未完

火星物語 未完 『母の場合』

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注意
フォボスの母親メインの両親の話です。
オリジナル設定があります。
風使いは血筋という前提です。










――どうしたの、可愛い坊や。 怖い夢でも見たの?
――………………。そう、お父さんとお母さんがいなくなる夢を。
――大丈夫。 お父さんもお母さんも、あなたを置いて何処にも行かないから。 ね、安心して。

泣き止まない息子を抱きしめて、優しく頭を撫でて宥めた。
母の温もりに安心したのか、やがて眠りに堕ちた幼子の寝顔を痛切な面持ちで見つめる。
自分達が遠からず死ぬと予言された事よりも、愛しい子に呪わしい風の力が継承されたことが、哀しかった。

物の分別が着かないほど幼い頃、私は聞こえてくる”声”を口にしていた。
それは他の人には全く聞こえず、私にしか聞こえない声だったから良かれと思って告げていた。
”声”が告げる、いい事も、悪い事も。すべてを。
人の心や過去、未来を正確に告げる幼かった私を、故郷の人間は化け物でも見るような眼差しを向けた。
それがいけないことだと気づいたときには既に遅く、何処にも居場所などなかった。
生後間もない頃に流れ者だった母親を亡くしていた私には身寄りがなく、庇ってくれる者も、味方もいなかった。
そして、何故自分が”声”を聞けるのかを答えてくれる人間も。
私を怯えつつも、笑顔を貼り付けて懸命に優しい顔を作って、”声”の情報を聞きだそうとする人間達を前に、私の心は冷めていった。
知らぬ存ぜぬを通し、”声”に助けられながらも漸く12歳の命名の儀を受けた後、私は孤児院を飛び出し、故郷を出た。
”声”のおかげで多少の資金はあったし、何より”声”が教えてくれたのだ。
あのままあそこにいれば、捕らえられて実験体にされてしまう、と。
命名の儀に与えられた名前は、忘れた。今の私の名前は憧れた小説の主人公の名前からつけた。

占い師として生計を立てながら各地を転々としている中でも”声”のことを調べていた。
それが”風の声”であるとわかると、風と共にあったという風使いや風の民の事を調べた。
多くは真偽の疑わしい眉唾ものしかなかったが、唯一断言できるのは風の民は400年前にアショカに滅ぼされたという事実。
何故そんな大昔に途絶えたはずの一族の血が、私の中に流れているのかもしれないのか?
その疑問はあったものの、身寄りのなかった私には祖先のことを調べる術などなかった。
そうして風の民や風使いのことを調べていくうちに、風使いが築いた唯一の王国跡地だというアロマに行きたくなった。
この時はどんな些細な事でもいいから、自分のルーツを辿りたかった。
流れ者だった母親は事故で亡くなった後、共同墓地に纏めて火葬されたし、僅かな遺品すらも手元には残らなかったから。
唯一、繋がるものはこの身一つだけ。

嘗て栄えていた王国跡地だというのに、アロマの村はのどかで辺鄙な田舎だった。
それでも故郷のような殺伐とした空気は一切なかったし、人々の暖かな思いが風に乗って伝わってきたので割と心地いい場所だった。
アロマの村から少し離れた場所にある、アロマ城跡地へと足を向けた。
今まで感じたこともない程に濃密に漂ってくる風の気配に息苦しくもあり、またどこか懐かしい不思議な感覚だった。
密接に風が感じられるからか。何故か城跡から離れがたくて、日が暮れて肌寒くなってからも城門の前から足が動かなかった。
そんな時に、あの人に出会った。
彼は考古学者で、アロマの歴史や風に着いて色々と調べて書籍にしているという。
最も彼の事を知ったのは後の事で、その時は風邪を引くから早く帰るように注意されただけだ。

その後も何度かアロマ城跡地に来た私に、彼はアロマの歴史をわかりやすく語ってくれた。
当初は人間そのものに警戒して、距離を置いていた私に彼は少しずつ距離を詰めていった。
それが嫌で、ある無理難題を突きつけた。
風使いや風に纏わる正確な歴史を纏めるまで、私に近づかないでと。
それ以来姿を見せなくなった彼に、私は半ば清々しながらも数日間のアロマの観光を終えて、旅立とうとした日に彼がまた現れた。
げっそりとやつれて、目に隈を湛えたまま差し出されたのは風や風使いに関する文献や論文を簡潔丁寧に纏めた冊子だった。
不眠不休で書き上げた冊子を手渡すと同時に倒れこんだ馬鹿を放っておけず、また無理難題に応えてくれたので情に絆されてしまったのだろう。
アロマへの滞在を伸ばす事に決めたのだから。

いつしか付き合うようになって、彼のことが少しずつ分かってきた。
一体どのように育てばこのようになるのか、わからない程のお節介のお人好しで、誰に対しても分け隔てなく親切にした。
アロマの村という環境か、彼の以って生まれた素質か。恐らくは両方合わさってのものだと思う。

彼との結婚を前に控えて、今までの生い立ちを少しずつ語ったけれど、どうしても言えないことがあった。
それは、私が風の声を聞ける…風の民の末裔かもしれない事を。
彼はそれも受け入れてくれると信じているが、私はとても言えなかった。
恐ろしい、と。
秘密を曝け出して、また迫害されぬとは限らぬ…と。
幼少期の孤独な記憶が、今も尚蝕んでいた。

子供が出来てからは風の声が次第に聞き取れなくなっていった。
当初は不安に駆られたが、漸く解放されたのだと思い込んだ。
風の声は私を救ってくれたけれど、それ以上に苦しめた呪いだった。

息子は、夫が苦笑して居心地悪いと語るほどに彼と瓜二つで、私に似ているところなど何処にもなかった。
それでいいと、安堵した。
外見も中身も彼に瓜二つであれ、と。風の民の血など埋没してしまえと切に願っていた。


”夢”で見たことは変えられない。
そのことは、彼女自身、よく知っていた。
近いうちに死んでしまうことは確定された未来だと。

彼女自身は死への恐怖はあまりないが、夫を巻き添えにしてしまうのが何よりも辛く、また幼い子供を残して死んでしまうことが、心残りだった。

風使いとしての素質を宿してしまった哀れで愛しい我が子。
この先その血ゆえに辛酸を舐めるような出来事が待ち受けているかも知れない。

愛しい坊や。例えどんな苦境にあっても、大切な人と巡り会って幸せになれる。
私は、そうだった。

あなたのこれからの未来に、どうか幸あらん事を。
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