未完

聖剣伝説3 未完 お題 『Female Turbulence』

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注意
リース→ホークアイが強めの、ホークアイ・リースのつもりです。














夜遅くまで続いた喧々諤々の会議を終えて、漸くの思いで部屋に辿り着くと寝台の上に崩れ落ちるように倒れこんだ。
ベッドの柔らかさに張り詰めていた糸が切れて、瞼が重くなるのを遠くに感じながら、目を閉ざす。
うとうとと深い眠りの海へと漕ぎ出したが、途中で意識が一瞬で覚醒した。
最初は悪あがきで目を閉ざしたままだったが、次第に諦めた。
ゆっくりと瞼を開けて、想い体を引きずるように仰向けになると天井を見上げる。
そこに映るのは隠れアジトの岩肌
―……眠れない……
明日はローラント解放の戦争が控えている。だからこそ、今は少しでも休まなければならないというのに。
疲れきった身体は眠りを要求しているが、昂った神経はそれを阻害して覚醒へと導いた。
憂鬱な気持ちになり、深々と息を吐く。
こうなっては眠れないのは経験上わかっていた。
時々前触れもなく覚醒して、一晩は眠る事を許されない。
最近は数を減らしていたが、ローラント滅亡以来眠られない日が数え切れないほどあった。
風の音も聞こえぬ静かな洞窟の中。耳を澄ませば仲間達の鼾や寝息が聞こえて、深い眠りの淵にいることがわかる。
少しばかりの羨望を抱きながらも、極力音を殺して静かに起き上がった。
気配を殺して部屋から出ようと扉に手をかけた時、隅の寝台で寝ているはずの仲間の姿がないのに気付いた。

風の王国と呼ぶに相応しい強い風が吹きすさび、煌々と輝く月と星が地上を照らし出す。
その中を一人の少女が金の髪を靡かせながら、険しい岩場を慣れた足取りで軽やかに跳んでゆく。
一際大きな岩の頂点まで跳躍して、彼方を見つめる。
あまり知られていないが、この先の断崖からはローラント城が一望できる絶景が広がっていた。
まだ平和な時は誰にも見つからず心置きなく一人で泣ける場所として、そこに通っていた。
岩の頂点から軽々と飛び降りると、断崖の方角を見つめる。
確証など何もないが、彼女の探している人物もそこにいるような気がした。
――何をしているの、リース。 どうしてあの人を探すの?――
自分のうちから問いかける声が聞こえる。
――彼を一人にして、ナバールとの接触を避けるため?――
―いえ、違う。 彼は誇り高い人。決してそんな事をしない。
日頃見せる軽薄な態度に隠されがちだが、それは演技だとリースは直感していた。
時折見せる言動から、彼がとても誇り高く、道に悖るような真似は決してしない人物だとわかる。
その「道」とはホークアイにとっての枠組みだが、彼は絶対に”仲間”を売らない。
美獣に操られて意思をなくした仲間でなく、共通の目的のために共に行動する今の仲間を。

――いくら眠れないからといって、こんな事をしては体力を消耗するだけ。 それなのに、どうしてこんな事をするの?――
――……そんなこと、わからない。
あの洞窟で一人鬱々とした気持ちを抱えるよりも、あの人の隣で風を感じたいだけ。それ以外に理由はない。
そう決心すると断崖の方角を真っ直ぐ見据えて、歩を早めた。

人の丈をゆうに越える巨岩を越えると、今まで遮られていた視界が一気に広がった。
眼前には大小様々な岩石が散らばり、常人には足の踏み場もない岩場。
断崖近くの特等席に先客の姿を見つけて、足を止めた。
そこにいたのは彼女が探していた人物。
いつも結わえている長い髪は解かれて背を波打ち、紫の髪は月光を受けて淡く光っているように見えた。
リースを押しのけようと猛威を振るう風は、何故か彼の周りだけ優しく撫ぜるように吹いていた。
どこか神秘的なその姿にリースが見惚れて、言葉を忘れて見つめる。
無粋に音を出して、その光景を崩すのが非常に惜しかった。
幼子の頃から忍者として徹底した訓練を受けて、気配に聡いホークアイのこと。とっくに少女の気配に気付いている筈なのに、彼は振り返らず一心に彼方を見詰める。
その視線の先にあるのは、今は敵の手に落ちた彼女の居城。そして彼にとっては忌々しい仇敵に故郷の名誉を貶められた象徴。
どのような顔をしているかわからないが、きっと名に相応しく鋭い眼差しで城を睨み据えているのだろう。
「……ホークアイ、さん」
常人には聞き取れぬほどの小さな声だったが、長年忍びとしての訓練を受けてきた彼は違う。
背後から聞こえてきた声に、青年が振り返った。
「やぁ、リース。 こんな遅くにどうしたんだ?」
心が奪われるほど端正な顔に浮かぶのは、いつもの仮面の微笑み。
―……また……
彼は仲間達にも一線を引いて、自分の懐に入る事を許さなかった。例え踏み込もうとしても笑みと共に透明な壁の向こうへと押しのけられる。
もう数ヶ月も共に命懸けの旅をしているのに、彼の本当の笑顔をリースは見た事がなかった。
そしてホークアイが気を許すデュランに激しく嫉妬が湧き上がり、その理不尽さと浅ましさに深く悩んだ。
常人なら足元がおぼつかずに満足に歩けない岩場だというのに、リースは不安定な足場を諸共せずに軽がると岩場を飛び渡りながら青年の元へと近づく。
リースが不安定な足場を諸共せずに、軽々と飛び越えながら青年の元に近付く。
「ホークアイさん。よくここまで来られましたね」
「俺って忍者だからね。 こんな崖チョロイさ」
朗らかに笑って答えた。
だが、それは演技だと直感した。
そもそも今の彼の心境を考えれば、とても笑える状況ではないのだから。
「……休まなくていいんですか? 明日は……」
「だからこそ…………眠られないんだよ」
ホークアイが苦笑する。
人間観察がさほど優れていないリースには、仮面の下に隠された感情を読み取るのは困難だ。
けれど、今はその瞳の奥に暗い感情が宿っている事はよく分かった。
「人の事はいいとして、君自身はどうなんだ?」
「え?」
「リース、君はローラントの総大将なんだ。 ちゃんと体を休めないと駄目だろ」
諭すような眼差しにリースが真っ直ぐ見返す。
「今は眠れないので、風に当たりに来たんです」
「なら早くベッドに戻って、横になることだね。
君が倒れたらローラント軍の士気に大きく関わって来るんだぞ」
「一晩眠らない程度で戦いに支障が出るような体ではありませんので、大丈夫です」
毅然とホークアイを見据えて答えたが、彼は僅かに柳眉を寄せただけだった。
「だがナバールの忍者達は一騎当千の猛者ばかりだ。 僅かな油断や、一瞬の隙が即命取りになる」
だからこそ、しっかりと休息を取り万全の体制で臨まなければならない。
それはこれから戦う敵の強さと戦いをよく知っているからこその言葉。しかしリースには違った意味に聞き取れた。
「あなたこそ、人の事は言えませんよ」
「俺はナバールの戦い方に馴れているから何とかなるさ。 でも君達は違うだろ」
「そんなこと……!!」
ありません、と続けようとした言葉を飲み込んだ。
いつもホークアイが戦っている姿を見つめていた。
ダガーから繰り出される華麗な技。一切の隙のない見事な攻撃。しなやかな身体がまるで舞うように鮮やかに敵を倒していく姿を、常に目で追ってきた。
しかしそれは見てきただけのもの。
ナバールの戦い方を骨の髄まで染み込ませたホークアイや忍者達には遠く及ばない。

「リース。 そんなところに突っ立っていないで、座らないのか?」
「え? ですが……」
ホークアイの呼びかけにリースがすっかり困惑した面持ちで目を泳がせる。
周囲は切り立った岩場で、満足に腰を降ろせる場所は限られている。
唯一安定して座れる場所にはホークアイが腰掛けており、座れない。
どうしようと答えに給していると、ホークアイがいい事を思いついたとばかりに口角を上げる。
「ホラ、ここがあるじゃないか」
そういうと自分のすぐ隣を叩く。
その意味を察すると同時にリースの顔に血が上った。
「な、何言ってるんですか!? そんなすぐ側だなんて……」
頬を紅潮させ、声を荒げる。
ホークアイの瞳には悪戯めいた色が宿っていたのだが、すっかり動揺しているリースは気付くはずもなく。
「でも、ここ以外に座れる場所はないよ? 幾ら鍛えているからといって一晩中立ちっぱなしは辛いだろ」
一旦言葉を区切った後に、艶のある流し目を送る。
「それとも、膝の上に座る?」
衝撃的な提案に、リースの頭の中は瞬く間に真っ白になり、硬直した。
――膝の上、ヒザノウエ、ひざのうえ――
その光景を想像した瞬間、全身から火が出そうなほど恥ずかしくなり、このまま逃げ帰りたくなった。
しかしホークアイの悪戯めいた笑みを目にした途端、リースは顔を赤らめたまま、鋭い眼差しを向ける。
「もっと嫌です!!」
語気を荒げて、勢いよく拒絶を叩きつけた。
ホークアイが肩を竦ませた後に、隣を叩く。
「それなら隣に座るかい?」
優しい声音での提案に、リースが俯いて逡巡する。
体を休めなければならない時に、一晩中絶ちっぱなしは流石に辛い。
それに膝の上よりは、隣の方が……まだいい。
上手いように誘導されている気がするも、最初からそれ以外の選択肢など初めからなかったのだ。
少しの間を置いて、リースが頷く。

若干警戒しながら渋々といった様子で青年の隣に座ったものの、身体を強張らせて顔を赤らめたまま、彼から顔を逸らしていた。
初心な反応にホークアイが笑い声を上げると、リースがキッと鋭く彼を睨む。
「あぁ、ごめんごめん」
笑いながら謝られても、誠意を感じられずにリースが頬を膨らませた。
「そんな誠意のない態度で謝られても迷惑です」
「誠意か……」
考えを巡らせていたホークアイが口元を綻ばせると、自然な動作でリースの手を優しく取った。
目を丸くする彼女の前で、ホークアイはその手の甲にそっと触れるだけのキスを落とす。
その様はまるで生まれながらの貴人の如く。
誰もが見惚れる麗しい美男美女の、一枚の名画のような光景だった。
「姫様、数々のご無礼をお許しください」
「え、あ、はい!」
動揺しながらも答えると、ホークアイがそっとリースの手を放した。
離れて行く彼の細い指を名残惜しく思えたが、慌ててその気持ちに蓋をした。
これ以上得体の知れない感情に振り回されるのは御免だったし、明日のために少しでも心身を休めなければならないのだ。
しかし激しい動悸は収まる事を知らず、彼が触れた手はまるで自分の体ではないようだった。
そてい顔にも血が上り、端から見ても火照っているだろうなと思う。
特に常人よりも夜目の効く彼には全て見えていると考えると、更に頬に血が上っていくのを感じた。

先程の姿が幻のようにいつもの姿に戻ったホークアイに釈然としない思いを抱える。


「……あなたは、本当にいいんですか?」
――仲間殺しの汚名を、”事実”にする――
ホークアイが目を伏せた後に、毅然と顔を上げて真っ直ぐリースを見つめた。
その視線に射止められて、彼女の鼓動が高鳴る。
「…その覚悟ならば、とうに出来ている」
ナバールを離反した瞬間から。
故郷の過ちを正し、汚名を雪ぐ。
そのためならば、”裏切り者”の汚名など幾らでも受け入れる。



ホークアイの肩に頬を預ける。
暖かい彼の体温に、昂ぶっていたはずの神経が少しずつ静まっていく。
普段は決して来ない眠気が、彼に触れられている部分から押し寄せてきた。
このまま波に身を委ねれば、恐らくは寝られるだろう。
今までにない感覚だったので断言は出来ないが、そう確信できた。

ゆっくりと瞬きを繰り返したが、やがて重い瞼を完全に閉ざした。

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