「聖剣伝説」
聖剣伝説 お題

聖剣伝説2 小説 お題 『Raven』 1

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注意
オリジナル設定があります。
こちらの設定を使っているので、まず一読してください。
2は3の遠い過去の世界という大前提があります。

2より数十年前の話です。
オリキャラのみの話です。

















一人の青年が廊下を歩く。
年の頃は二十代前半。高く結わえた漆黒の髪と同色の瞳を持ち、凛々しく精悍な整いすぎた美貌を持つ青年だった。
筋骨隆々とした均整の取れた逞しい身体には、一切の無駄がない。
音から切り離されたかのように無音の動作で歩を進めるが、それは骨の髄まで染み込んだ所作の一つ。
青年がふと立ち止まり、窓から外を眺める。
広大な敷地に時節折々に楽しめる、とりどりの流水花木が彩られ、非常に趣味のいい庭園だった。
空間のない派手な装飾に疲れていた目には、その庭園は安らぎを与えた。

彼の名はシン。血統者と呼ばれる民族の長の家柄のものであり、同族内では有名な実力者だ。
血統者と呼ばれる彼らの民族は、気を操る能力と黒髪黒目という容貌から世間一般では”悪魔”と恐れられていた。
能力を最大限に活かし、外貨を得るために間諜や患者、暗殺などの闇の仕事に従事している事も、畏怖の一つとなっている。

現在の彼の仕事は、貴族の子女の護衛だ。
依頼主である貴族の家柄は祖父の代の放蕩により没落しかけているが、帝国内では名門中の名門だった。
娘の政略結婚により家を持ち直そうとしていたが、そのせいで政敵に狙われていた。それ故、娘は常に命の危機に晒されて、今までの護衛は皆殺された。
見事な手際から血統者が関わっていると見た当主が、周囲の反対を押し切ってシンを護衛に引き抜いたのだ。
そのおかげだろう。暗殺者は息を顰めており、彼が雇われてからの数ヶ月間、襲撃はなかった。
当初は息女の護衛だけしていたが、あまりにも暇なので、暗殺者や不穏分子の洗い出しなど契約内容以外の仕事もこなしていた。

日の光が燦々と庭に降り注ぐ。
庭の片隅にある東屋の中、椅子に腰掛けて分厚い本を読みふけている護衛対象の姿を見つけて、シンが安堵の息を漏らす。
本を前にしている時の彼女は読むのに集中しており、誰かが近付いても気付かない。
命を狙われている自覚はあるのかと思わず問いたくなる姿だが、超一流の暗殺者を前にすれば素人が幾ら警戒しても無意味だ。それならビクビク怯えるよりも平静を保っていた方がいいという答えを聞いた時には何と豪胆で命知らずかと呆れたものだ。

「クラウディア」
シンが形のい唇で彼女の名を紡ぐ。
低く美しい聞く者を虜にする声で呼ばれて、女性が本に向けていた目線を彼に向ける。
たおやかで華奢な体つきのシンと同年代の女性だった。
見る者の心を奪う程、均整のとれた美しすぎる顔貌。背中まで伸びた絹糸のような艶やかな瑠璃の髪と宝石のような瑠璃の瞳。雪と見紛う白皙の肌。
まるで神が精巧に作り上げた、この世ならざる芸術品のごとく。優美という言葉をその身で体現している彼女は、神々しいまでに美しい。
彼女を見るたびに、いつも感嘆の吐息を漏らす。
初めて会ったときから他の者には抱いた事のない好意を抱いて、よく目で追うようになった。
契約以外の仕事を行うのも、偏に彼女のためになるから。それだけだ。
ロマンチストではあるが、その情に身を任せるほど彼は愚かではない。
たとえ互いに好意を寄せ合っていても、それは同じだ。
彼女に施した結界が作動している事を確認して、彼女の側に歩み寄る。
「何の本を読んでいるんだい? お嬢さん」
シンが興味深げにクラウディアの手元を覗き込んだ。
目に入った文章を一瞬で読み取り、記憶する。一度見聞きした事を全て記憶できる体質は、彼の自慢でもあった。
思わず近付いてきたシンの顔に思わず息を呑む。彼女の意に反して、鼓動が速くなった。
「これは『真実の書』といって、マンテン山の賢者様が書かれたものの完全な複本です」
動揺を誤魔化すかのように、本に目線を落として早口で告げる。
何代か前の当主が買い求めた本らしく、書物庫の中に埋もれていたものを引っ張り出してきたのだ。
「『真実の書』……大賢者ジャッハの第一の弟子ジーコ著の本か! 完全な複本は手に入りにくいから、一部しか読んだことがないんだ。 よかったら後で読ませてくれないか?」
クラウディアの言葉にシンが感嘆の声を上げて、好奇心に目を輝かせる。
「よく知っていますね…」
予想していなかった答えに、彼女が目を丸くする。
『真実の書』の完全な複本は非常に数が少なく、100冊にも満たない。
貴重性や、専門的な哲学書であるため、少し嗜んだ程度では存在すら知る事のない本だ。
「意外だった?」
シンが更に顔を近づけると、クラウディアが慌てて顔を逸らす。
いつもの反応に、シンが内心溜息を漏らす。
彼女の反応には色々と思うことがあるも、あえて口にせずに別の事を口にする。
「君。俺の事を警戒しているだろ」
疑問系でなく、断定した口調。
クラウディアが毅然とシンを見返す。
「警戒などしておりません」
「だけど君の気は若干の警戒を宿している。 俺達血統者が”悪魔”と呼ばれているから、安心できないのか?」
「私はそんなことで人を判断しません!」
キッと憤りを宿した強い眼差しでシンを見返し、昂然と言い返した。
「本当に?」
「では、あなたは他民族を人間として見ないのですか?」
「まさか」
シンが笑って、肩をすぼめる。
「ただ民族が違うだけだろ」
同胞内にはそのように考える者が多く占めているが、彼はただ民族の違いという認識だ。
「俺達も君達も同じ”人間”だ」
途端、シンの笑みが更に静かになり、冷ややかな色を宿す。
「だが、他民族は俺達の事を”悪魔”と恐れる」
「あなたがたはただ珍しい髪と瞳の、特殊な力を持っている人間で、尻尾や翼が生えているわけではないでしょう。
ならば、悪魔の定義からは外れています」
予想外の反応に、シンが唖然としてクラウディアの顔をまじまじと見つめる。
―……こんなことを言う人間なんて、初めて見た。
黒髪黒目という奇異な容貌だけでなく、気を操る能力を持つ血統者は他民族から畏怖の念を持たれ、悪魔と呼ばれている。
血統者が古くから住まう東国には彼らに畏怖の念を持ち、崇める人々が多い。それこそ彼らのために働き、命を捨てることすら躊躇わぬ人々だ。
しかし、大概の人々は自分達とは異なる風貌と異能を持つ者を極端に嫌う。国によっては血統者だと知られれば、即処刑される所もある。なので彼らは東国という閉鎖された地域で暮らしている。
ヴァンドールは偏見はあるものの極端な迫害や差別はないから、数十年前までは割りと出入していた。だが、タナトスという呪術師が現れてからは城に勤める者は皆無になった。

「シン?」
目を丸くして彼女を見つめていたシンに、居心地が悪くなったクラウディアが声をかける。
シンが咳払いして、彼女と目を合わせるように腰を降ろす。
「それでは、どうして必要以上に距離をとろうとするんだい?」
「……婚約者がいますから、貴方とは余り距離を縮めない方がいいと思ったんです」
目を伏せて、淡々と答える。
数えるほどしか会った事のない許婚。
傲慢で、貴族意外を見下す冷血漢。そんな人間は嫌いなのだが、家の存続のためには仕方ないと割り切ろうとしている。
ふと顔を上げると、シンから普段の軽い空気が消えていた。
真摯な眼差しで見つめられ、クラウディアの鼓動が高まる。
「それは困るよ」
「え…?」
彼の言葉に彼女が瞠目する。
―何故?
その言葉が、喉に張り付いて声が出ない。
「俺の仕事は君の護衛なんだ。 距離を置かれたら守れなくなる」
仕事だから。
その答えに落胆と失望が入り乱れる。
わかりきっていたことなのに何を期待していたのかと、自分自身に苦笑する。
「安心してください。貴方の仕事の妨げには……」
「でも、君の事は仕事抜きで守りたいと思っているよ」
クラウディアの言葉を途中で覆い被せる形で、シンが低く美しい声を紡ぐ。
優しい微笑をたたえた顔は、誰が見ても瞬く間に虜になるだろう。
彼女が頬を紅潮させて、目を伏せる。
―お願いだから、止めて欲しい。
近いうちに嫁ぐ身。
嫁いだ後には会えない存在。
相手に対して疚しい心を持つことなく嫁ぐのは、人としての誠意。
心を乱さないで欲しい。これ以上乱されたら、覚悟が緩んでしまう。
シンがクラウディアの髪に手を伸ばし、一房手に取る。
髪に神経が通っているわけないのに、彼に触れられたところが、熱かった。
「……あの……シン……」
「あぁ、髪にゴミがついていたよ」
朗らかな明るい笑みを浮かべて、彼女の細く艶やかな髪を丁寧に優しく梳く。
彼の視線から逃れるように目を伏せる。
しっかりと人を見つめるその瞳が苦手だった。漆黒の瞳で見つめられると、意思に反して心臓が高鳴る。頬が紅潮する。
いつも軽口めいた事を言って振り回す彼が嫌い。
――こうして側にいるだけでも妙に心が浮きだって、抑えるのに必死なのに――
彼を”悪魔”だと思えば、この気持ちから解放されるだろうか?
しかし彼女は偏見で人を見るのは、何よりも恥ずかしいことだと分っていた。
目の前にいるのは、誰もが見惚れる凛々しく端正な美丈夫。
目を伏せたままでいるクラウディアに、シンが優しさを湛えた微笑を浮かべて、彼女の肩を優しく掴み、目を合わせる。
「クラウディア。 そんなことをしていては、君の魅力が半減するよ」
「……癖なんです」
顔を逸らして、素っ気なく答える。





言い訳
シン…メソポタミア神話での月の神。
シークの両親の話ですが、シークの外見は父親譲りで(色素と細身の体格は母方譲りで顔立ちは瓜二つ)、内面は母親譲りと生まれ育った環境によるものです。
但し、顔立ちは瓜二つでも、雰囲気は全く異なります。それにシークの方が全体的に線が細いです。

ヴァンドールでは、血統者への偏見はあっても迫害はそんなにありません。
シンについて「明るいロマンチストで、つかみ所のなく飄々としたところがある」…というイメージがあるんですが、中々書けません。

2011/8/26 小説へ移行
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