未完

聖剣伝説2 未完 『Thanatos』

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注意
オリジナル要素がかなり強い話です。
少しグロテスクな表現があるかもしれません。
















”歪み”から現れた上級妖魔の姿は眉を顰めたくなるほどの醜い容貌だった。上級とは名ばかりの魔力の少ない素体に、タナトスが失望の息を吐く。
眼前の妖魔への興味は既に失われていたが、妖魔は魔界から現界へと強制的に引きずり込んだタナトスへの殺意を漲らせた。
妖魔は金属が軋むような甲高い音を立てると、人間の体長に及ぶ巨大な爪がタナトスの躰を切り裂こうと襲い掛かる。
しかし一瞬で構築された結界に阻まれると同時に、妖魔の爪から肩までが塵と化した。
腕を丸ごと失ってもまだ諦めていない妖魔を横目で嘲笑ったタナトスが結界の出力を強めると、妖魔の巨大な体が木っ端微塵となり、細切れになった残骸が周辺に飛び散る。
残されたのは使い物にならぬ肉片のみ。
何一つ成果のない失敗にタナトスが肩を落として呪文を唱えると、術者の意に応えて魔界へ繋がる歪みを生じさせていた陣が消滅した。
魔界との接続の残り香として周辺には高濃度の瘴気が充満しているが、タナトスは生物を腐らせ、死を齎す空気を浄化しなかった。
不思議な事にヴァンドール人とヴァンドールの固有種には瘴気への絶対的な抗体があるため、瘴気の中にいても体が腐って死ぬことはなく、また心身にすらも一切影響はないのだ。
だから手間をかけてまで瘴気を浄化するという無意味な事をする必要はないと判じたのだろう。
血の池にローブが触れないように、裾を翻して踵を返す。

一万年以上の眠りに着いているマナの要塞を起動させるためには莫大なエネルギーを要するのだが、世界的にマナが枯渇している中で”必要量のマナ”を用意するには、マナの血族か上級妖魔を数百以上捕らえてマナを抽出しなければならない。
しかしマナの血族は百にも満たないし、上級妖魔も長年の乱獲により台座の上に立てられた針の如き少なさだ。
そのような厳しい状況でマナの要塞を復活させるエネルギーを工面しなければならないのだから、幾らタナトスといえども頭が痛くなるだろう。

風が吹き荒び、夜空を覆い隠していた雲が流れて、大地が月光に照らされる。
天を仰ぎ、中天にまで上った月を視界に映した。
冷たい輝きを放つ月に、タナトスの胸中にある言葉が蘇る。
――何故、お前がマナの要塞を求める?――
同僚の低く美しい声が、険しく問うた。
タナトスがマナの要塞を手中に得るということは、遠からず死ぬ事を意味している。
永遠に生きたいと望んでいるのに、自ら死のうとしている。それがシークの目には不可解な矛盾に見えたのだろう。
例え命の危機に晒されることになっても、マナの要塞を手に入れたい。
何処からか湧き上がる純粋な想いは、実現すればタナトスの不死性すらも消し去るものだというのに。
それでも再び手に入れるためには、何を捨ててでも、誰を切り捨ててでも。マナの要塞をこの手に取り戻したい。
今のタナトスには、それが大部分を占めていた。

星星に視線を転じた時に、魂の奥底から幽かな飛沫が湧き上がってくる。
――――。あの星は導きの星と呼ばれるものだ。
そう語った人間が男か女か、若いのか年老いているのか。
声に纏わる記憶すらもない虚ろで朧なものであるにも関わらず、それはタナトスの心を緩やかに波立たせる。
普段ならば得体の知れない感情やその波などタナトスには苛立ちしか与えないが、今回は違った。
不快な感情の揺らぎではなかったので、暫しその波に身を委ねる。
悠久の時を生きるタナトスの記憶は多くが欠けており、対照的に情報が鮮明に刻み込まれている。そのような現象が起きる理由は術の仕様によるものだ。
知識や技術などの情報ならば凝縮化させた上で精神と共に新たなる体へ転写できる。
だが記憶においてはまた異なり別枠扱いとなっているため、転生して体を入れ替えるたびに薄れて消えてゆく儚いものだった。
タナトスが最初の体の頃で覚えているのは、この世のものとは思えぬ醜い顔だったことのみで、それ故に今も尚根強いコンプレックスとなって彼の中に居座り続けている。
当時の記憶はそれしか覚えていない。
しかし……。
――――。あの星は導きの星と呼ばれるものだ。
その声を聞いたのが、最初の体の時であると断言できた。
遥か大昔の過去に繋がる限られた記憶であっても、声の事を思っているときは何処か懐かしいという程度で、それ以外の感傷などない。
だというのに、その間だけは際限なく湧き続ける破滅衝動も、四天王達への度の過ぎた執着すらも薄れて、タナトスの心に一時の平穏が訪れるのだから、我ながら不思議であった。
――――。あの星は導きの星と呼ばれるものだ。
平穏と安寧を齎す得体の知れぬ声の記憶も一定時間を過ぎれば表層意識から消え去り、再び声の存在すらも思い出せなくなる。
そのようなことが、覚えている限りで幾度もあった。
―”あれ”を思い出すのは、これで最後かも知れぬな。
それは確信としてタナトスの心に天啓のように降り注いだ。
遠からぬ未来、マナの要塞を手に入れた時に声はタナトスの中から消え去る。
―それが、どうした。
それはタナトスにとって珍しくも、消し去りたいが残したいという矛盾した思いを抱く記憶の片鱗ではあるが。
どこまでいっても自身が”人間”である事を突きつけてくるものだから。
―もう、いらない。
マナの要塞さえ手に入れば一万年の渇望は満たされる。だから声の記憶などに未練はない。

導きの星と呼ばれるものが、何処にあるのか。もう忘れてしまった。

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