未完

聖剣伝説3 未完 『夢夜』 3

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注意
六人分の話を書きますが、全体の繋がりはなく、それぞれ単独の話としてお読み下さい。
共通しているのは「夢」の話というだけです。











リース編~『河岸』~














こんな夢を見た。

突如として黄金色に輝く草花が一面を占める幻想的な光景が広がった。
今まで見たことのない程の美しい光景に我を忘れて見惚れていると、足元から水のせせらぎ音が聞こえ始めた。
難だろうと思いつつ足元を見下ろすと、大地から水が懇々と溢れ出して流れを作り、あっという間に河岸を見ることが出来ぬほどの大河へと変貌を遂げた。
眼前で起きた”ありえない光景”も、不思議と違和感なく”現実のもの”として受け入れられた。
膝を地面につけて川の水を掬おうとしたが、何故か躊躇われて伸ばした手を止めた。
所在をなくした手を膝の上に乗せて、川をじっくりと観察する。
あまりにも透明すぎて却って生きられないのだろう。川の中には生物の気配は一切存在しなかった。
「……綺麗……」
ポツリと小さく声が漏れ出た。
普段ならば紛れてしまうような囁き声に等しい音でも、静寂に包まれた空間の中ではよく響いた。
それに気が咎めて、慌てて口を閉ざした。
――――。
何処からか名前を呼ばれたような気がして、顔を上げた。
すると先程までは遠くかけ離れていたはずの河岸は人影が見えるほどに大きく距離を縮めていた。
そこにいる人物に見覚えがあるような気がして、目を凝らした。
―誰かしら?
しかし全体的な輪郭を認めた途端、突如川から霧が発生して視界を大きく塞いだ。
見る見るうちに霧は濃くなり、人影の姿も見えなくなった。
このまま消えてしまうのではないかという考えに自分でも滑稽なほど慌てふためいて、思わず立ち上がり一歩川に足を踏み入れた。
すると瞬く間に霧が消えて、先程まで消えかけていた人影の姿が露わになった。
その姿を認めて、息が、心臓が一瞬鼓動を止める。
「……お父様……お母様……」
掠れて震えた声が、形よい唇から放たれた。
河岸にいたのは既に亡き人である両親だった。
ありえないと理性は警報が鳴らすが、それを無視して更に一歩踏み出した。
しかし川を渡ることは困難だった。
動こうとしても沼の中を歩くように足を取られてしまい、全身を使って掻き分けなければ到底進む事は出来なかった。
重く、碌に身動きの取れない体を懸命に引きずりながら、頭の中にあるのは彼らがそこにいる間に自分も行く事だけ。
体を前のめりにして、必死に押し進んだ。
全身汗だくになりながらも、丁度川幅の半ばまで来た頃だった。
ふと、立ち止まった。
そのまま歩みを止めて、呆然と立ち尽くす。
―何故私はこんなに必死になって渡ろうとしているのだろう?
その理由がどうしても分からなかった。
川岸を気怠く見遣り、人影を確認する。しかし何故此処まで懸命にそこに行こうとしているのかが、どうしても思い出せない。
―何故?
何もかもわからないことが無性に恐ろしく、腰まで浸かった川を見下ろす。
この水に触れていると、自分の中から何かが流れ出して消えていく気がした。
いや、実際に大切だったであろうものが消えたのだろう。
―……これ以上先に進みたくない。
先程消えたはずの警鐘が鈍く響くが、それも束の間で消えた。
最早、どうでもよかった。
今は一刻も早くこの川を渡りきらなければならないという使命感が彼女の足を突き動かす。
すると先程までは泥に浸かっているかのように重かったのに、何の抵抗もなく体を動かせた。
それが嬉しくて、駆け出そうとしたときだった。
「待つんだ!!」
鋭く鬼気迫る声と共に、背後からいきなり腕を掴まれたのは。

―何故止めるの!?
勢いよく振り返り、自分を拘束する人間を鋭く睨みつけた。
そこにいたのは若い男だった。
癖の強い薄紫の髪に深紅の瞳。白皙の美貌の痩身。
何処かで見たような顔だったが思い出せなかった。だが、彼女の中の何かを呼び覚ましそうで、恐ろしかった。
心にとげを刺されるような痛みに耐えかねて、思わず視線に険しさが増す。
だが彼はそれを一顧だにせずに彼女の両肩を強く握り締めた。
あまりの力強さに痛みが走り、思わず眉根が夜。
こんな痩身の何処にこれほどの力が宿っているのか疑問に思うほどの力が込められていた。
「あなたはまだ”向こう”に行くには早すぎる。 だから、今すぐ引き返しなさい」
彼女の目を真っ直ぐ見つめて、穏やかな声音出が力強く言い聞かせた。
―どういう意味だろう?
青年の言葉の意味は全く理解できないが、切迫していることはわかった。
「……でも、私は早く向こうに行かないと……」
「今は行かなくてもいいんだ」

青年の手を振り払おうとした時、後ろから強く押し飛ばされた。
思わず前に倒れこみ転びそうになるが、青年が咄嗟に彼女を抱き支えた。
知らない人物の胸に縋っている自分の姿が無性に恥ずかしくて、彼の胸を押しのけて誰の仕業かと素早く振り返った。
そこにいたのは河岸にいた筈の女性。
最初は女性が誰か”思い出せなかった”が、次第に薄れていたものが形を取り戻してゆく。
「……お母様……」
小さく漏れ出た言葉と共に、この人が画が親だった事を思い出して、愕然とした。
―何故、忘れていたの?
その疑問すら、水に使っていると泡のように儚く消えた。
呆然と立ち尽くす彼女の姿に女性は柳眉を顰めて堪えるようにした唇を噛み締めた後、毅然と顔を上げた。
「帰りなさい」
威厳を漂わせて、彼女を見据える。
「――――」
名前を呼ばれたと分かったが、それは彼女の中を通り過ぎて記憶に留められなかった。
「ここは今のあなたがいる場所ではありません」
「でも、お母様。 私は……」
女性が彼女の額に手を翳す。
次第に視界が暗くなって――。
「私は貴女に幸せになって欲しいのです」
母の慈愛に満ちた優しい言葉を残して、意識は暗闇に包まれた。

気がつけば青年に手を引かれるままに歩いていた。
彼女の動きに生気はなく、只機械的に足を交差させているだけだった。
青年は彼女の動きに合わせているのだろう。ゆっくりとした足取りで歩いていた。
その心遣いをありがたく思う。
急かすように引っ張られても、体はそれに合わせられないことは自分でも分かっていたから。
ぼんやりと自分の手を握り締める青年の手を見つめる。
大理石のように白く透き通る綺麗な肌だった。
雪国生まれの友人よりも白いのではないかと、纏まらない頭で考える。
「……大丈夫か?」
突然声をかけられて、顔を上げる。
真っ先に目に入ったのは背中まで伸びた癖の強い薄紫の髪。
次に青年の顔を見て、目を瞠った。
「……ホークアイ?」
色素こそは異なるが、目の前の青年と想い人はよく似ていた。
彼女の言葉に青年は安堵したように息を吐いて微笑んだ。
そっくりな顔立ちなのに、笑顔はあまり似ていなかった。
「よかった。 その様子だと大丈夫みたいだ」
「何のことですか?」
問うても青年は答えるつもりはないのか、再び前を向きなおした。
一体何なの?と思いつつも、彼に引っ張られる形で歩くのは不愉快ではなかった。
いつもならば見ず知らずの男性に触れられる事など、耐え難いのに。
きっと青年が”彼”と似ているからだという結論を出す。
後姿を観察すれば、外跳ねの強い癖毛は違うけれど、手足が長いのは同じだった。
それに……。
―顔だけでなく、手の形も似ている……。
大切な人の事を思い出して、顔を綻ばせる。
「あなたは、ホークアイの……」
「君の目から見て”あの子”は幸せだと思うか?」
彼女の言葉を遮る形で、青年が言葉を覆い被せた。
―あの子。
立派に成人した男性を親しみを込めてそう表現する人物など、限られている。
「はい。 ……今まで色々ありましたけれど、それでも今のホークアイは心から笑っていると確信できます」
旅の間に見せていた秀麗な顔に貼り付けた仮面の笑みでなく、心の奥底からの笑顔を。

「名前を思い出せる?」
唐突な質問に彼女が眉間に皺を寄せるが、名前を口にしようとして……思い出せない事に気づいた。
「……名前……?」
藍色の瞳が宙を泳いで、閉ざされる。
俯いたまま名前、名前…と頻りに呟く彼女の頭に、青年が優しく手を置いた。
目を丸くして顔を上げた彼女に、優しく微笑んだ。
「大丈夫。 もうすぐ岸辺だから名前を思い出せるよ」
それとこれとどう関係があるのかいまいち理解できないが、そういうものなのだろうと思い直した。
歩を進めるうちに先程まで消えていた記憶が形を取り戻してゆくのを実感していく。
川岸が近くまで迫ってきた頃には大概の記憶は取り戻せたと思うのだけれど、どうしても名前だけが思い出せなかった。

「……あなたは、私の名前を知らないのですか?」
「知っているけれど……。 自分で思い出さない限り、意味がないんだ」
意味がない。つまりは記憶に残らないという事だろう。
先程母が自分の名前を口にしても、それを覚えていられなかったように。

それは天啓のように降り注ぎ、激しい衝撃が身を貫いたような錯覚を覚えた。
はっと顔を上げて、青年の目を見た。
「私の名前は……」
頬を緩ませて、口元を綻ばせた。
「リース」
長い間捜し求めた宝物を愛でるように、一言一言噛み締める。
「私は、ローラントのリースです」
誇らしげに歓喜に満ちた顔を浮かべた。
すると腰まで浸かっていた水が見る見るうちに引いていき、元通りの黄金色に輝く景色が広がった。

「おめでとう、リース」
「ありがとうございます、サンドアローさん。 ……いえ、お義父様」
リースの言葉に青年が目を丸くする。
その顔があまりにも大切な人と似ていたので、愛しむように目尻を下げる。
「ホークアイとの結婚式の後に、フレイムカーン様が全てを教えてくださったのです」
ローラントへ婿入りするホークアイに、最早ナバールの者ではないからと語った事実。
それは一緒に聞いていたリースにも驚きのものだった。

「全く、父上にも困ったものだな」
快活な笑い声と共に聞こえた声に、二人がそちらを見る。
そこにいたのは一人の若い女性だった。
栗色の髪と褐色の肌の、鍛えられた戦士の体躯を持つ凛々しい顔立ちの女性。
女性の腕には大事そうに何かが抱えられていた。
―何かしら?
女性の腕に抱かれたものから目を離せずに、凝視する。

「もう手放すんじゃないぞ」
優しい声音と共に女性が腕に抱えていたものをリースに渡す。
それは小さな珠玉の光。
それを見つめていると涙が溢れて、頬を濡らした。
肩を震わせるリースを、女性が抱きしめる。



「…リ…ー…ス! リース!!」
遠くから聞こえてくる声に導かれるまま意識が覚醒してゆく。
眩い光に顔を顰めて、手を覆い翳そうとしても身体が酷く重く、指を動かす力すらも入らなかった。
彼女の意識が戻った事に気がついたのか、複数の人の気配が周囲を取り囲んで口々に何かを喋るが、よく聞き取れなかった。
「リース!」
唯一鮮明に聞き取れたのは、低く耳に優しい夫の声。
その声に誘われるままにゆっくりと目を開いた。
真っ先に視界に入ったのは青紫。それは愛しい人の髪の色だった。
そうして光を取り戻した目に飛び込んできた光景に、唖然とした。
皆が皆、目を潤ませて嗚咽を懸命に堪えていた。
一体何事かと力の入らぬ体を動かそうとした時、ホークアイが優しくリースを抱きしめた。
「……よかった……本当に、よかった……」
暖かい温もりと、肩口に感じる湿りに彼が泣いていることがわかった。
今まで涙を見せたことのない夫が、衆目の前で泣いている。
夢から醒めても何が起きているのかは分からないが、それでも今出来る事は一つ。
そっと力ぬ入らぬ手を動かして、彼の背中に手を回して、幼子をあやすように頭を撫でる。
「……もう、大丈夫です……」
力のない掠れた声で、それだけを言うのが精一杯だった。

「一時は、母子共に命が危うい程衰弱しきっておられたのです」
典医が重々しく語る言葉を受け止めて、周囲の者達の顔色を窺う。
その時のリースを見ているためか、幾人かは顔を青褪めさせる者もいた。

「まさに……奇跡です」
―奇跡。
典医の言葉を心中で反芻する。
死にかけていた中、母子共に息を吹き返したのだから奇跡といえるだろう。
けれどそれは彼女一人でなしえたものではない。
あちらでも助けてくれた人達がいて、こちらでも懸命に命を繋ぎ止めてくれた人々がいたから成し得た「奇跡」だった。


「ホークアイ」
振り返った愛しい夫に、微笑む。
「元気になったら、家族三人でお義父様とお義母様の墓参りに行きましょうね」




言い訳
「夢」とはまた違うけれど、一種の夢の話ということで。
母の日ということでネタ帳から引っ張り出した話を色々と変えて書いたのですが、舅さんメインの話になりました。(元々の話はこの半分以下の長さで、『夢夜』とはまた別の話でした)
でも、リースを追い返したのはミネルバで、失われた筈の子供の命も救ったのはファルコンなので、テーマからは大きくずれていないと思います。
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