未完

聖剣伝説 『女神の騎士』 未完 番外編 【箱庭の少年】4

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注意
『女神の騎士』本編より数十年前の、ナバールの話です。
この話はファルコン→←サンドアロー←フレイムカーンが前提です。
















それは、ウェンデルで行われた世界界での折。
レジスタンスを名乗る野蛮な人種による破壊活動で不覚ながら手負いになった時。

――大丈夫ですか?
その瞬間、心のみならず魂を奪われた。
娘と同じ年頃の、美しすぎる少年。
後光を差していないのが不思議なほどだった。

印を結ばずに容易く強力な術を行使した少年は、夥しい血を流していたフレイムカーンの血を一瞬で治癒した。

――ああ。
――そう、よかった。
安堵で口元を綻ばせた少年は、天使だった。

今でも魂を震わせる出会いから数年を経た今。
愛してやまぬ者は、何処か怯えを滲ませた眼差しを向けていた。
それに対し胸に渦巻くのは激しい苛立ちと、憤怒。
「サンドアロー」
一歩踏み出すと、その分少年は後退る。

まるで兎を追い詰めているようだと、頭の片隅で思う。
目の前にいるのはナバールの誰よりも貴い存在であるのに、それを脅かしているのは本来ならば仕える身である己自身。

―あれは、いつから此処に出入りしていた?
詰問したい問いは、恐ろしくて言葉にならなかった。
今分かっているのは娘が、少年に会っていたという事実。
これが他人であれば殺せるのに、期待の娘ではそうはいかない。

力強い足取りでサンドアローの元に向かうと、彼の腕輪に手を伸ばした。
それはフレイムカーンの腕輪と対になっており、この塔に施された術を無効化する鍵だ。
対を持つフレイムカーンは直接空間転移を行えるが、それを持たないファルコンは数多の防衛術とトラップを乗り越えなければならなかったのだ。
まるで女を愛でるように上へと優しく沿っていく手をやんわりと止めて、嗜めるように。
「そんなことをしているから、ファルコンさんが誤解するんですよ」
言葉を紡ぎながらも、しかしファルコンの思い込みではないとわかっていた。
先程の目、あれは――。
「あれは思い込みの激しい娘だからな」

「――――」
フレイムカーンの口から漏れ出た言葉に思わず振り返り、頭振った。
「その名前は、もう捨てました。
今の僕は”サンドアロー”ですよ」
ナバールに来た時にそれまでの全てを捨てた。本当の名前すらも、葬ったのだ。

細く癖の強い髪を一房手に取り、少年の目をまっすぐ見据える。
「儂…いや、ナバールにはお前の存在が必要不可欠だ」
その血は何よりの宝。その存在は、己が魂の至宝。
王の言葉に、少年は寂しげに微笑んだ。
――混血でも、僕が必要ですか?



「ファルコンよ、そなたに申し渡しておきたいことがある。
儂はサンドアローを養子に迎え、王位を継がせる」
正気を疑う父王の発言に、息を呑んだ。
「父上!!
ナバールの王が出自の不明な者を養子に迎えることが、国内外にどれだけの混乱を振りまくか。それが分からぬ父上ではないでしょう!」
いくら上級国として栄えているとはいえ、その安定は絶対ではない。
最近ヴァンドールは上級国の国力を削ごうとする動きを見せており、隙を生じさせれば国の等級を下げられる恐れすらある。
それを防ぐには一層国内の統治を強固にしなければならないというのに、父王のすることは悪戯に混乱を招くだけだ。
「ましてや、王位を継がせる!? それすらも厭われないサンドアローは、何者なんですか!!」
立派な王となって、ナバールに繁栄を。
そのために築かれたファルコンの人生すらも、父王の宣告は残酷に切り捨てた。
激昂を露わに、息を荒げるファルコンが父王の顔を睨み上げる。
娘の慟哭に父王が、薄く嗤った。
「ファルコンよ、我が王家の始祖は”失楽園”により王族が滅びたために代行者として選ばれただけに過ぎぬぞ。
元々、”王”を名乗る事自体おこがましい」
「父上……!!」
己だけでなく、王家の歴史を軽んじる父に絶句して、気色ばむ。

五千年前。ヴァンドールが世界を牛耳り、極東の大陸が死の大地に変貌した。
その際に正当なる王族は皆死に絶えて、ナバールの民は逃げるように砂漠地方へと移り住んだ。
その出来事をナバールでは『失楽園』と予備、五千年も国を統べてきた現王家は、いまや本当の王家だった。
だというのに父の言葉は、その歴史を軽んじて蔑ろにするものだ。

「代行者として、王位を正統なる者に返さなければ……それは簒奪と同じよ」
王の言葉を徐々に理解していくと同時に、血の気が引いていく。
――正統なる者――
それが意味するものが理解できぬほど、彼女は愚かではなかった。
「それでは、まさか……サンドアローは……!」
「さよう。 あれはな……正当なる王族の最後の生き残りだ」
父の口から紡がれた言葉は到底信じられなかったが、何処かで納得している節もあった。
ここを嘗てナバールが栄えていたゼラリス大陸と間違え、たまに五千年前の事を見知った事のように話していたサンドアロー。
いつも書物を読んでいたのは、無聊を慰めると共にこの時代の知識を貯えるため。

「ですが、彼の王族はもう五千年前に滅びたのですよ!?」
「……あれがどのようにして数千年の時を越えられたのか。それは定かではない」
サンドアロー自身その事は一切覚えていない様子だった。
目覚めたときには数千年のときを越えていたという。
それまで自分が属していた世界から、大きく変わり果てた世界にさぞや混乱しただろう。
どのような術でそんな事を可能になるか分からないが、先天的に王族にしか使えぬ術もあった。
その一つであろうとフレイムカーンは見当をつけている。

「ナバールの中核にある”宝珠”は、あれに反応した。
それが、あれの血統が確かなものであると何よりも証明している」
マナの帝国以前…古代ナバールが建国されたと同時に正統な王族の手によって作られたという宝珠。
正統なる王家が滅びてからは光を失い、神秘の力をなくしていたが、サンドアローが触れた途端それは嘗ての姿を取り戻した。

「わかったであろう。 サンドアローには王位を継がせる正当な理由がある」
自信に満ちた父王の言葉に、ファルコンの胸中の霧は晴れなかった。
確かに父王の言う事にも一理ある。だが、突如現れた者に上級国ナバールは統治できない。
正統なる王族が滅びてから五千年も経っているのだ。今更ナバールの民が正統なる王を受け入れるのかという懸念もある。

ある考えがファルコンの脳裏を過ぎる。
それは非常に理にかなっており、それでいて魅惑的だった。
問題は、どのようにして父王を説得するか。それだけだった。

「……父上、サンドアローを王にする事など不可能です。 それはあなたが一番ご存知のはずだ」
幾ら正統な王族といえど、彼は”混血”だ。混血を王に頂くなど、純血至上主義の染み付いたナバール人の誰も承知しない。
それどころか過激な考えを持つ者によって、その身に危害が及ぼされる可能性が高い。
そんな危険に、晒す事などできない。

「彼の身柄が現王家の手にあるのならばいい。ですが、もし他者…それも他国の手に渡れば、彼を使ってナバールを揺るがす事だって可能です。
そのような事態を防ぐためには、彼を……サンドアローを、殺めるしかありません」
「馬鹿者っ!!」
狼狽して、声を荒げる。
感情を露わに取り乱す父の姿に、ファルコンが唖然とする。
まさかここまで簡単に釣られるとは思わなかったのだ。
王としての尊厳をかなぐり捨て、一人の人間となるまで父王にとってサンドアローの存在が大事なのだと、知らしめた。
その命を奪うなど、父王にとっては死よりも耐え難いのだろう。
そしてファルコも父と同様に、彼の存在は失いがたい重要なものになっていた。

「……あれを殺すなど……儂には出来ん!!
そのようなことをするのならば、儂は……!」
「ナバールの民を、滅ぼす…と、仰せか?」
本音を抉り出されて娘を凝視するが、静かに顔を伏せて背を向けた。
「……愚かと笑え。 だが、儂にはあれの存在は我が身や、この国よりも大事なのだ」
失う事など、到底考えられない。
初めて会った瞬間から、ナバールの代行王の魂は、最後の正統なる王に奪われていた。

「……ならば、サンドアローを私にください」
「な、に?」
娘の言葉が理解できないでいる父王に、ファルコンが更なる一手を加える。
「正統なる王族の血を現王家に取り込めば、すべてが丸く収まります。
ですから、サンドアローと私の婚姻を認め…」
その言葉は最後まで言えなかった。
身の丈を越す大鋒を自由自在に操る怪力で頬を叩かれたのだ。
咄嗟に衝撃を受け流していたが、そうでなければ頬骨は砕けて、床に倒されていた。
もし本気で殴られていたのならば、幾らナバール人といえども首と胴が分かれていた。それを考えれば、無意識のうちに多少は手加減していたのだろう
口の中に溜まった血を吐き出して、印を結び回復しながら父王の顔を見ると、叩いた事ですら思慮の外だったのか目を瞠っていた。
「……馬鹿、な…」
晴天の霹靂とばかりに呼吸すらも忘れて、娘を凝視する。
「ならぬ!!」
「父上!!」

「父上。サンドアローを養子にして王位を継がせるよりは、この方法が彼を守れるのです!」
幾ら正統な王家の血をその身に宿す最後の一人であっても、彼は混血だ。混血が王位を継ぎ、純血の民を従えるということに対する反発は凄まじい。
それは数万年の歴史を誇るナバールを用意に瓦解させる争いへと繋がる。
かといって、その血を野放しにしては後々厄介な事になる。ならば消してしまえと現王家に忠誠を誓う者が先走るかもしれない。
そうした輩から彼を守るためには、この方法が最善だった。
『正統なる王家』の血を、現王家に取り込む。
さすれば現王家は真の意味でナバールの王になれる。
”浄化”を重ねてゆき、本当の意味で王を取り戻す。

「……嫌、だ」
「父上!」
「……それが最善の策だと分かる。 だが……」
握り締めた拳から、血が滴り落ちる。
「あれが、サンドアローが……誰かを愛して、その身に抱く? そんな事、絶対に許せん。
例えそれが、ファルコン。 我が娘であってもだ」
凄まじいまでの嫉妬を滲ませる父王の身勝手な言い分に、ファルコンの胸中で憤りが膨れ上がる。
だが、ここで感情的になっては余計に拗れるだけだ。
冷静になれ、と言い聞かせた。
「父上。サンドアローの命と、あなたの嫉妬。 どちらを優先すべきかをよくお考えください」


庭先から彼のいる当を見上げる。
まるでどこかの国の童話のように塔に閉じ込められた貴い人物。
―必ず、出してやる。
例え色恋に狂っていても、父王は愚かではない。
真に彼の事を大切に思っているのならば、最善の方法を選ぶ。

―もし、彼が女だったら…。
それを考えるのは容易かった。
彼自身、女と見紛う程の美少年であり、何より化粧をして体格さえ誤魔化せば見るものの心臓を蕩かせるほどの美女として十分通用する器量の持ち主なのだ。
―父上は、抑制もなく求めるのだろうな。
”彼女”に子を成して、その子供に玉座を継がせるとでも考えただろう。
しかし幸いな事に”彼”は男だ。
それ故にナバール王は辛うじて理性を保っていられた。

父である前に王である男は、嫉妬している。
我が身と魂が焦がれるほど切望しようとも、絶対に得られぬものを手に入れられる娘に。
最期の正統なる王族をその身で受け入れられる、女性である娘を。

言い訳
娘と婿の性別を変えたら、骨肉の泥沼争いになりかねない……。
フレイムカーンは歴史や伝説を調べるうちに、代行王が実質的な王に成り代わっている事に負い目を感じていた。けれど、どうしようもないからと胸中に封じ込めていた思いが『正統なる王族』のサンドアローと出会った事で、押さえつけていた分一気に大爆発したんだと思う。
でも誰とも婚姻させるつもりはなかったみたいだが……。一代限りの王にするつもりだったのか?

実は混血の生きられないナバールで、生きられるように立場を与えたかったってのが本音のような気もする。
厳重に幽閉していたってことは、独占欲+混血ゆえに隔離せざるを得なかったってことでもあるから。
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