未完

聖剣伝説2 未完 『妄執』4

 ←聖剣伝説2 未完 『mystic』2 →裏部屋 『短文集』 1
注意
かなりオリジナル設定や要素が強い話になります。
2は3の遠い過去という設定です。

2と銘打っていますが、2の時代よりも数千年も先の話です。
























マナの要塞が海底に没してから数千年の時が流れた。
人々はマナなき世界の混乱を乗り越えて、いつしか”マナ”があったことすらも忘れていった。
しかしマナの蘇りを知った人々は強大な力を持つ超自然エネルギーとして、嘗て神獣に滅ぼされた文明と同じくマナをエネルギー源として求めた。
そうしてマナを巡る利権争いに勝ち残った新興国ペダンは領土を拡大させて、数百年後には島国発祥の小国からファ・ディールを支配する超大国へと上り詰めた。

これは古代ペダン最盛期であり、第二次マナ文明の終末期の話である。

銅鑼が鳴らされ、王と臣下を隔てていた布が一斉に払われる。
高度な科学技術を有しているが、伝統と格式を重んじる風潮が殊更強い王宮では、古の頃より宮廷様式を変わらず保ち続けていた。

「マナの要塞の調査は滞りなく進んでおるようだな」
ゆったりとした口調で言葉を紡ぎながら、家臣達を見下ろす。

数十年前に海底より発掘された超古代文明の遺物、マナの要塞。
世界最高峰の科学儀筒を有するペダンですら、マナの要塞は多くの謎に包まれたオーパーツだった。
数千年前、古ヴァンドールが発掘したときには海底に”眠っていた”だけなので修理を必要としなかったが、ペダンが引き上げた要塞は”墜落”したもの。
中核以外は多大なる損傷を受けており、再び息を吹き返す望みは限りなく薄かった。
修繕しようにも技術と知識が大きく隔てられており、理解すら出来ない。
そんな絶望的な状況の中、起動間近まで修復できたのは偏にペダンの執念だった。

ある魔導師がマナの要塞内に巧妙に隠し通されていた古の呪術師タナトスの遺産を発見したという報告がなされたのは先日の事だ。
そこから持ち出された品々は、現在科学者や魔導師達が血眼になって調査と研究を重ねている。
今日はその中間報告と共に、遺産の一部を王に”献上”する日だった。

「これなる品々がタナトスの遺産にございます」
低く朗々とした声で今回献上される品々の目録を述べ終わると、魔導師は顔を深々と地につけた。
「ふむ」
王が顎鬚を撫でながら、魔導師の後ろに置かれている箱の数々に目線を向ける。
マナの要塞の隠し部屋を埋め尽くすほど詰め込まれていたという古の呪術師タナトスの遺産。
このたび献上されるのは、その中から選び抜かれた強力かつ貴重性の高い品々。それ以外のものは然るべき場所に収められる。

「面を上げよ」
王が血筋確かでない魔導師と直接口を利くと言う事態に周囲はどよめくが、王が玉座の下段に控える家臣達を睥睨する。
「鎮まれ」
よく通る力強い声。
大声でないにも関わらずその声は家臣達の耳に入り、波が鎮まっていくように静かになった。
それを見て取ってから、再び魔導師を見下ろした。
「魔導師、面を上げよ」
王の言葉に魔導師が少しの間を置いて、顔を上げた。
大人びた声とは対照的に、まだ少年と呼んでも差し支えのない面差しの年若い人物だった。
「そち、名は何と申す?」
王の問いに少年は薄く笑む。
「グラン・クロワと申します」
―グラン・クロワか。
常に手入れを欠かさない艶やかで豊かな顎鬚をなぞった。
彼の噂は王の耳にも届いていた。
いい噂も、悪い噂も。
突出した類稀な魔導の才と、”人間”にはありえぬ膨大な魔力をその身に宿すという者。
闇の血族の魔導師として、少年が畏怖と嫉妬の渦中に晒されているという。

王の目が、結界に覆われた長方形の箱に吸い込まれる。
目線を外そうとしても、視線は固まったまま動かなかった。
凝視しているだけで汗が噴出し、唾が溢れ出して、ゴクリと音を立てて飲み込んだ。
「……それは何じゃ?」
「骸を弄ばれた…哀れな人形にございます」
「人形じゃと?」

「わざわざこの場に持ってきたということは強力な呪具か、芸術性の高いものであろう。
ならば何故結界で覆い隠すのじゃ?」

「即刻、この人形を見せよ」
今の王の言葉には逆らえぬ何かが、あった。

強硬な王の姿勢に魔導師が深く息を吐くと、手を振るった。
手の動きに応じて柩を覆っていた結界が消えてゆく。
そうして露わになった中身に、その場にいた者達が感嘆の声を上げ、陶然と溜息を漏らした。
露わになった透明な三つの柩の中に収められていたのは、この世の者とは思えぬ美しき男女の姿。
古ヴァンドールの軍服を身に纏い、今は滅びしヴァンドール人特有の白く透き通る肌をしていた。

「なんと……美しい……美しすぎる……」
それらは神々しいほど美しくて、息を呑むほど美しいとはこういうことかと初めて知った。
陳腐な言葉しか出なかったが、それが王の心と人形を如実に物語っていた。

四方八方から人形達を凝視する視線は痛みを伴うほど強烈なもので、”それら”が生きていたならば必死に暴れてこの場から逃れようとしただろう。

「この人形を箱から出せるのか?」
ぎらぎらと目を輝かせながら、魔導師に問う。
今すぐ邪魔な柩を取り払い、本体達に触れたいと心の奥底がけたたましいほどの叫び声を上げていた。
「いいえ、陛下。 それは不可能でございます」
「そちでも不可能だと?」
予想だにしなかった魔導師の答えに、自然と眼差しに剣呑さが増す。
「それは闇の血族としての力を頂点まで極めた者が作りしもの。 幾ら同族とはいえ、私如き若輩者では手も足も出せませぬ」

家臣達の人形を見つめる目に、情欲の色が宿っているのを見つけた途端、頭に血が上った。
押さえようもない憤怒が精神を焼き焦がし、腰に提げられていた典雅な剣を抜いて一閃した。
飛ばされた首が鞠のように宙を飛び、地面に転がる様を感情の宿らぬ無機質な目で眺める。
「陛下!!」
王の乱心に家臣達がどよめくが、王は剣に付着した血糊を払い落とし、魔導師の側に向かった。
「魔導師。 この者達を殺せ」
「……お戯れを」
かすかに声を震わせるが、王の目は彼の言葉が事実だと物語っていた。
「ここにおる者共を皆殺しにすれば、人形以外のタナトスの遺産を全て下賜してやろう」
魔導師の指先が、ピクリと震えた。
なんと心を揺さぶられる魅力的な提案だろう。
一万年以上の時を生きて、あらゆる魔法を頂点まで極めたタナトスの遺産を、その知識を得られる。
同じ闇の血族として、それらは魂の奥底から欲するものだった。
だが、彼の倫理観はそれを由としなかった。
「そのようなこと……。 私には、出来ません」
今の王を前に毅然と答えられず、目を逸らす。
心の中に浮かび上がるものは、王への恐れ。
―ありえない。
只の人間に恐れるほど、自分は脆弱ではない。
だというのに今の王からは、絶対的な力を持つ闇の血族であるグラン・クロワすらも恐れを抱かせる”何か”が感じられた。
慌てて平伏した魔導師の震える姿を、王は冷酷な眼差しで鼻白んだ後に剣を振るった。

謁見の間が噎せ返るほどの血の臭い満たされ、床や壁に多量の血が飛び散り、仕える主に切り殺された多くの遺体が散乱していた。
魔導師が一人の遺体に目を向ける。
それは口と目を大きく見開いたまま、仰向けに倒れていた。
驚愕と怨念に満ちたそれを見ていられずに、顔を逸らした。

王が冷ややかな眼差しで魔導師を見遣り、その顎を長い指で掬い上げた。
「グラン・クロワよ。 何をそこまで恐れ、動揺する?」
「恐れてはおりませぬ」
「……そうであろうな? 何といっても、そなたは闇の血族の魔導師だ」
誰の目から見ても明らかな笑みを浮かべた。

魔導師がそっと顔を上げて、目を瞠った。
王の体に立ち上る気配を見て取り、顔を強張らせる。
それは闇の血族である魔導師だからこそ、視えたもの。
遺産に篭められていた、同族であるタナトスの気配。
それは既に王の魂の奥深くまで根ざしており、彼ですら解き放つことは出来なかった。
―あの時から既に王の魂は取り込まれていたのか。
強硬に結界を外すように命じたあの時から。
王に感じた恐怖は、数多くの闇の血族を取り殺し続けてきたタナトスに対してのもの。
―いくら結界で姿を隠しても駄目だったか……!
人形達を発見した時から、それに宿る気配を既に気づいていた。
この世に存在するだけでも世界に災いを齎すほどの、あまりにも禍々しい妄執に満ちた”亡骸”。
本当ならばすぐさま消し去るが、闇の血族である魔導師を以ってしても人形はおろか、柩に傷一つつけられなかった。
同族とはいえ、厳然たる格の違いがそこにはあった。
衆目の目もあり、結局は持ち帰らざるを得なかったのだ。
しかし彼はそれらを献上する事を頑なに拒んだが、上はそれを許さなかった。その結果が、今のこの惨事だ。

「王……いいえ、タナトス」
名を呼ばれて、王の姿をした”誰か”が振り返り、魔導師を見下ろす。
魔導師は力強く立ち上がると、毅然と王を見据えた。
「今のお前は、遺産に篭められた思念が邪な妄執に反応して形を得たもの。
精神体にも満たぬ、思念の残り香に過ぎない」
「だから私を滅ぼせるとでも? フフフ……最近の子供はいけないね。
持て囃されてすぐ図に乗り、力を過信する。 それに気づかない……愚か者が」
王の顔に浮かび上がる禍々しい笑みは、王のものではない。悪名高き呪術師に相応しい笑み。

「君みたいな若輩者に、”私”が消せるとでも?」
「例え、王から引き離せずとも封印する事ならば出来る!!」
「フフフ……おもしろいが、あいにくと君の相手をしてやつもりはないのでね」
指を鳴らすと虐殺の前に施した結界が音を立てて崩れ落ちた。
ガラガラと崩れる結界の気配を肌で感じながら古の亡霊の出方を窺う若輩の魔導師を、王が嘲笑った。
「出合え!!」
王が声を張り上げて、叫んだ。
王の命に応じて、機械兵や衛兵達が玉座の間に押し入った。
その場に広がる惨事に目を瞠る衛兵達に、王が魔導師を指差す。
「その者がこの惨事を引き起こした張本人じゃ!!」
「騙されるなっ!! これは最早王ではない!! タナトスの思念に乗っ取られた傀儡だ!!」

ペダンが誇る最新鋭の機械兵を瞬く間に破壊しつくした魔導師の絶大な魔力を恐れて衛兵達は遠巻きに取り囲むが、距離を縮める事はしなかった。
―そのようなことをしても、奴がその気になれば皆殺せるのだがね。
つくづく甘く、愚かな魔導師。到底闇の血族とは思えぬその姿に、タナトスが吐き気を催した。
王の長い指が遺産の一つに触れた。
それは嘗て自分自身で作り上げた、闇の血族専用の封印器。
早口で呪文を唱えると腕輪が彼の手の中から消えて、魔導師の腕に生じた。
瞬間、腕輪が眩い光を放ち次第に薄れていく。そうして腕輪の光が完全に消えたとき、そこにいたのは完全に魔力を封じられた、只の少年だった。
生まれてから今まで体中を満たしていた強大な何かが失われ、その箇所に巨大な空洞が出来た感覚に少年が呆然として立ち尽くす。
その隙に兵士が魔導師だった少年を取り囲み、拘束具を嵌めた。

長い衣を引きずりながら、王が少年に歩み寄った。
「環というものはそれだけで内にも外にも魔力を封じる力がある。 だからこそ魔力封じは、かようなアクセサリーでなければならない。
……これは魔導を志す者ならば誰もが知っている、基礎知識だ。
君は真っ先に封印器を破壊すべきだったのだよ」
――さすれば、私にも勝てたやも知れぬのに。
唇だけを動かし、音は出さずに最後の言葉を伝える。

閉ざされてゆく扉の奥に護送される少年の後姿を、王の姿をした呪術師は見つめていた。

翌日の会議にて、グラン・クロワが脱獄したという報せを聞かされた王が、僅かに口元を緩ませた事は誰も気づかなかった。

完全復活をしたマナの要塞を得たことにより、反抗勢力を根絶やしに出来たペダンだったが、その消費するエネルギーは莫大なものだった。
再び世界からマナが失われかけ、神話のみに伝えられる存在だった神獣が姿を現して圧倒的な力で文明を破壊し始めた。
マナの一族も既になく。神獣に対抗する術を持たぬ人類は、ただ滅ぼされるのを待つばかりだった。
その中で、ある一人の魔導師が名を上げる。
彼は失われた術を用いて、神獣を各属性ごとに8つに分割させ、マナの種子と神獣を融合させてマナストーンへと変じさせた。
そうしてマナストーンの封印が解かれぬように、多大な人間の命を用いた禁術を鍵とした。
神獣が世界を破壊する前に封印した偉大な魔導師の名前は、グラン・クロワ。
彼は公式上は最期の闇の血族として、歴史にその名を深く刻み込んだ。



言い訳
時系列順とすれば2→1(FF外伝)→この話→3(HOM)です。
オリジナル設定がかなり強い話になりましたが、これが当サイトでの根底にある設定です。
神獣を封じる器となりうるものって、マナの木を源にしたマナの種子以外なさそうだなという考えから出来ました。
3でいう神獣の最終形態(すべての神獣の力が揃った状態)が、2の神獣って事です。

タナトスの遺産の半分以上は古代ペダン零落と共にアルテナやウェンデルなどに流れたという筋書きです。
”人形”や本当に重要なものはペダンに残されたままですが。

さて、次はHOM時代で、子供時代のロジェとアナイスの話になります。

スポンサーサイト


もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
もくじ  3kaku_s_L.png お知らせ
総もくじ  3kaku_s_L.png ドラゴンボール
総もくじ  3kaku_s_L.png 火星物語
総もくじ  3kaku_s_L.png 聖剣伝説
もくじ  3kaku_s_L.png その他
もくじ  3kaku_s_L.png 未完
もくじ  3kaku_s_L.png 考察もどき
もくじ  3kaku_s_L.png 短文
もくじ  3kaku_s_L.png 裏部屋
  • 【聖剣伝説2 未完 『mystic』2】へ
  • 【裏部屋 『短文集』 1】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【聖剣伝説2 未完 『mystic』2】へ
  • 【裏部屋 『短文集』 1】へ