未完

DB パラレル 未完 『螺旋』3―4

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終始俯き加減で、殺気に似た峻険たる雰囲気を纏う悟天に、人々は避けて近付こうとはしなかった。
しかし自分の世界に篭り、周囲への観察を怠っている今はその事に気付きもしない。
彼の頭の中では、病院内のやり取りが繰り返し再生されていた。
幾らハチの怒った時の顔やオーラが悟飯やトランクスに似通っていても、彼女は彼らではない。なのにこうして逃げ帰る真似をしてしまった自分自身に憤っていた。
―何なんだよ、所詮地球人の女じゃないか。 幾ら悟空に勝ったといっても、そんな大した事でもない! 強いという証にはならないじゃないか!!
苛立ちは心中を渦巻き、悟天の胸を焦がす。
―……面白くない、なぁ…。
面白くないといえば、チチへの扱いだ。何故彼女があんな目に遭わなければならないのか。
悟飯やピッコロに尋ねたとしても、教えてくれる確率は限りなく低い。ならば…
―隊内で地位のある、兄ちゃんに信用されている人物を探して、聞き出すか。
表立っていないが、極度の人間嫌いの悟飯が一応の信用を寄せる人間だ。相手の悟飯への忠誠心は高いから、聞き出すのもクロウするだろう。しかし、それはそれで手応えがありそうでワクワクする。
悟飯に知られれば厳しく叱られるが、チチに何が起きたのかを知るためには手段を選ばない。
これから何をすべきか。その方向性を見出した途端、曇り空に一筋の光が差し込み、道が示された気がした。

夜も更け、街灯を除いた近隣の照明も既に消えているにも関わらず、隊長室の照明だけは今も煌々と明るかった。

悟飯が書類を認めていると、軽やかなノック音の後に了承も得ずに悟天が扉をあける。その気配に悟飯が顔を上げた。
「悟天。お前、今まで何処にいたんだ?」
深夜遅くまで一切連絡をよこさなかった弟に、
「内緒」
クスクス笑いながら答えると、悟飯が苦笑する。
「…そうか。内緒、ね」
「大体、俺もう28だよ。 兄ちゃん心配しすぎなんだ」
頬を膨らませて、むくれるその姿は童顔も相俟って”大人”の姿には見えない。
「そりゃあ、心配するに決まっているじゃないか。
大体、お前二年間何をしていたんだ? フリーライターだけで本当にやっていけたのか?」
「色々と、副業していたんだよ。 生活のためには意に全く沿わない、嫌な事をするのも必要だからね」
一瞬言葉が詰まるも、すらすらと答えた。
当初はフリーライター一本だったが、一年目で副業がメインになっていた。
「だったら、もっと早く帰って来ればよかっただろ? なのに何故……」
「俺さ……大人だもん。いつまでも兄ちゃんの後ろを着いて回る子供じゃないし!
俺が、俺として自立するためには兄ちゃんの庇護から離れなければならないと思ったんだよ。
この二年間、色々とあったけどさ……。でも、色々と役立つ情報や、手段を覚えたから、無駄ではなかったよ」
「……悟天……」
「あ、そうだ。 ねぇ、兄ちゃん。何でチチちゃんの記憶を取り戻そうとするのさ?」
世間話をするように何気ない口調だった。
一瞬だけとはいえ取り繕う余裕もなくし、悟飯は目を瞠り、悟天を見つめた。
悟天が大きく溜息を漏らして、沈黙を破る。
「いくらなんでも薬を使おうとする? しかもあの、C.C社長との面会のアポ取りに東奔西走するなんて、どうかしているよ」
短絡的なやり方は、悟飯の主義に真っ向から反する。
政府の施設である特別監視房。厳戒態勢と徹底した情報統制。
この件には政府の上層部が深く関わっているのは間違いない。
「悟天…。その理由を知りたいか?」
「だから今ここにいるんじゃないか」
「……そうか。なら、悟天。今から話す事は誰にも…特に悟空には絶対に話すな」
人を射抜く鋭い眼差しで弟を見据える。
悟天が頷き、了承の意を伝えた。
……悟飯の口から語られた事実は、チチに恋している悟天には到底許しがいもの。
「クソッ!!政府め……!! チチちゃんは道具じゃないのに……。そんなの、あんまりだっ!!」
憤慨し、地団駄を踏む。
混血は”人間”ですらない。その考えは悟天が何よりも毛嫌いするものだった。
悟天が恨みがましく悟飯を見る。
「ねぇ、兄ちゃん! それでも記憶を取り戻そうとするわけ?」
「……仕方ない。ただでさえ犯人を取り逃がしたせいで、隊や都市の立場も悪くなっているんだ。 これ以上の失敗は許されない」
「でも…でも、酷いよ!! そんな……あんまりだ!!
俺、知っているんだからね! チチちゃんに……何があったのかかを!!」
悟飯が剣呑な眼差しを向ける。
鋭く人を射抜く瞳で見据えられて恐怖に囚われることなく、悟天は毅然と強く睨み返した。
「……悟天。誰から…いや、どうやって聞きだした?」
事実を知る者はごく少数。皆口が堅く、信用に値する人間達。
基本的に地球人を信じない彼が”信用に足る人間”と判断した者から、どのように情報を吐かせたのか。
「そんなの、どうでもいいだろう!」
悟天がぶっきらぼうに答える。
まさか、全く口を割らなかったから調教して聞き出したなんて言えない。
「そうだな、どうでもいいことだ」
冷ややかな声音に悟天が悟飯を見る。
「所詮は地球人だからな」
――卑しい、信用に値しない存在――
言外に含ませた言葉は悟天も同意するもの。けれど……
ビーデルはどうなんだ?と尋ねたくなるも、口に出さなかった。

「俺だって……犯人は絶対に許せないよ!!でもだからといって………」
黒いマグマが身体の中を駆けずり回り、暴れ出そうとする。
拳を強く握り締め、爪が皮膚を傷つける。
血は指を伝い、ポタポタと床に流れ落ちる。
「悟天、やめるんだ!!」
悟飯が手を伸ばしかけた瞬間、今まで抑圧していたものが切れて爆発した。
「ふざけんなっ!! 政府の犬になって、人の心を失うなんて兄ちゃんの馬鹿っ!!鬼!!最低だよ!!見損ないまくったよ!!」
怒りを込めて繰り出された拳が、悟飯の頬を打つ。
悟飯が身体をよろめかせて口内の血を吐き捨てて、血を拭う。
「……なんで?」
あからさまに動揺した様子で、恐る恐る口にする。
自分の攻撃など容易く避けられると思っていた。まさか、本当に殴るつもりなんてなかった。
「……悟天、少し頭は冷えたか?」
気遣う兄の眼差しに、悟天が少し間を置いて頷く。
自分を冷静にさせるために、わざと大人しく殴られたことがわかり、ひたすら申し訳なかった。
「さぁ、傷の手当てをしようか」
悟飯が優しく悟天の手を取る。
深く爪が食い込んでいたせいで、見るからに痛々しかった。
悟飯の優しく責める眼差しに、悟天が気まずくて、顔を逸らす。
「……これくらいなら、明日にはもう治っているよ」
サイヤ人の脅威の治癒能力も宿した彼らにとって、これくらいの傷はわざわざ治療するほどではない。
悟飯が、彼の頭を指で小突く。
「いくらサイヤ人の血が流れているといっても、不死身じゃないんだ。 自分の体を軽んじるのはやめろ」
「……俺は、自分を軽んじてなんか……」
「違うと言い切れるのか?」
「………」
そっぽを向く弟の頭を羽根のように撫でた後に、強く抱きしめる。
「悟天。お前はおれのたった一人の弟だ。 ……お前がいたから、俺は堕ちることなく生きてこられた……。 悟天。お前は、俺の恩人なんだ」
目を瞠る悟天の背中を優しく叩きながら、耳元で言葉を紡いた。
悟天が顔を上げ、目を丸くしたまま悟飯を見つめる。
「……恩人? 俺が、兄ちゃんの?」
「そうだ。 だから自分を軽んじるのはやめろ。 お前が傷つけば、それ以上に俺は悲しくて辛いんだ」
しっかりと悟天の目を見つめて言い聞かせる。
優しく慈愛の篭った眼差しは、幼い頃から悟天だけに見せていたもの。ビーデルやパンの知らない、悟天だけの悟飯の姿。
弟がゆっくりとだが、深々と頷いたのを見て、悟飯が微笑む。
書棚の元に行き、手馴れた所作で幾つかの本の出し入れを行うと、仕掛けの作動する音と共に書棚の奥から引き出しが現れる。
悟天が興味津々に悟飯の手元を覗き込むと、引き出しの中には藍色の小瓶が幾つも収められていた。
「何、それ?」
「メディカル・ジェル。 簡易式のメディカル・マシンだよ」
「うわっ!懐かしい!!」
メディカルジェルは、二十年近く昔C.C社があった頃に製造していた商品だ。
メディカルマシンに比べて比較的安価で扱い易く、治癒力を300倍まで高めるメディカルジェルは病院や警察などに取り引きされていた。
悟飯が瓶の一本を取り出し、悟天の掌に塗ってゆく。
薬品が塗られた箇所から傷口が瞬時に完治した。
その様子に悟天が感嘆の思いを口にする。
「うわぁ…やっぱり、凄いね……」
「メディカルマシンには劣るけれど、俺達混血ならこれだけで完治できる」

メディカルジェルの隠されている書棚に目をやる。
―C.C社がなくなって久しいのに、一体どうやってあれだけの量を手に入れたんだろう?
C.C社が倒産した後、ホイポイカプセルとメディカルジェルは激しい奪い合いの対象となり、一時は数百倍以上に値段が高騰した。
それらも今はもう尽きているものばかり。
書棚にあった量を今手に入れようとしても入手不可能だ。億単位の金を積んでも、手に入れるのは限りなく難しい。
―……どうやって手に入れたか気になるけど、兄ちゃんの人脈と情報収集網があれば……何とかなるかな?
考えたくないが違法極まりない手段で手に入れたに違いない。今では合法な手段で手に入れるのは、不可能なのだから。

昨日は嫌な夢を見て、一睡も出来なかった。
いつもの如く血に染まった夢。そして、何かの影。
仮眠室が空いている時間を見計らって、悟空が仮眠室に向う。
大きな欠伸と共に扉を開くと、そこには既に先客がいた。
仮眠室で毛布を被って眠りに着いている悟天の姿に、悟空の動きが止まる。
嫌な予感が走り、引き返そうと考えるが、すぐにそれを振り払った。

悟天の隣を通りがかったとき、悟天の気配を感じて足を止める。
顔面に迫り来る拳。
それが意識を失う直前の光景だった。

「寝ている時に近付く方が悪いに決まってるじゃないか。 さっきのは自衛だよ!」
意識を取り戻した悟空に言ったのは謝罪ではなかった。
「自衛だけで、顔面を思いっきり殴るのか!?」
反省の感じられない対応に憤り、悟天の胸倉を掴んで怒鳴る。
サイヤ人でなければ顔面の骨が砕ける力で殴られて、謝罪の一言もなければ悟空の怒りは当然だ。
―そうしないと殺されるような環境だったから、仕方ないだろ。
悟天が心中で吐き捨てる。
染み付いた習性は中々落とせない。
寝ぼけ眼で最初に認識したのは、悟空の顔面を殴る自分の拳だった。
無意識に行った事に罪悪感を覚えて、昨日悟飯から貰ったメディカルジェルを使ったのだ。
そのおかげで、悟空の顔面には傷一つない。
だが、それは口にしない。
その辺りを悟空に話せば、どんな生活をしていたのかと問いただそうとするだろう。
悟空の追求なんか別にどうでもよかった。それよりも悟飯やピッコロの追求を逃れる自信は全くない。だから、誰にも二年間の副業の事を知られることだけは避けなければならなかった。
悟天が笑顔を貼り付けて、悟飯の頭をポンポンと軽く叩く。
「あぁ、ごめん。 悪かったよ」

「悟天、昨日は早く帰ってきてたそうだけど、何かあったのか?」
悟天が顔を顰める。
「そんなこと、お前には関係ないよ」
ぶっきらぼうに言い放った悟天に、御供が怪訝そうな面持ちを浮かべる。
悟天を動かせる人間を悟空は二人しか知らないが、不服そうな顔はそれとは異なるようだ。
ふと、頭の中にある考えがよぎる。
―……もしかして、悟天の奴。あの看護士を怒らせて追い出されたのか?
普段何かと馬鹿にする強い兄貴分の落ち込む姿に、心の中でほくそえむ。
悟空の心の内を読み取った悟天が、鋭く悟空を睨みつける。
「……ねぇ、悟空。 俺は君に馬鹿にされるほど、落ちぶれてないんだけど?」
全身が凍える悪寒を催させるオーラと共に放たれた言葉に、悟空の体が硬直した。
目の前にいるのは人懐っこい青年でない。大魔王の弟、黒き策士の悟天。
冷や汗を流しながら、必死に話しを逸らそうとするが、中々有効な手段が思いつかない。
悟天が悟空の胸倉を掴んだ瞬間、悟空の頭の中に天啓のように一つの事柄が浮かぶ。
「なぁ、悟天! おめぇ、C.C社長のこと知ってるか?」
「C.C社長? ……あぁ、製薬会社の方…か」
―他になにかあるのか?
疑問に思うも、せっかくの機会をふいにしてなるものかと更に言葉を続ける。
「チチの記憶を取り戻すにはスーベニアって言う薬が必要なんだ。 手に入れようにも生産停止で在庫はもうねぇし……。
社内に補完されている在庫を買い取ろうにも、相手が相手だ」

「頼む!悟天!! C.C社長の事を教えてくれ!」
両手を合わせて拝むように頼み込む悟空に、悟天は冷ややかな視線を送る。
「そんなの知ってどうするのさ?知ったところでお前にはメリットもないだろ。 ただの自己満足なだけだよ」
「わかってる!けど、オラ……チチのために何かしてぇんだ!!」
切実な思いの込められた声音に、悟空がどれだけ彼女の記憶を元に戻したいと願っているかが窺える。
―いい気なもんだね。
知らないことは幸せだ。
昔、誰かが言った言葉がふと脳裏に過ぎる。
後に彼が苦しまぬように、本当の事を口にしようとするが、悟飯との約束もあり、悟空には本当の事を言えない。
悟天が頭をかいて、大きく息をつく。
「……しょうがないなぁ……。俺の知っている限りでいいなら、教えてあげるよ」
予想外の言葉に悟空が目を真ん丸くしていたが、すぐにキラキラと目を輝かせて身を乗り出す。
「本当か!?」
「あぁ、勿論」
悟天が身を仰け反らせながら答える。
そんなに信用ないのか?という思いは、とりあえず封じ込めて。

「C.C製薬会社社長って、ほんとに大したもんだよ」
悟天が珍しく高く評価している人物に、悟空の興味が更に高まる。
「そんなにすげぇのか?」
「うん。若い女社長って噂だけど、手腕はやり手の婆さんだよ。 あれじゃ政府の馬鹿共が軽くあしらわれるのも無理ないね!
誤解している奴が多いけど、指導者に必要なのは最適な駒を配置して、上手に使う能力だ。 あの社長はそれにとても優れているから、きっと帝王学を学んでたんだろうね。
会社の草創期には随分悪辣な事もしていたみたい。 でもこの十年近くは嘗てに比べたらかなり大人しくなっているよ。
保健機関を中心に多額の寄付を行っているけど、寄付と書かれたわいろと読み取らせないよね」
「………悟天。何でそこまで知ってるんだ?」
「有名だから、これくらい調べれば出てくるよ。 でも草創期はやり方はイメージダウンとしてマスメディアに一切流れないように手を回されているから、簡単には調べられないよ」
「……おめぇ、そこまでわかってんのに、C.C社長に関する事はわからねぇのか?」
「だって、その社長って表舞台に一切出ないし。
社員は見たことないし、上役は口の堅く忠義心に厚い人間ばかりだから。情報は殆ど流出しないんだ。
俺も以前副業の関係でC.C製薬の上役を拉致して色々やったけど、最後まで口を割らなかったよ。
普通体は心を裏切るけど、最後まで社長に忠義を貫き通した…。 そこまで人間の心に影響を与える人物ってのはかなりの大物だよ」
「おめぇ、さっき拉致って言わなかったか!? この二年間、何してたんだ!?」
悟空が問詰めるが、悟天はさくっとスルーする。
「色々な観点から見て、C.C製薬社長は十分尊敬に値できるよ」
「悟天……おめぇ、本当にフリーライターって仕事をしていたのか?」
悟天が流し目をしつつ意味ありげに笑う。
「ライター以外にも、様々な副業をしていたよ」
直後、彼の全身に悪寒が駆け巡り、身体が強張った。
「この二年間、一体どんな副業をしていたのか……是非とも教えてくれないか、悟天?」
背後からかけられた言葉に、悟天が顔面蒼白になり、ぎこちない動作で恐る恐る振り返る。
気配もなく立ちはだかるのは、にこやかに笑う菩薩の姿をした大魔王。
「……兄ちゃん、いつからそこにいたの?」
冷や汗を流しながら、上目遣いに尋ねる。
「ついさっき。 お前がC.C社長について話し始めたときからだ」
「…………さよう……ですか……」
「悟天。お前もまだまだ修行が足りないようだね」
「…初っ端から気配も音も全て消してたんじゃ、気付くのも難しいです」
「それでも分る人間が一流なんだよ。 お前はまだまだ程遠いな」
「………一流以前に、そこまでいったら人知を超えた領域だと思うけど……」
「そんなことより、悟天。お前はこの二年間、一体何をしていたんだ?」
「えーっと……副業を、色々と……」
「どんな副業をしていたんだ?」

「混血が生きていこうと思えば、様々な副業に手を染めなければならなかったわけで……」
「犯罪に手を染めるくらいなら、早く帰ってくればよかっただろ!」
悟飯が厳しく叱責して、悟天が身を竦める。

「悟天。おめぇ、それだけのことを調べられる情報網があるんだろう? 何か社長とアポを取れる伝手を知らねぇか?」
「無理!! 兄ちゃんでも無理だったんだから、俺に出来るわけないだろ!! 第一、そんな伝手があったら餓死寸前まで追い込まれなかったし!!」

「……なにもそこまでチチちゃんの記憶を取り戻そうとしなくてもいいんじゃないのか? 忘れたから忘れているのに、それを無理矢理思い出させてどーするんだ?下手したら発狂しちゃうよ」
「悟天!! おめぇまでそんなことを言うのか!?
暗く悲しみを漂わせた悟天に、悟空が突っかかる。
チチが自分を忘れたままなど、冗談でない。
彼女が記憶喪失になってからの今までの憤りをぶつけるかのように悟天を怒鳴る。
だが悟天は眉一つ動かさず、呆れと哀れみを漂わせた目で悟空を見返す。
「…………そうやって、自分のことばかりしか考えてないから、お前はいつまで経ってもガキなんだよ」
「何だと!?」
「大人ならもっと広い視野と深い洞察で物事を見るもんだよ」
二人のやり取りを黙って観察していた悟飯が咳払いする。
「……悟天」
「はいっ!!」
背後にどす黒いオーラを漂わせた兄に呼ばれ、条件反射で悟天が背筋を正す。
「本当に、何一つ伝手はないのか?」
「えーとぉ……」
目を宙に彷徨わせながら、言葉を濁す。
ないと答えれば無能な弟を持った覚えはないと言われそうな空気の中、悟天が答えに窮していた。
一応あてならあるが、それを伝手と呼ぶにはあまりにも頼りない。
面倒ごとは極力避けたいし、チチの記憶を取り戻させたくない。それに悟飯が手詰まりを起こしたのだから、自分の伝手などないも同然。なので「伝手はない」と悟空に答えた。
悟飯は嘘は勿論のこと、確証のない事柄をたやすく口にする人間は大嫌いだ。空気に流されて「アポを取れる」と答えても失敗すれば…。
誰よりも尊敬する兄を失望させることだけは、絶対に嫌だ。
深く俯き、ずっと黙ったままの悟天に、悟空がポツリと呟く。
「……そうだよな。悟天なんだから、無理だよな」
悟天がピクッと肩を震わせて、顔を上げる。
思ってもいなかった人物に馬鹿にされた怒りで、頭に血が上る。
悟空には感知できない速さで彼の胸倉を掴み、眦を吊り上げて睨みつける。
「カカロット! 今、何て言った!?」
悟飯やピッコロになら何を言われても許せる。だが、自分よりも遥かに格下に馬鹿にされることだけは、どうしても耐え難く、許せない。
「悟天には無理だって言ったんだよ!!」
悟空は怯まずに、強気に言い返す。
―俺はこんな奴にまで、見下されているのか!?
憤りが彼の身の内を熱く焦がす。
「そこまで言うなら、俺の実力を見せてやる!! C.C製薬社長のアポでもなんでも、とってきてやるよ!!」
威勢良く啖呵をきると同時に、悟飯が満面の笑みを浮かべた。
「そうか、アポをとってきてくれるか」
すぐ側から聞こえてきた兄の声に、ハッと悟飯を見る。
悟飯は菩薩のような慈悲深い笑顔を湛えながら、真摯に弟を見つめていた。
「頑張ってくれよ、悟天」
漸く嵌められたのに気付いた時には既に遅く。
―今のなし!!
力の限り叫んで拒否できるものなら、拒否したい。
だが、期待に満ちた眼差しで肩を叩かれた以上逃げ出す選択肢は潰えた。
眼前にある道は、たった一つのみ。
「勿論…。 男に二言はないよ」
引き攣った顔で、誠意を込めて答える。
悟天の答えに満足した悟飯が部屋を立ち去ろうとした時、ふと足を止めて振り返る。
「悟空。 悟天はお前より遥かに強く有能だよ」
大魔王の怒りの片鱗を覗かせた視線に、悟空の腰が抜ける。
悟飯が立ち去った後、部屋には腰を抜かした男と、自分の発言を心底後悔している男が残された。
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