未完

バジリスク 未完 『待ち人、帰る妖』 Aパート サンプル

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注意
バジリスクとモノノ怪のクロスオーバ中篇のエンディングAパートです。(ここにあらすじを少し書いてます)
一応二つのエンディングを考えているんですが、それによって話の内容も大きく変わるのでどちらを採用するか検討中です。
とりあえず、サンプル程度に。

終わりが救いのない酷い話ですので、それを念頭に入れて注意してください。










深い眠りに着く老婆が待つのは、たった一人の人物。
既にその存在がないとわかっていても、命途切れる瞬間まで待っていた。
必ず帰ると約束した、最愛の伴侶の帰還を。

「恐らくはあんたの連れを殺した事で元通りの体を取り戻したんでしょう」
淡々と言い終えてから、涙を堪え、拳を握り締める少女を見遣る。

数多の人間の肉と皮を剥いで来た物の怪が手を止めた少女。
物の怪を、亡き母と見紛うた少女の口から語られるのは、真と理に繋がる話だった。
薬師の目が鋭く眇められる。
―愛しい者に再び合間見えるために、失われた体を取り戻す。
幕府への報復ではなく、家族との再会のため。
その思いは純粋で、同情の余地はあれど、相手は数多の人間を殺してきた物の怪だ。
人に害を加える物の怪を消し去るのは、薬師の使命だった。

「駿河城へ赴いた者達の訃報が齎された直後、生家からの再婚話に祖母は拒絶していたけれど……。
それが避けられないと悟るや、一族の者を皆殺しにして、自ら首を裂いた」
沈痛な面持ちで俯き、ゆるりと頭を振った。
「辛うじて一命は取り留めたけれど、もう忍びとして動けぬ体になったの。
祖母と母は仕方なしに祖父の生家に引き取られたけれど、酷い厄介者扱いだったわ」

「祖母のせいで、母と私が里の中で孤立して、どれだけ肩身の狭い思いをしてきた事か……!
祖父が死ななければ!それが叶わないのなら、再婚さえしてくれればこんなことには……!!」
祖父への操を立てるあまり、一族の者を皆殺しにするなど、狂気の沙汰にしか思えなかった。
祖父が死んだと分かった時に、祖母は死んだのだと母は語っていたが、少女には到底納得できなかった。
少女の慟哭の叫びを黙って聞いていた薬師が、静かに息を吐く。

「……それほど、愛していらしたんでしょう」
感慨深げに呟かれた言葉に、少女が眼を丸くした。
「……薬師さんがそんな事を言うなんて……」
「そんなに似合いませんかね?」
即行で頷いた少女に、薬師がやれやれと苦笑した。

―蛍火!蛍火!!
長い月日待ち焦がれた妻との再会を間近に、物の怪となった青年の鼓動が高まる。
生への実感など当の昔になくしていたが、今この瞬間確かに生きていると実感していた。

あばら家の戸を勢いよく開け放つ。

傍目から見ても命の灯火が消えかけていることが明白な、一人の老婆が静かに深い眠りに沈んでいた。
しなやかな白魚のようだった繊手は、皺に塗れた枯れ枝の如く変わり果てて。
首筋には眼を覆いたくなるほどの傷跡が今も尚、残されていた。
時の流れにさらされ、年老いた容貌に嘗ての面影を探し出すのは無理だが、それでも彼の妻だった。
「…蛍火…」

触れるだけでも折れるのではないかという懸念を抱くほどの細く力のない手に、己が手を伸ばす。
しかし触れる寸前にためらいが生じた。
妻の変わりようのせいではない。この体が数多の人間の肉と皮で作られた紛い物故に。
”そんなもの”が蛍火の体に触れると考えただけでも、耐え難い悪寒が走ったのだ。
体を元に戻すために、何十年という月日を費やしたのに、これでは無意味だ。

骨と皮だけになった皺だらけの細い手を優しく手に取る。
この肌が皇かだったことも。全て、覚えている。
「蛍火、蛍火よ。 夜叉丸じゃ。 今、帰ったぞ」
万感の想いを篭めて妻に語りかけた。
老婆の目がゆっくりと開かれて、青年の姿を映しこむ。
「蛍火」

「………夜叉丸……どの……?」
多くの記憶が忘却の海に飲まれた今も尚、決して忘れぬ声に誘われるように眼を開いた。
そこにいたのは、記憶のままの愛しい人の姿。
「あぁ……夜叉丸、どの……」
もう、逢えぬと思っていた誰よりも愛しい人。

「すまぬ、蛍火。 帰りが遅うなってしまった」
「いいえ、こうして帰ってきてくださっただけで、蛍火は幸せにございます」
若々しい美丈夫と、枯れ木のように細く皺だらけな老婆。
酷く不釣合いながらも、両者の間には余人が計れぬ絆があるとわかる光景だった。

「夜叉丸どの」
掠れてしゃがれていたが、若い頃の面影のある甘い声。
喉に染み付いた癖は、数十年という時を経ても残り続けていた。

細く、今にも折れてしまいそうな枯れ枝のような腕で、抱きしめる。
しかし力の入らぬ腕では、ただ沿うことしか出来なかった。
「ずっと、ずっと……お逢いしたかった……」
帰らぬ待ち人を、ずっと待ち続け。諦めても尚、逢いたいと言う想いは消えることなく胸の中で燻り続けていた。
これが、幻であってもいい。
消えうせぬように、逃さぬように彼の背中に回した腕に力を入れる。
しかし命尽きかけた老婆の力では、望むだけの強さは得られなかった。

「……最期に、このような幸せな夢を見られるとは、思いもしませんでした……」
「夢ではない、現実だ」
自分で言ってから、虚しくなった。

「夜叉丸どの……抱きしめて、口を吸って……」


手を握り締めたまま、慟哭するでもなく静かに妻の臨終を看取る物の怪の背後に、薬師が気配もなく立った。
満足そうな笑みを湛えて息絶えた妻の目をそっと閉ざしてやる。
「……薬師よ、俺を斬れ」
思いもよらぬ物の怪の言葉に、薬師が我知らず目を見開いた。
「帰るという望みを果たし、妻と娘のおらぬ世じゃ。 このまま生きながらえたとて、何になる?」
「……これは、また。 随分と人間臭い、物の怪ですね」
滅多な事では表情を崩さぬ薬師が驚きと唖然の入り混じった面持ちで物の怪を見る。
今まで見てきた物の怪は”人間臭い”範疇からかけ離れた者ばかりだった。
当初から珍しい物の怪だと思っていたが、まさかこれほどの変り種だとは思わなかったのだ。
目的を果たし、愛しい者が亡くなった以上。この世への未練なぞ微塵もないのだろう。
―よく、その意識が妖に乗っ取られなかったものだ。
妻子への強い想いゆえか。忍者としての鍛え抜かれた精神ゆえか。

薬師が頷き、退魔の剣を手に取った。
「形と真と理により……剣を、解き放つ」

息絶えた妻の手を握り締めたまま、頭を垂れた物の怪の首を、切り落とす。

他者から奪った血肉は物の怪の消滅と共に霧散し、跡形もなく消え去った。
残されたのは、一人分の砕かれた骨の欠片の小山のみ。
それは物の怪となった人間の、唯一残されていた生身の肉体だった。


「さて、これであんたも満足しましたか?」
「え…?」
怪訝そうな面持ちを見せる少女を、薬師は黙って見つめた。

「私があんたの名前を口にしない理由…まだ話してませんでしたね」
「………」

「駿河から伊賀を訪ねて来たのは、鍔隠れの里に物の怪がいたからですよ。
その道中で、あんた達や彼と出会ったのは”偶然”ですがね」
退魔の剣を少女に向けた。
「自ら命を絶ち、物の怪に成り果てた娘」
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