「火星物語」
火星物語 小説

火星物語 小説 『雨』2

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23話後の話です。
クエス←フォボス→サスケ要素が強いです。








雨の中、年端もいかない一人の少年が寄る辺もなく立ち尽くしていた。
我が身が濡れる事を厭わぬ姿は、まるで『雨』の存在を全身で確かめているようだった。
天を仰ぎ、遥か彼方を見つめる。
視線の先にあるものは、今は遠い昔の出来事。少年にとっては、数日前の悲しい出来事。
藍色の瞳に、雨の雫とは異なる滴が湧き上がる。
「……クエス……サスケ……」
嗚咽混じりに亡き友人の名を紡ぐ。
枯れ果てた筈の涙が、雨に混じって頬を濡らした。

「フォボスさん!?」
好意を抱く少女の声に、少年が緩慢な動きで振り返る。
目を真っ赤に充血させて、前髪が濡れて額に張り付いた姿は、少年が長い時間雨に紛れて悲しみを流していた証。
セイラがフォボスの元に駆け寄り、肩に触れる。
どれ程の時間を雨の中に身を晒していたのか。服を張り付かせた体は、既に冷え切っていた。
「このままでは風邪を引きますから、早く家の中へ入りましょう!」
喋りながら所在なさげなフォボスの肩を抱いて連れて行こうとするが、フォボスは身を捩りセイラの手から逃れる。
セイラがフォボスを見ると同時に雷の轟音が響き、閃光が少年の顔を眩く照らした。
それは12歳の”子供”の顔ではなく―――
目の前にあるものが信じられなくて、時が止まったかのように見入った。
セイラの知るフォボスは、ここまで色濃い陰りを露わにしたことはない
悲哀と絶望の影を宿した目など……
このままでは彼がどこか”遠く”に行ってしまいそうな、漠然とした不安が込み上げた。
彼を”この場”に繋ぎとめるためために、名を呼ぶ。
「……フォボスさん……」
放たれた声は、彼女の意志とは異なり弱々しいものだった。
フォボスがセイラの肩に手を添えて頭振るうと儚く笑った。
「セイラ……。今は一人にして欲しいんだ……」
生気を宿さない笑みはセイラの不安を煽り、膨れ上がらせるだけだった。
――今のフォボスを一人にする事など……到底出来ない。
セイラが静かに頭振るうと、フォボスの隣に少しの空白を置いて立つ。
暫しの間沈黙が流れて、雨音だけが空間を満たした。
その静寂を破ったのは、セイラ。
「……フォボスさん。どうして……」
言葉を続けようとするが、それを遮る形でフォボスが声を覆い被せる。
「ねぇ、セイラ。知ってる? 大昔、火星の地上には殆ど水がなかったんだ」
胸の前で広げた掌に溜まった水をセイラに見せる。
「この水は、全て地下にあったものなんだよ」
「……地下に……」
「そう、地下深くの世界」
狂気の気配を孕んだ目で、掌に溜まった水を見下ろす。
「………クエス達が、死んだ場所の水なんだ」
セイラが目を瞠る中、フォボスの掌に溜まった水は溢れ出して地面へと流れ落ちていった。

「……今ではもう忘れられて、想像も出来ないけれど……」
長い間を置いて、フォボスがぽつりぽつりと静かに話し始めた。
「僅かな水を求めて人が心を失い、より多くの水を得るために戦争を繰り広げていた時代が確かに存在していたんだ。 雨の存在自体が「奇跡」とされた時代が」
雨の事を話せばアンサーは「奇跡」と呼び、ポチは存在自体信じられずに疑いを抱いた。
それ程までに、水は人々から遥か遠い存在だった。
「今じゃそんな時代があったことすら、人々は覚えてないけれどね」
「…そんなこと……」
ありません、と続けようとした言葉は喉を震わせなかった。
セイラには水のなかった時代のことは分からない。水を手に入れる。それだけのために罪に手を染める人々の心は理解できない。
今と昔とではあまりにも価値観が違いすぎた。
「水がなかった」と知っているも、所詮は”知識”。それでは”忘れ去った”も同然だ。
かける言葉も見つからず、ただ彼を見つめる中。フォボスが天高くを振り仰いだ。
厚い雲に覆われ、日の光が遮られた空。無数の降り注ぐ命の雨。
渇ききった惑星がここまで豊かな水に満たされているのは――……。
「この雨は、クエスとサスケが命懸けで手に入れたものなんだ。だから浴びていたい。
雨の中に、クエスとサスケは……いるんだ」
セイラが心に深い傷を負った少年の顔を見つめる。
フォボスがクエスとサスケに特別な感情を抱いていることには、以前から気づいていた。
憧憬、思慕、敬愛。それらの強い思いが胸に宿り、生涯にわたって消えない事を。
彼らの生きる未来を作りたいと明るく楽しそうに語った姿と共に、フォボスと”歴史”を守るための嘘と裏切りに嘆く姿が並んだ。
当事者でないセイラにはその傷を癒すことはとても困難で、無理かもしれない。
その傷を癒せる二人は、もう遠い昔に亡くなっているのだから。
けれど、一人だけで抱え込んでいてはいつまで経っても、悲しみの坩堝から這い上がって前に進めない。
だから……。
「……私も、側にいます」
セイラがそっとフォボスに身を寄せると、フォボスが俯いた後にセイラを見つめる。
「セイラ。 このままでは風邪を引くよ]
――だから、先に帰って。
言外に含まれたのは拒絶。
しかし、セイラの決意は揺らぎない。
例え何があってもフォボスの側にいて彼を支えるのだと、ソドムでの一件以来心に決めていたから、今の彼を一人になど出来なかった。
「……構いません」
「セイラ」
セイラが強い意志のこもった目で、フォボスを見つめる。
「今のフォボスさんを一人にしたら、この先ずっと後悔しますから。 だから雨が止むまで、私も一緒にいますよ
「………………」
フォボスがふいっと顔を背けるも、セイラを遠ざける素振りは見せなかった。
それを了承の答えとして、セイラがフォボスに身体を預ける。

雨の中、深く俯く肩を震わせるフォボスの顔を見ぬように、未だ晴れる気配のない空を仰ぎ見る。
雷鳴が鈍く響き、更に勢いを増していく雨の中。二人の姿はその場から離れなかった。



2011/12/29 小説へ移行
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