未完

聖剣伝説 『女神の騎士』 番外編 未完 【王女の略奪】2

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注意
『女神の騎士』本編より数十年前の、ローラントとナバールの話です。(ローラント系列の話なので、目次ではローラントの項目になります)
この話はジョスター・ミネルバ←バウチャーが前提です。

裏要素の強い話です。
一時は裏部屋にと考えていたものを色々と直して、表における内容にしました。
気分を害されるような内容を含んでいるかもしれないので、それでもOKの方のみお進み下さい。







































どんよりと曇った底冷えのする日。
ジョスターはバルコニーの手すりに凭れ掛かりながら、流行く雲を仰ぎ見ていた。
ミネルバがそっとジョスターの側に行こうとしたが、哀愁漂う気配に思わず足を止める。
斜め後ろから見る恋人の顔は、ミネルバの知らない人間の顔だった。
端整な顔には憂いや悩み、悲しみが深く刻まれて、陽気で大らかだった頃の面影は微塵もない。
「ジョスター」
躊躇いがちに声をかけるが、返事はない。
社交的だったジョスターが誰も寄せ付けず、他者を拒絶する姿など、ミネルバには見ていられなかった。
静かに嘆くジョスターを慰めようと手を重ねた時。何処かで泡の割れる音が聞こえた。

体の内側から凍える寒気に、眠りから引き離されたミネルバがうっすらと目を開いた。
残酷な現実を思い知らされて、呪詛を孕んだ重い吐息をつく。
視界に入る光景は慣れ親しんだローラントのものではなく、幾日も地獄を味合わされている場所だった。
――どうして、こんなことに――
間もなく結婚する筈だったミネルバの人生が狂ったのは、あの日。上級国の者が権力に物言わせて、ミネルバを穢したあの時からだ。
母ガルラの言うとおり、ただの悪夢であったらどんなによかったか。
恋人に知られる前に消えてしまいたいと眠れぬ夜で願ったそれは、最悪の形で叶えられた。

目を閉ざし、溢れ出る涙を押し止める。
瞼の裏側に生涯の伴侶となるはずだった人の姿が鮮明に浮き出た。
―ジョスター。
理不尽に引き裂かれた恋人の名前を、胸中で呼ぶ。
ローラントでの日々、家族や同胞。そして恋焦がれた人との優しくも、愛おしい思い出。
―帰りたい。
その一心が、蜘蛛の糸のように頼りなくとも、ミネルバの心を辛うじて繋ぎとめていた。

弟の部屋に立ち入ったオウルビークスの目に飛び込んできたのは四肢を壁と鎖で繋がれ、力なく頭垂れているミネルバだった。
娘の服は最早本来の役割を果たしておらず、露わになった肌には赤いみみずばれや切り傷等の、痛々しい痕が見える。
すぐ側にまで来ても反応を示さない娘を前にして、陵辱の痕跡が色濃いその姿を哀れに思い、大刀に手をかけた。
刀を鞘から抜き放つ音に、今まで項垂れていたミネルバの指先が僅かに動いた。
顔を上げようとしたミネルバの首筋に大刀の煌く刃が当てられる。
少しでも身動きをとれば命を絶たれるとわかっても、ミネルバは臆することなく微動たりともしなかった。
中々、肝の据わった娘だと感心する。

「楽になりたいか?」
大刀を突きつけたまま問うオウルビークスを、ミネルバが見上げた。
娘の目は奴隷ではなく、王女の目だ。どんなに絶望的な状況であっても、希望を捨てていない。その証拠が目に宿る光だ。
面白いと思うと、何が娘の自我を支えているのかを知りたくなった。
オウルビークスが、初めて他国人に興味を抱いたのだ。
切っ先を顎に当て、クイッとミネルバの顔を上げさせる。
美しい娘だと、素直に認める。弟が執着するのも頷ける器量よしだ。
だが、どんなに美しくとも他国人である以上、オウルビークスにとっては欲望の対象外だった。
「今、命を絶てばこれから続く慰み者としての屈辱を終わらせられるぞ」
このまま生かしておけば娘の目から光が消えて、生きた屍になるのは目に見えている。
ならば、そうなる前に殺してやるのが、慈悲というものだ。
「…………死にたくない」
「何故だ」
「私は、必ずローラントへ帰る」
毅然と答えたミネルバの言葉に、オウルビークスは耳を疑った。
一国の王女とはいえ、下民が奴隷になった者の末路を知らぬはずがない。
「おい、何を言っているのかわかっているのか?
これ以上苦しまないように、死なせてやろうというのだ。 それを」
「私を」
オウルビークスの言葉に、ミネルバが強く重ねた。
「……私を、このような目に遭わせておきながら、殺すのが慈悲?」
凍えるくらいに冷たく暗い目で問うミネルバに、オウルビークスは臆することなく頷く。

ミネルバは堰を切ったように肩を揺らす。
何事かと訝しむオウルビークスの目の前で、ミネルバは声を上げて笑った。
手足を縛られ、肌も露わな娘が、大声で笑っている。
背筋が寒くなる光景に、豪胆なオウルビークスでさえもゾッとした。
壊れかけた娘に止めを刺すべきだという考えが、頭の片隅に過ぎる。
それを見抜いたようなタイミングで、ミネルバは生きたいとハッキリ言った。
「帰りたい。 生きて、ローラントに帰る」
「それは不可能だと分かっているだろう?」
「なるべく刺激しないように穏やかな声で言い聞かせるが、ミネルバはそれでも、と続けた。
「こんな所で死にたくない。
ナバールで死ねば、私の魂は砂漠に囚われ、風に帰れないだろう。
だから、私が死ぬ場所は唯一ローラントだけだ」

「もし、本当に慈悲というものがあるのならば、それは私を故郷に帰すことだ」
ミネルバの気迫に、オウルビークスが少し言葉を詰まらせる。
いくら王族とはいえ、下民ごときが上民にここまで対等な口を利くことにも驚かされた、というのもある。
「それは、無理だ」
奴隷の返還などありえない。
また、ミネルバは王侯貴族を人身売買の対象としてはならぬという、支配国の定めた条例違反の確固たる証拠だ。
もしこの事がヴァンドールに知られるようなことがあれば、上級国潰しに躍起になる支配国へ格好の餌を見せびらかせることになる。
ナバールとグランスの安泰のためには、ミネルバをローラントに帰すことなどあってはならないのだ。

意気揚々と自室へ戻ってくる弟の気配に、オウルビークスは刀を鞘に納める。
腰を下ろしてミネルバの耳元に間もなくバウチャーが来ると囁けば、娘は哀れなまでに体を強張らせた。
見る見るうちに全身から血の気が引き、恐怖と嫌悪に震え、鳥肌を立てるミネルバを見てから、立ち上がる。
ローラントへ帰るのだというその心がいつまで保つか、と冷ややかに考えていると、扉が開いた。

「兄上」
すれ違うオウルビークスの背に、バウチャーが声をかける。
「もし、あれが気に入られたようならば、兄上も使いますか?」
弟の愚かな誘いに、オウルビークスは蔑みを滲ませた舌打ちをして、扉を閉めた。
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