未完

聖剣伝説HOM 未完 『妄執』5

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注意
かなりオリジナル設定や要素が強い話になります。
3(HOM)は2の遠い未来という設定です。

ロジェがミラージュパレスから出る前の話です。









『妄執』4を読んでから、読む事をお勧めします。













遥か遠い昔、それは神話と呼ぶに値する時代のこと。
古代ペダンは他に類を見ない卓越した魔法科学により、海底に没していたマナの要塞を蘇らせ、ファ・ディール全土を支配したという。
しかし、その栄光も神獣の再来と共に跡形もなく消え去り、今では発祥の地である島国の中で命を繋ぐ国だった。

「ロジェ、いい物を見せてやるよ」
ペダン王アナイスから傲岸と放たれた”命令”に、ロジェが困惑と諦めの入り混じった笑みを浮かべて、読んでいた本を閉じた。

アナイスの話す”いい物”とは古の呪術師タナトスの遺産であり、ロジェにとってその時間は苦痛でしかなかった。
見た目は目を瞠るほどの芸術性の高い品々だが、元の持ち主の影響か、遺産を巡る血塗れた歴史ゆえか。底知れぬおぞましさがあった。
それらを見た後は数日悪夢に苛まれるような代物ばかりだったのだ。
呪術師としての才覚が皆無と見なされたロジェですらも感じるものを、アナイスは何も感じないのか。それともわかっていてやっているのか。
彼の性格を考えれば、後者のような気がしている。

「アナイス、僕一人だけを連れ出して、何を見せるつもりなんだ?」
目隠しをされ、アナイスに手を引かれるまま前へと進む。
見えないと分かっていても周囲の気配や音が気になり、顔を動かす。
先程まで聞こえていた王宮の喧騒は既になく、今自分達が何処にいるのかも全くわからない。
何よりもロジェを不安にさせるのは、アナイスに全権を委ねている、この状況だった。
「馬鹿だな、ロジェ。 今話したら驚きと感動が薄れるじゃないか。
フフフ、見るまでの秘密さ」
顔は見えないが、その声は年に似合わぬ皮肉めいた笑みが篭められていた。
「さて、もうすぐ階段だから足を踏み外さないように気をつけるんだよ」

どこをどのようにして歩いたのかは、何もわからない。
まるで地の底に続くような終わりのない階段を下りていた。
―一体何処まで続いているんだろう、この階段は?
果てなどなく、永遠に続くのではないのか?と漠然とした不安を抱いたとき、すぐ側からアナイスの声が聞こえた。
「……嘗てペダンはマナを制し、その力を以って世界を牛耳るまでの一大帝国を築き上げた。
その文明の力は凄まじく、五千年も昔に海底に没していたマナの要塞を引き上げ、復活させた
まぁ、発掘された品々は古代ペダンの零落と共に他国へと流出してしまったんだけどねぇ」
それは一般的には伝えられていない、”失われた歴史”だった。
大昔の文献にも僅かに残されているが、当時と今では言語も文字も異なっており、”他国”では解読の糸口すら見つけることは不可能だ。
しかし悠久の過去から果てない未来まで。時が曖昧になる空間が存在するペダンだからこそ得られる情報と技術がある。
古代ペダンが発展できたのは過去と未来の知識と技術あってのものだった。
物を知らない子供に語り聞かせるような口調の幼馴染みに、ロジェが不服とばかりに唇を尖らせた。
「それくらい知っているよ」
呪術師の資格なしと看做されてからは居候に近く、肩身の狭い思いで暮らしているロジェだが、祭司の一族として”失われた歴史”は学んでいた。
ミラージュパレスに収められている禁書や呪具の数々は、当時マナの要塞から持ち出されたことなど知ってい当然のことだった。
「そう。 でも、その時に持ち出されたものは本と道具だけじゃないってのは知っていた?」
「?」
心当たりがないのか、首を傾げるロジェにアナイスは肩を竦めてやっぱりねと呟いた。
「今から見せてやるのは、王族しか知らないタナトスの秘宝さ」
「……どうしてそんな大切なものを、僕に?」
タナトスの遺産ならば兄に見せた方が喜ぶだろう。そういう意図を含ませた問いだった。
それに対してアナイスは露骨に眉を顰めた。
「あいつに見せたら奪われそうじゃないか。
その点、君ならその力もないし、邪な思いを抱かないだろうし。 安全牌って奴?」
せせら笑う幼馴染みに、ロジェが静かに諦めの吐息を吐いた。

「着いたぞ」
その声と共に目隠しを外さた。
それは一見見た限りでは風変わりな模様が刻まれているだけの、普通の扉だった。
しかし不要とされ、勘当されても、祭司の後継者としての勉学を受けてきたロジェには、それがただの扉でない事はすぐにわかった。
扉に刻まれている模様は、洗練された魔法陣の連なりだ。
多くはロジェの知らぬものであり、何を意味しているのかすらも理解出来ないものもあった。
これを見られただけでも、アナイスに着いてきた価値はある。出来ればこのまますぐにでも帰りたいくらいだ。
「これは一万年前の古代ペダン王が作ったものだ」
扉に刻まれた魔方陣に心を奪われているロジェにアナイスが語った。
「今までの調査で、此処に使われているものの多くが超古代文明時代に作られた魔法である事はわかっている。
当時の王がどのようにして、遥か古に失われた筈の魔法を知りえたのかは……永久に謎のままさ」

アナイスが扉に首飾りを翳すした瞬間、閃光が走った。
暗闇の中に突如現れた眩い光にロジェが思わず目を閉ざすが、その時には光は既に消えていた。
恐る恐ると、薄っすらと目を開いた。
眩い光は消えていたが、扉の中心のへこみとアナイスの首飾りの間には光の帯が走っていた。
やがて帯びは筋となり、糸よりも細くなって、完全に消えてゆく。
呆然とするロジェの眼前で、扉は主を迎えるように恭しく開いた。

厳重な扉の結界に守られていた部屋とは思えぬほど、そこは無機質な空間だった。
壁に手を当てて、床と天井を見遣るが、何処にも繋ぎ目は存在しない。
どのようにして作られたのか。現代の文明ではもう理解できぬ過去の英知に、初めて目を輝かせた。
「おいおいロジェ、壁なんかを見せるためにわざわざ君を此処に連れてきたわけじゃないぞ」
呆れたような冷ややかな物言いに、ロジェが我に返ってアナイスを見た。
「君に見せたいのは、あっち」
部屋の奥にある祭壇のような台座めがけて顎をしゃくる。
台座の上には石造りだろうか。三つの柩らしきものが並んで置かれていた。

柩の中を覗きこんで目を瞠り息を呑んで、後ずさる最中足が縺れて尻餅をついた。
そこには目を閉ざしても尚、見る者に恐怖を与えるまでに美しい三人の人間の死体が、一切の腐食の痕跡なく、眠り続けていた。

「……人間の、死体?」
「はぁ?何言ってるんだ。 これは人形だよ」
立ち上がることもせず、声を震わせたロジェに、アナイスが嘲りと蔑みの目を向ける。
―人形?
ロジェの眉間に皺が寄せられる。
―何を言ってるんだ、アナイスは。 これはどう見ても人間の死体じゃないか!!
何故そう思うのかは自分でも分からないが、断言は出来た。
これは、魂の抜け殻であると。

「これが死体だなんてありえないに決まっているだろ」
一万年の長きに渡り、何度か極秘裏に調べられていたことがあった。
その結果分かった事といえば、永久保存の魔法以外にも幾つもの魔法が使われていることのみだ。
当時の王達が求めてきた、柩から人形を取り出す方法に纏わる情報は何一つとして知ることは出来なかった。

「第一、生身の人間がこんなに美しいものか。 人間なんて醜い生き物だからね
これを作った人形師には、数え切れない賛辞を送っても到底足りないな」

「本当にいつ見ても、綺麗だ……。
タナトスが永久に残したいと思ったその気持ち……よくわかるよ」
人形を見ているだけでアナイスの胸のの中にじりじりした熱いものが湧き上がり、全身を焼き焦がすかのように際限なく膨れ上がってゆく。

「触れられないのが余計にそそられる。
ロジェ、そんな所で固まってないで、こっちに来て見てみろよ」

恐る恐る柩の中を見つめていると、先程までの恐れは次第に薄れてゆき、純粋に人形の美しさを見られるようになった。
それは今までに見たこともない程の造形美。
見ているうちに、先ほどの疑問がまた胸を突いた。
「………本当に、人形なのかな?」
ポツリと呟かれた言葉を耳ざとく聞き取ったアナイスがロジェを横目で見遣った。
「何で?」
またかと言わんばかりの、棘のある声音だった。
そのようなことに思い至った理由を探すように、もう一度人形を見つめる。
―ああ、そうか……。
「とても作り物には見えない……まるで眠っているみたいだ」
”物”という無機質な印象はなく、いつ目覚めるかも分からぬ深い眠りに沈んでいるようだ。
”人形”には見えなかったから。”死体”としか思えなかったから、恐ろしかった。
幼馴染みの言葉に、アナイスはほくそ笑んだ。
「本当に凄腕の作り手は、人形に魂を吹き込むことだって可能なのさ」
―違う。
物が宿す作り物の命の息吹でなく、生物が自然に持っている生命の息吹を、かすかに感じられた。
けれどそれをアナイスに言っても無駄なのだ。
この幼馴染みはロジェの言葉を満足に聞かないし、第一祭司の才能なしといわれたくせに分かったような口を利くなと返されるのが関の山だ。

アナイスが柩を見下ろす。
その目に宿るのはあまりにも年齢に不釣合いな色だった。
うっとりと陶酔した顔で、柩を愛撫するかのように舐めるが如く撫で回す。
「僕は人形を柩から出して、直に触れたいんだ」
切望と羨望の入り混じった情欲の眼差しだった。
毎日毎日、”人形”を柩から出して愛でる夢を見る。
その夢はアナイスの胸を熱く焦がした。
激しく深い”執念”に、これが本当に自分の感情なのかと疑う事も度々あった。
けれども、人形への想いは日々募ってゆき、毒となってアナイスの精神を蝕んでいった。
「それが出来るのなら、僕は何だってする」
国を、民を、全てを犠牲にしてでも。
見慣れた、けれど知らぬ瞳に宿る言い知れぬ妖しい光に、ロジェが恐怖に慄いた。
―怖い。
目の前にいるのは、傍若無人でいつも人を振り回してばかりの……よく見知った幼馴染みだというのに。
今はまるで、別人だ。

父を亡くし、初めてこの人形を見た瞬間からアナイスの心は三体の人形に奪われた。
最初はただ見つめているだけでも胸が熱くなり、十分満足だった。
けれど年を重ねるにつれて、幸せな夢心地だった気分にもっと激しく熱い粘着質な想いがうごめくようになっていた。
アナイスは知らなかったが、それはタナトスや一万年に渡り人形達の虜になってきた者達の、妄執。人形とされた元死体の持ち主の怨念。
それらが混ぜ合わさったものだった。

「柩から人形を取り出すには、絶大な力が必要なんだ。
………それこそ、古の呪術師タナトスに勝る力が」

”人形”に触れたい。手に入れたい。そして今度こそ――
アナイスの中で”誰か”が血を吐くような叫びを上げている。
その誰のものとも知れぬ妄執は、古の呪術師に勝る力として、後にエジーナの鏡を求める事になる。

それは、ロジェがミラージュパレスから野に下される前日の、出来事だった。


言い訳
アナイスが人形を見せたのは、ロジェへの餞別のつもりです。(王だから予めロジェの追放を知らされていた)
次は3時代で仮面の道師と死を食らう男の話になります。
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