脳の隅々まで染み渡り、感情の動きを誘発する。
夢の中での楽しかった思い出、辛かった思い出。様々な記憶と感情が渦巻く。
嗚咽を堪える。
次第に夢を映していたレンズは濁り、ただの画像となる。
まるで双子の弟の映像を見せられているみたいで、もう自分とは重ならない。
だって、それはただの夢。僕自身の記憶ではない。
だから何も感じないんだ。
その夢は堕天使という化け物を倒し、風の谷と呼ばれる場所に帰るところで夢は終わった。
夢は全て僕の視点だったが、それでも見覚た事のない人々や光景…。夢は記憶の断片の再生だというけれど、僕はあんなものを知らない。
あの夢は……まるで自分と瓜二つの、別の人間の記憶が頭の中に流れ込んできたようだった。

いい夢とも悪い夢とも言いがたかったが、それでも”彼”はあの後どうなったのだろう?
最後の風使い。ハーネス皇帝暗殺。カンガリアンの機密を知っている。そして…人殺し。
もう、マトモな生活を送れるとは思えない。
”彼”はそれもわかっていて、それでも如何なる困難に負けないように、心の闇に冒されないように最期まで”自分”であれるように強く生きようとしていた。
そんな事、僕には到底出来ない。
……出来なくて当然だ。だって僕は”彼”じゃない。
「…フォボス…か」
とても強く、憧憬の対象になりえる”彼”の名を唄うように口ずさむ。
それはどんな名前よりも自分にしっくり来る気がする。
その名前がつけられたらいいと思うけれど、そんなのは無理だ。だって名前は自分で決められないんだから。

待合室で呼ばれるまで待つ。
部屋には同じように命名の儀を受けに来た同い年の人々がいる。
前の人が呼ばれたから、次は…僕だ。
「A710。アロマ出身ノA710」
名前を呼ばれた。
―いよいよ、か…。
少年が緊張した面持ちでロボットの元に向かう。
ロボットと向き合うと同時に、少年の中で何かが弾けるように警鐘を鳴り響かせる。
  ――引キ返セ。今ナラマダ間ニ合ウ。早ク、早ク――
警鐘はどんどん大きくなる。
強く瞼を閉じ、警鐘を振り払う。
次第に警鐘は小さくなったが、それでも名残惜しそうに警鐘は鳴っていた。
この時彼は自分がどんな顔をしていたのか…知らない。
「A710。アナタノ名前ハ……」
その言葉と共に警鐘は完全に消えて、もう聞こえない。

…――――…。
それが、僕の名前だ。
与えられた名前を口の中で唱える。
先程の夢が頭の中からあっと言う間に消えていき、残滓すらもなくなった。

”フォボス”はいない。…存在しない。
















言い訳
アービンがAチップを挿されなかった場合、フォボスは何の迷いもなく命名の儀を受けていただろうから。
セイラとの出会いが、あの冒険の始まりだと思っていますので(チェーンウォッチや、三話の題が『BOY MEET GIRL』になっている事から、セイラに会う事によってフォボスの運命は大きく変わったという考えから)この話ではセイラに会っていません。

この話はバッドエンドとグッドエンドが交じり合ったものです。
セイラや誰とも出会わない代わりに、アービンを失う事はありません。
風使いとして覚醒しない代わりに、平穏な暮らしを送れます。
何も手に入らない代わりに、何も失う事はありません。(あの冒険で手に入れたものは、フォボスにとっても大事な財産だから)
全てが無かった事になっている…と一見すればバッドエンドですが、それでもフォボスのその後の事を考えればグッドエンドなのです。この話のフォボスは他のシリーズの彼が、魂が焦がれるほど切望しても絶対に手に入れられない、叶えられない”自由で平穏な一生”を過ごす事が出来るのですから。
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