未完

聖剣伝説 『女神の騎士』 未完 番外編 【冬のひととき】

 ←聖剣伝説3 お題 小説 『delicate affection』1 →『短文集』 10
注意
本編より二年前のデュランとウェンディの話です。















凍える寒さが猛威を振るい始める季節。
ボロと見紛う建物が立ち並ぶ市場には人の波が出来ていた。
その波を縫う形で一人の少年が足早に歩を進める。
年の頃は十代半ば。
獅子の鬣のような濃い茶色の髪に、強い意志を感じさせる藍色の眼。
そして貧しいこの国では珍しく、鍛えられた健康的な体と真っ当な服を着ていた。
それでも寒さを増していく季節では些か薄着の印象を与えるが、周囲のボロと見紛う服とを比較すれば暖かい印象を与える。

少年…デュランの吐く息は白く、手は寒さでかじかんで赤みを増していた。
あまりの寒さに身を震わせるも、提げているものを見て顔を緩ませる。
数か月分の給料と引き換えに得た薪。
草原と荒野が広がるフォルセナでは材木は高価で、庶民には手が行き届かない代物だ。
この国では薪は限られた人間のみが使えるものであって、一般的には乾燥させた糞と草を混ぜ合わせた燃料を用いている。
自国に資源がないのなら、輸入すればいい。
それも他国なら可能だが、フォルセナは最下級の中でも最下位の国。
外国から物資が流入することなく、資源に乏しい国内の物品も他国に安く買い叩かれていた。
そのためフォルセナでは必要最低限の物を揃えることすら苦労する生活だった。

寒空の下でも変わらない元気な売り子の声に、デュランの目が古着屋に向けられる。
慢性的な物不足に悩まされているフォルセナでは市中に出回る全ての品物が幾人もの手を渡り、盗品も堂々と店頭に並べられている。
デュランの武具や妹の衣類は新品だが、それを誂えるのに目玉が飛び出るほどの高値を必要とするほどに新品は皆無に近かった。
―古着でも構わねぇだろうになぁ。
デュランの武具は王に忠誠を誓った騎士として…仕事上での必要経費だ。けれど妹の場合は違う。
妹のウェンディは古着を着るのをよしとしなかった。
まぁ、中には死体から剥いだ服も店頭に並んでいる。それを考えれば気分が悪いのだろう。


デュランが扉を開けると、編み物をしていた妹のウェンディが顔を上げて玄関に目を向ける。
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
「ただいま」
笑顔と共にかけられた声にデュランがぶっきらぼうに答えながら、足早に暖炉めがけて行く。
「もう。おにいちゃんったら寒がりね」
デュランの態度を咎めることなく、ウェンディが呆れたように肩掛けを彼に優しく被せた。
思わず振り返った兄に、ウェンディが肩を竦める。
「寒そうなおにいちゃんを見ていたら、私まで寒くなってくるわ」

ウェンディがデュランの足元にある品物を見て、大きく目を瞠る。
普段驚きを露わにしない妹の姿に、デュランが満足そうに満面の笑みを浮かべた。
「どうだ、薪だぞ。 凄いだろ!」
「ええ…。 かなり高かったのに、いいの?」
「構わねぇよ」
この数日凍えるほどの寒さで、冬の本番前なのに凍死者が続出していた。
寒さに凍える妹の姿に、効率よく燃える薪を買い求めた。
そのためにかなりの金額を費やしたが、妹の笑顔を見たらその価値はあったと思える。

デュランとウェンディが食卓を挟んで向かい合う。
品数の少ない食事だが、具のあるスープと固すぎないパンを朝晩食べられるのは、この国では贅沢な生活。
デュランが全て食べ終えた後に、まだ半分も食べていないウェンディを見る。
「ウェンディ。 最近はグランスの奴隷商以外にも他国からの人攫いが続出しているそうだ」
「だから極力外に出ず、出かけるときは顔を泥で汚して布を覆えって言うんでしょ。
せっかく服があるのに、お洒落して出かけることもできないのね」
「お前なぁ、そんなことすれば目をつけられるぞ」
拗ねた妹にデュランが呆れたように宥める。
建国以前からフォルセナは上級国グランスを筆頭とした他国の人攫いの脅威に晒されていた。
嘗ては一日に百人単位の人間が浚われていたという。しかし英雄王の代となりその数は減ったものの拉致される人間がいなくなることはない。
浚われた者達の末路は定かではないが、他国のフォルセナに対する扱いを見ていれば奴隷以下だというのは子供でも分かる事だった。

一際強い突風が吹き、窓と戸が音を立てて揺れる。
隙間風が入り、デュランが窓を見る。
風が家の中に入ることはなく、吹き飛ばされる事もない。
他国から見れば貧相な家でも、フォルセナの基準からすれば頑丈な家だった。
寒さを増した部屋の中、ウェンディが暖炉に視線を向けた。
煌々と燃える炎は灯りだけでなく熱をももたらしてくれる。
「…他国では薪だけじゃなくて、燃える水や電気という物を使って寒さを凌いでいるらしいわ」
「バーカ、水が燃えるかよ。 第一、デンキって何だ?そんなもので暖かくなるのか?」
「そこまでわからないけど……。でも他国には私達の想像もつかないものが山ほどあるのよ」
興奮で頬を上気させるウェンディを、デュランが胡散臭そうに見る。
彼女は一般的なフォルセナ人としては珍しく博識だ。
最下級国であり、特化した産業や技術を持たないフォルセナには他国の物や情報は流れてこない。
そのため文化や文明は発達せずに、蛮族として蔑まれ続けていた。

「ウェンディ。他国の事を勉強してどうするんだ?」
「え?」
「フォルセナは他国への旅行や移住を禁止してねぇ。 なのに何故誰もこの国から出ないのか、分かるか?」
他国はフォルセナとは違い、物が溢れた豊かな生活を享受しているとの噂だ。
上級国ともなれば一生飢えを知らないで生きられる夢のような暮らしだという。
なのに何故フォルセナの民が他国へと流れていかないのか?
「その理由は簡単だ。
他国の人間は俺達(フォルセナ人)を、人間として扱わねぇからだ。
ただいるだけで蔑まれ、差別と迫害を受ける。だから誰も出たがらねぇんだ」
騎士という身分柄王に付き従って、二年前に隣国トップルで行われた世界会議に同行した事もある。
そこで受けた扱いや、他国人の眼差しは深くデュランの心に刻まれている。
「例え出国しても豊かな生活はその国の人間だけのもの。 俺達には欠片すら手に入らねぇ
連中にとって、俺達はゴミと同じだからな。いつでも捨てられる存在だ」
デュランの言葉に、ウェンディが暗い面持ちで俯いた。

スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png ドラゴンボール
総もくじ  3kaku_s_L.png 火星物語
総もくじ  3kaku_s_L.png 聖剣伝説
もくじ  3kaku_s_L.png その他
もくじ  3kaku_s_L.png 未完
もくじ  3kaku_s_L.png 考察もどき
もくじ  3kaku_s_L.png 短文
もくじ  3kaku_s_L.png 裏部屋
  • 【聖剣伝説3 お題 小説 『delicate affection』1】へ
  • 【『短文集』 10】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【聖剣伝説3 お題 小説 『delicate affection』1】へ
  • 【『短文集』 10】へ