未完

聖剣伝説3 未完 『夢夜』6

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注意
六人分の話を書きますが、全体の繋がりはなく、それぞれ単独の話としてお読み下さい。
共通しているのは「夢」の話というだけです。

前半はホークアイ・ジェシカで、後半がホークアイ・リースです。

















ホークアイ編~『鏡合わせ』~


















こんな夢を見た。

ホークアイが小さく身じろぎをして、薄く瞼を開く。
ぼやけていた視界が鮮明になってゆき、薄明るい照明に照らされている天井に張り巡らされた控えめな装飾が目に入った。
幼い頃から慣れ親しんでいる自室に、得体の知れぬ違和感が顔を覗かせた。
あまりに漠然とした霞のような”影”でも、何故か忘れてはならないとても大切なことのような気がして、首を傾げる。
そんな時、突如隣で眠っていた”妻”が悲鳴と共に飛び起きた。
何事かと妻を見て、驚く。
浅く呼吸する体には大粒の汗が流れ、恐怖のあまり可憐な顔は強張っていた。
あきらかな異常事態にホークアイが、
「ジェシカ!」
すかさず身を起こして、彼女の体を揺さぶり、夢から現実に戻るように呼びかける。
藍玉の瞳から止め処もなく溢れ出す涙を見ていられずに抱き寄せると、嗚咽を揚げているジェシカの背中をあやすように叩いてやる。

「…………とても、嫌な夢を見たの……」
「……夢?」
安堵で肩の力が抜けたものの、夢は時として心を深く傷つける凶器になりえる。それもあそこまで酷い目覚め方をした夢ならば、尚更だ。
悪夢をいつまでも溜め込んでいては、棘となって膿を生み出すかもしれない。
だから、少々酷かもしれないが、早いうちに吐き出させた方がいいと、覚悟を決めた。
「ジェシカ、夢の内容を話せるか?」
「……………嫌よ……」
今にも消え入りそうなか細い声の拒絶だったが、あえて更に踏み込む。
「悪夢なら尚更自分の心の中に押し込んでおくものじゃないよ。
それに、一人で思い悩むより、誰かに話した方が案外スッキリするものさ」
「……でも、もしも話せば、実現しそうで……」
「それは実際に起こりえる夢だったのか?」
はっとしたように顔を上げたジェシカの目は大きく見開き、ホークアイを見つめた。
「あんなの、ありえないわ!!」
「だったら、話しても大丈夫だ」
ホークアイの笑顔にほだされたのか、ジェシカがやや躊躇った後に口を開く。
夢の内容を端的に纏めれば、こうだ。
フレイムカーンが操られ、イーグルが殺される。その下手人としてホークアイは追われ、ジェシカは一人壊れていくナバールを見ていることしか出来なかった。そして仇を討ったホークアイがナバールに帰ってきた時、彼の心は一人の女性に奪われており、そこにジェシカの居場所はなかった。
話していく内に落ち着いてきたのか、悪夢を語り終えた時には取り乱した痕跡は、赤く腫れた目元だけになっていた。

「ジェシカ、安心しろ。それは、ただの夢だ」
額と唇に軽く口付けてジェシカと目を合わせ、不安を取り除くように笑顔を貼り付けた。
現実に起こりえない”荒唐無稽な夢物語”だ。気に病む必要などないのに、彼女の語った夢はホークアイの心の奥底に染みこんで行く。
得体の知れぬ不安と焦燥から目を背けるように、ジェシカに言い聞かせると共に自分にも言い聞かせた。
それはただの”悪夢”であって、現実ではないのだと。
静かに横たえた妻の頬を優しく撫でて、よい夢をと囁いて、頬に軽く唇を落とす。
子供の頃と変わらぬ対応にジェシカが一瞬不満そうに顔を歪めるが、ホークアイの頬に手を添えて勢いよく引き寄せると、深く長い接吻をする。
やがて安心したように唇が離れ、あどけない微笑と共におやすみなさいと囁いて、目を閉ざした。

安らかな寝息を立て始めた妹に安堵して、風邪を引かないようにシーツを被せてやる。
長年兄妹のようだった許婚という関係に終止符が打たれ、婚姻を結んだのはつい先日のことだ。
けれど、一度たりとも名実共に”夫婦”になったことはない。
ジェシカを愛しているが、それは兄として妹への親愛の情であり、家族愛であって、恋愛感情ではないからだ。
子供の頃はジェシカと結婚する事を疑問に思うこともなく、大好きな彼女と夫婦になることで、フレイムカーンやイーグルとも本当の意味で家族になれると純粋に待ち望んでさえいた。けれど、成長するにつれて増していく忌避と罪悪、背徳の意識はホークアイに一生かかってもジェシカを”女”として愛せないと思い知らせるには十分すぎた。
それでも、ホークアイにとってジェシカは家族として深く愛している大切な妹だから、自分の些細な我が侭を押し通して彼女を悲しませるなど出来るはずもなかった。

ジェシカがもう悪夢に苛まれることなく、安らかな夢に抱かれるように、優しく手を握って素の眠りを守る。

顔に降り注ぐ眩い朝日に耐えかねて、意識が急速に覚醒する。
視界に飛び込んできた異国情緒ある天井に一瞬自分が何処にいるのかと混乱したが、隣で安らかな寝息を立てている妻の姿に、夢から現実へと引き戻された。
ここは、ホークアイが幼い頃から慣れ親しんでいたナバールの自室などでなく、ローラント国王夫妻の寝室だ。

窓から差し込む朝日を浴びて、妻の黄金の髪が煌く。
よくリースは女神のようだと讃えられるけれど、まさしく素の通りだと思う。
それで彼女は、崇拝の女神ではなく、生身の人間だ。
頑固な激情家で嫉妬深いけれど、とても魅力的な、愛してやまない女性。

今朝の夢の内容に、少し眉根を寄せる。
ジェシカとの結婚は美獣の介入がなければ、そしてリースと出会わなければ十分にありえたから、ただの夢だと割り切ることは出来なかった。
夢の内容を払うように頭を振り、髪を掻き揚げようと宙を切った手と、未だ残る癖に苦笑する。
ローラントに婿入りした時に、幼い頃から伸ばしていた髪を短く切り落としたのだが、長年の習慣というものは中々抜けないらしい。

朝日に誘われるように薄く瞼を開けた妻の視線を感じて、にっこりと笑う。
「おはよう、リース」
低く美しい声に、リースがバッと飛び起き、慌てたように手櫛で髪を整えてゆく。
変わらぬ日常の後継に笑い声を上げるホークアイにリースが頬を赤らめてキッと睨むと、ぷいと顔を背けた。
その分かりやすい態度がホークアイの笑いの琴線に触れていると薄々気づいていても。
いつも寝起きを見られる立場からすれば、彼女が起きる前に身支度を終えている夫に少なからず拗ねる気持ちがある。
ホークアイより早く起きて、彼より先に身支度を済ました上で寝起きを見る、というのは旅をしていた頃からの目標なのだが、今まで一度も叶ったことがない。
それでも、こうして長い人生を共に歩める事を考えれば、いつかはという楽観的な思いもあった。

「今朝見た夢なんだけど……」
「どんな夢ですか」
興味津々といった様子でホークアイに顔を近づけてくるリースに、
「……とてもリースには聞かせられない内容だよ」
艶やかな流し目を注ぐと、何を想像したのか次第に顔が赤らみ、茹蛸になる可愛い妻の機嫌を損なうのは敵わないと、笑うのを堪えた。
実際リースには絶対に話せない内容なので、嘘はついていない。
ただ、誤解させるように言っただけだ。

「その夢を見て、フレイムカーン様が俺に幸せになれといってくれたことを思い出してね」
――どんな苦難が待ち受けていようとも、必ず幸せになれ。 それが儂やイーグル。そしてお前の父母の最たる願いだ。
それは、折に触れて心の中で描く大切な言葉だ。
懐かしむホークアイの声に誘われるようにして、リースの脳裏にかの人物の姿が浮かび上がる。
ナバールの偉大なる指導者であり、エリオットが心酔し、ホークアイが尊敬してやまない人物であるが、リースの印象としては、常に苦虫を噛み締めているような険しく厳つい顔をしている人物というイメージが強い。
少し顔を顰めたリースに、彼女が何を考えているのか容易に察して、無理もないかとホークアイは思った。
荒くれ者を震え上がらせる強面であるし、特にリースの前では決して厳しい顔を崩さなかったから余計に苦手に感じてしまうだろう。

「今の俺の幸せは、リースがいて初めて叶うものなんだって、その事をよく思い知った夢さ」
大切なものを何一つとして失わない幸せもあるけれど、今のホークアイの手の中にある幸せは、様々な苦難の果てに掴み取ったものだから。
どちらかを選ぶことなど、出来なかった。

言い訳
色々と削った話です。

夢でのホークアイはジェシカとの結婚を、強く拒む理由もなければ、周囲の凄まじい圧力に屈したこともあって受け入れたという設定です。
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