未完

聖剣伝説 『女神の騎士』 番外編 未完 【箱庭の少年】5

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注意
『女神の騎士』本編より数十年前の、ナバールの話です。
この話はファルコン→←サンドアロー←フレイムカーンが前提です。


















「ファルコンの王位継承権を剥奪する」
あまりにも唐突な王命に群臣がどよめき、議場は騒然となる。
群臣を睥睨する王の鋭く激しい眼光に、臣下達は沈黙を以って恭順の意を示したが、その胸中は動乱の渦に飲まれていた。
何故、どうして。
国内を悪戯に乱して、支配国ヴァンドールに何と申し開きをするのか。
王女を廃嫡する理由は?
次の後継者はどうなる?
狼狽し、動揺と困惑が渾然と入り乱れていた者達の意識が、漸く理不尽に廃嫡された哀れな王女へと向かう。
恐る恐るその顔色を窺って、言葉を失った。
父王に自らの人生を全否定された絶望に染まり、度し難い裏切りに悲嘆と憤怒に心満ちていると思われていた王女は、微笑んでいた。
体内から溢れ出る気持ちを押し殺し、覆い隠しながらも醸し出る喜色までは誤魔化せていない。
唖然とする群臣など眼中にない王女は、王に深々と頭を下げた。

それは昨日のこと。
まだ朝日が昇るまで猶予がある時刻にまで遡る。

本に埋め尽くされた王族専用の書庫に、ファルコンはいつも圧倒されていた。
書物や巻物が所狭しと詰め込まれた本棚が続々と並び、尚溢れ出る書物は床に山脈を築いている。
本に飲まれた部屋の奥隅には申し訳程度の小さな机と椅子が置かれていた。
そこに、ナバール王がいる。

「………父上……」
振り返ったフレイムカーンの顔を見て、ファルコンが唖然とする。
今の父の纏う空気は常の烈火の如き激しく燃え盛るものではなく、そよ風のように優しく穏やかだった。
初めて見る姿に戸惑うファルコンに、フレイムカーンが座るように命じる。
その声だけは、よく知る父の声だったことに少し安堵して、椅子に腰掛けた。

「……このような刻限以内密な話とは。”彼”のことですね」
父と対立してから逢うことの叶わなかった恋しい少年の事を。
「……そうだ。 これから話すことは、お前と”あれ”の今後において重大な話だから、心して聞け」

「まず、サンドアローという名前自体、”あれ”の本名ではない。
名乗れないという”あれ”の名前と、死産したお前の兄につけようと思っていた名前を交換させたのだ」
「名前の交換……」
ナバールでは改名は珍しくなく、古来より人生の契機に応じて名前を変える風習が残っていた。
それ故頻繁に改名する者もいれば、生涯同じ名前の者もいる。
「……それでは、サンドアローに尋ねるわけにはいきませんね」
―では、彼の名前は?
そこまで父に尋ねるほど、彼女は愚かではなかった。
交換する前の名前を知りたいが、それはもうフレイムカーンのものだ。
そして、父の度を越した執心を思えば、誰にも”宝物”を絶対に教えないと断言できる。

「5千年前のナバール王には混血の庶子がいた。 しかし、問題はそこではない」
「……というと?」
「当時の王は愚鈍だった嫡子を処刑した後、混血の庶子を継嗣とした。それに反抗した者を徹底的に弾圧したという。
だから、儂は”あれ”が正統なる王族であると知ったからこそ、その身を守るため厳重に幽閉し、隔離した」
決してファルコンが疑うようないかがわしい理由ではないと釘を刺す。
「そして当時の王について詳細に調べていく中で、”あれ”がその王子と同一人物だとはどうしても思えなくなったのだ」
だからこそ、彼に王位をと思い立ったとも言える。
冷静に考えれば、正統なる王族に王位を返還するといっても純血至上主義が根深いナバールで、混血の王を玉座に据えることは不可能だと分かっていた。
けれどフレイムカーンには遠慮するばかりで距離を置くサンドアローが、忍び込むファルコンには心を許し、笑顔を見せている。
それを知ったとき、フレイムカーンの理性は業火で解かされ、あらぬ方向へ暴走してしまったのだ。
認めよう。浅ましく嫉妬に狂い、二人を引き離すこと以外考えられなかった愚かさを。

フレイムカーンが机上に置かれていた本の頁を恭しく捲ってゆく。
何の書物かと覗き込めば、家系図だ。それも悠久の時を栄えた歴史ある家の記録だった。
「これは正統なる王族の家系図だ」
フレイムカーンの言葉に敬虔な気持ちを抱き、捲られてゆく家系図を見ているうちに、父の手が止まった。
そして指し示されたある名前に驚く。
最後のナバール王と、三柱の一人であるシークが兄弟であったという事実は、ファルコンの言葉を奪うには十分すぎた。
動揺と困惑の渦中にある娘に、フレイムカーンがこれは殆ど知られていないことだが、と前置きしてから、
「三柱のシークは正統なる王族の一人だが、妖魔に転生している以上もう人間ではない。
だから、サンドアローが最後の一人なのだ」

家系図の最後に残された庶子の名前にそっと指先をあわせて、刻み込まれた術を呼び起こす。
宙に浮き上がった立体映像を見て、ファルコンが目を瞠り、眉間に皺を寄せた。
サンドアローが煌く宝石なら、庶子の王子は出来の悪い贋物だ。
顔立ちこそ似ているが、明らかに違う。その理由を考えて、王子の覇気のなさだと察する。
焦点の合わない虚ろな目が、全体的な印象を酷く曖昧にしていた。
親類だといわれれば納得するが、同一人物だといわれたら鼻で笑ってしまう。父があの二人を並べて同じ人間ではないと考えるのも当然だ。
―では、サンドアローは一体……。
ファルコンが顔を上げて、フレイムカーンを凝視する。
「例え”あれ”が当時の王が執心した王子でなくとも、正統なる王族の末裔であることは間違いない。
儂も当時の文献を調べたが、庶子の兄弟に纏わる記述は殆どなかった」
「……彼に尋ねなかったのですか?」
「それは無理だ。 サンドアローは5千年の時を越えた代償で記憶の多くが欠落しているのだぞ」
ファルコンの眉が僅かに上がる。
サンドアローは出自に纏わる話をしなかったが、時々失ったものを慈しむ懐古と共に昔の事を話していた。
なのにフレイムカーンには記憶が欠落していると通している。
―何を、そこまで隠す?
サンドアローが、誰にも知られたくない秘密。
ファルコンの意識が更に思索を深めようとするのを、フレイムカーンの声が遮った。
「極秘資料によると、王子に従兄弟がいたそうだが……それは女だから、関係ない」
「三柱に子供がいたのですか!?」
青天の霹靂とも言うべき父の言葉に仰天する娘を、フレイムカーンが制して黙らせる。
「混血の娘が一人いたそうだ。 母親は……わざわざ気にする事でもない。
当時のナバール王は執拗に娘を引き渡すように命じており、応じない弟に業を煮やして娘を浚ったという。
その直後だ。ヴァンドールがナバールに侵攻したのは」
現存する情報は極めて断片的で、幾つもの文献を辿り、残された欠片を繋ぎ合わせていった。
そうして明らかになった情報は、フレイムカーンの知る歴史とは大きく異なる史実だった。
娘を守るために妖魔に身を引き渡して母国に牙を向いたことは、一人の親として理解できる。しかし理解しても共感は出来ない。

「ここからが重大な話なのだが……。 ファルコン、先日お前が話した提案は……」
一拍、呼吸を置く。
身を焦がす嫉妬は根深く渦巻き、フレイムカーンの心を翻弄するが、果てない情念に呑まれなかった。
――どうか、幸せに。 幸せであれ――
ファルコンとサンドアロー。フレイムカーンにとって、かけがえのない二人が幸せで生きること。
それが叶うのならば、炎のように荒れ狂う感情など幾らでも鎮められる。
「余計な感情を差し置き、冷静に鑑みれば、見所があると判断した」
二人を通して正統なる王の血を取り込む。それは代行者に過ぎない現王家の宿願を叶える唯一無二の方法だ。
「だが、それを実現するか否かは、お前の決断次第だ」
臣下と民衆は王の伴侶に混血を迎える事を決して許さず、強行すれば双方の間に重大な亀裂を生む。
ならば残された手段はファルコンが王位継承権を放棄する”降嫁”だけだ。
その子供達に王族を娶らせてゆき、十分に血の浄化を行ったところで、二つの家を統合させる。
横槍を入れる連中を黙らせ、”王”を敬い、崇めるに十分な代となるまで…百代かけての浄化だ。
「ファルコン。サンドアローと共に行きたいのならば、王位を捨てろ」
父王の言葉にファルコンが息をのみ、唇を震わせた。
王位を捨てる。それは彼女にとって自分の人生を全否定することに他ならない。
それが唯一の方法だとわかる。わかってはいるが……。
顔を伏せたまま黙る娘に、フレイムカーンは机を指で叩いて、鋭い眼光で娘を睨み据える。
「まず、これだけは呑みこんでもらおう。 王位とサンドアローを同時に得ることは不可能だと。
それでも尚二兎追えば、両方を失うことになる。 だからこそ、ファルコン。お前の覚悟を知りたい」
「…………覚悟………」
天秤にかけられたものの重みに、ファルコンは苦悩を滲ませる。
王位と思慕を両立できないのならば、片方を捨てるしかない。そして、王女である以上、王位を選ぶ義務と責任がある。だが……
初めて出会ってからのサンドアローの表情、仕草、声。どんな些細な事でも瞼を閉ざせば鮮明に蘇る。
……駄目だ。どうしても、彼の事を諦められない。
「……サンドアローはお前の事を慕っているそうだ」
「え? 今、何と?」
苦虫を潰した顔で吐き捨てるフレイムカーンとは対照的に、ファルコンの頬は紅潮し、鼓動が高まった。

「お前が王位を選ぶのならば、近日中に有力貴族と結婚させる。 勿論、二度とサンドアローと会うことは許さん。
そして術で”あれ”に纏わるすべての記憶を消す。 それがせめてもの親心だ」
彼の事を忘れて、別の男と一生を共にする。それを考えたとき、湧き上がったのは吐き気を催す嫌悪と怒り。
ファルコンにとって、それは例え王位と引き換えにしても到底受け入れられなかった。
「サンドアローを選ぶのならば、今後一切政と関わるな」
何故、こんなにも心奪われたのか。
せめて懸想したのが純血のナバール人ならばここまで悩み、苦しまずにいられたのに。

沈痛に黙考する娘をフレイムカーンは観察する。
もし、ファルコンが即断でサンドアローと答えていたら、フレイムカーンは彼女を軽蔑した。
もし、王位を選べば、ファルコンの記憶を奪った上で、正統なる王族の血を現王家に取り込む事を諦めなければならない。
フレイムカーンにとって、執心するサンドアローとまぐわうことを許せる唯一の女が、ファルコンだけだからだ。
亡き愛妻の血を引く娘の幸せを願うことが、フレイムカーンに巣食う嫉妬の暴走を抑えられる。

未だ答えを出せない娘に、フレイムカーンが畳み掛ける。
「ファルコン、これが最後だ。
王位か、サンドアローか。 お前はどちらを選び取る」
少しの沈黙の後、ファルコンがゆっくりと面を上げる。
先程までの苦悩が嘘のような、澄んだ決意に漲っていた。
「…………父上。王位を捨てる私を、お許しください」
「それが答えか」
「はい」
「後悔しても、引き換えせぬぞ」
「このファルコンに、二言はございません」
娘の力強い宣告に、王は誇らしげに笑った。
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