未完

聖剣伝説 『女神の騎士』 未完 番外編 【月夜の闇】

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注意
シーク・ファウナッハ前提です。
『女神の騎士』本編より数千年も昔の話です。

この時代のナバール王家と『女神の騎士』本編のナバール王家には、血の繋がりはありません。
















部屋の暗がりに、慣れ親しんだ気配を感じて身体を起こす。
――何用だ?
隣に眠る伴侶を起こさぬように、念話を送った。
只人には伝わらないが、同族には頭の中に響く”声”として認識できる。
――故国にて、不穏な動きがあります。
「何だと?」
思わぬ報告に思わず声が漏れる。しかしそれは囁き声に紛れるような小さな声だった。
何年も足を踏み入れていない故国ナバール。
シークがヴァンドールに送り込まれてから半月後に母が、2年後に父を亡くしてからはすっかり縁遠い国になってしまった故郷。
――何があった?
――王が世襲王子を廃嫡し、妾の子に王位継承の儀を執り行うそうです。
予想だにしない事態にシークが絶句する。
―何を考えているのだ、あの男は…!?
内心忌々しげに吐き捨てた。
ナバールの王位は長子制度。それも正式な伴侶の子のみに与えられる。
そして血の拡散を防ぐため、側室や妾の子は長じる前に殺される運命にある。庶子が生き延びるのは嫡子がいない時だけだ。
兄であるナバール王が行うのは、その原則を覆す事。ひいては国を乱すことに他ならない。
群雄割拠の時代、他国に僅かでも隙を見せればいかに強国であろうとも喉元を食いちぎられて滅ぼされる。
百官の頂点に君臨する者ならば、当然それをわかっている筈だ。
――シーク様。
苛立ちが表情に出ていたのだろう。部下が窺うような”声”を伝えてきた。

――その妾の子は、そこまでする価値のある人物か?
国を混乱に陥れてでも、王にするほど優れた人物か。
正直な話、兄の長男は人の上に君臨できる人間ではなかった。それを見限り、より優秀な者を王にと望むのならば、まだ理解できる。
確執があるとはいえ、実の兄。信じたいという期待を多く含ませた問いだった。
――いいえ、それがその……
実直な部下には珍しく、言葉を濁らせた。
その時点で、碌でもない理由だと察して頭が痛くなる。
――ではなぜ、王は世襲王子を廃嫡するなどという暴挙に出た?
――……その子供は、お母上と瓜二つなのです。
「ああ……、それでか」
頭の奥が冷え切り、白けた気持ちになった。
亡き母を深く愛するあの男は、母と瓜二つの子供を殺すのを躊躇ったのだろう。
しかし王の血の分散を防ぐため、庶子は殺すのが定め。だから”王”に仕立て上げて、延命を図った。
―愚かで、哀れな男。
王である前に、一人の人間としての都合を最優先させた現ナバール王は統治者としては失格だ。
ましてや、数多の民と悠久の歴史を背負う強国の王としては。
だが……。
緩く頭振るい、過ぎった思考を振り払う。

――……シーク様。
――何だ?
――あなたはナバールの王族なのです。 それが……
言い淀む”声”だった。
その視線の先にあるのは、隣で眠る薔薇色の髪の女性。
彼女が寝返りを打ち、皇かな肩が露わになった。
そっと掛け布を被せてやる。

口には出さないだけで、昔から思っていたのだろう。それがこの度の問題で我慢できなくなったというわけか。
だとすれば、兄の妾は……。
――庶子の母は、只人か。
返ってきた沈黙が肯定の証。
――庶子というだけで反感は凄まじいのに、混血ともなれば筆舌に尽くしがたい程だろう。
ヴァンドールやタスマニカ、グランスなどの国々や移民の受け入れや引き抜きが盛んに行われているが、ナバールとイルージャは民族の特性上、純血絶対主義だ。
混血が王位に就き、純血の民を従える。
ナバールの民にとって、これ以上ない悪夢だ。
――ですから、せめてシーク様だけでも……。
――ナバールの籍を失った私は王にはなれぬぞ。
――それでも貴方様の血は、ナバールの王族です。
―ナバールの、王?
その言葉を心の中で反芻すると同時に、顔が歪んだのが分かった。
――シーク様?
「下がれ」
形よい唇から放たれたのは、自らでも驚くほど冷酷な声。
主の意を受けて、部下が深々と頭を下げるとその姿が空間から瞬時に掻き消えた。
先程まで部下がいた所を見つめる。
幼子の頃から影のように付き従ってきた男だ。彼なりに国とシークの事を思っているのはよくわかる。

眠気は彼方に消え去ったが、身体を横たえる。
直後、女性が目を開いた。
瑠璃の瞳と深紅の瞳が見合う。
「……シーク、顔色が優れないわね」
そっと、皇かな繊手が力強く端整な顔に触れて、頬を一撫でする。
影と呼ぶ人物の報告を受けて”声”を出した事のなかったシークが、彼女の知る限り始めて声を出した。
それだけでもよほど重大な事案だというのは分かる。
それがヴァンドールに纏わる事ならば、明日の朝議に出される。しかしナバールに纏わる事ならばシークの胸のみに留め置かれる。
だから先程の報告について聞く必要はなかった。

鍛えられ、引き締まった腕が女性の背を掻き抱く。
「ファウナッハ」
強く抱きしめられた腕の中で彼女が彼を見上げた。
まるで縋りつくように腕に力を込めて、顔を埋める。

言葉として語られぬ代わりに、気は雄弁に揺れ動く感情を物語っていた。
只人でも分かるほどに。

月明かりだけが照らす仄暗い室内の中、男女の影が再び重なり合った。


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