未完

聖剣伝説3 お題 未完 『delicate affection』5

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注意
オリジナル要素があります。
3は2の遠い未来という設定です。
















光の城の地下深く。
暗闇に閉ざされた牢獄へと唯一繋がる回廊に、久しく絶えていた足音が響く。
足音の主は、美しい女だった。
艶やかな長い髪と凛とした眼差し、花のような唇。女とはかくもあるべきといわんばかりの絶世の美女でありながら、背筋の通った均整の取れた肢体からは威厳すら感じさせた。
異国情緒溢れる衣服に身を包むこの女の正体は、人間などではなく、妖魔という人ならざる存在だ。

「美獣。お前の記憶から垣間見えたあの存在……。もしやタナトスではないのか?」
「タナトス? 何故タナトスがあの子供を……」
ここまで言ってから、その答えに気づいた。
闇の血族のタナトスは、同族の体に乗り移ることによって一万年もの歳月を生きながらえてきた。そのタナトスに追われていたということは、あの子供は闇の血族だったに違いない。
「そう、タナトスに追われていたくらいだから、まず間違いないだろう。
美獣。お前の前身が魔界に転送された後、タナトスはお前の主を捕まえて、新しい体に乗り移ったのだ」
酷薄な魔王の言葉に、美獣の胸に激しい痛みが走り、あっという間に怒りと憎しみに変わる。
あの子供が、言葉にするのも憚られるおぞましい最期を迎えたなど。例え事実であっても認めたくなかった。

「お前にとってはとても代わりにはならぬだろうが、今度こそ守ってみないか?」
恩義ある主と同じ闇の血族の子供を、その手で。

―……闇の血族、か。
美獣は妖魔に転生する前の事を殆ど覚えていない。ただ唯一残っていたのは”誰か”への狂おしいまでに胸を焦がす敬慕と、忠義だけだった。
漠然とした燃えカスだけが残っていた所に吹き込まれた熱は、美獣の凍った心を溶かし、煮えたぎらせる。
守りたかったという叶わぬ主の対象は、緩やかにこれから会う最後の闇の血族へと向けられていた。

闇の血族は、只人から産まれる。このことからよく誤解されているが、闇の血族として生を受ける者は突然変異などではなく、純粋な血筋による先祖返りだ。
その血を一滴でも引いていれば資格者であり、覚醒した者は闇の血族として生まれた時から比類なき魔力を有する。

タナトスやグラン・クロワが闇の血族の代表格のように扱われているが、歴史の大河の中で飛沫のように消え去った名もなき人々の方が遥かに多い。そもそも、人間から受け入れられずに、同胞もなく、隠れ住む者達だから、歴史に名を残すこと自体異例と言ってもいい。

件の王子は生まれた時から地下深くに幽閉され、それ以来生存確認の人間の往来を除いては、他者との接触はないという。
王子はその身に宿る膨大な魔力を使って直接マナを取り込み、襲い掛かってくる雑魚妖魔を常食することによって、生き延びている。
その報告を耳にした時、美獣は唖然とし、魔王は嗤っていた。
まだ妖魔に転生していないというのに、既に人間ではなく妖魔に等しい王子の様に、何かの冗談かと疑ったものだ。

今、この国では天変地異が相次ぎ、飢饉疫病が広く蔓延し、家畜は倒れ、屍は塔のように積み重なっていた。
そんな状況下で滅びの予言が下された王子を城の足元に置いているのは、国家安寧のために災いや悪しきものを吸い取る札として利用するためだという。
闇の血族は先天的に強大な魔力を宿している。”生贄”として”器”としてこれ以上ない逸材だ。
―愚かな。
災厄の象徴を用いて、災厄を封じ込め、除去する。真に人間らしく、浅はかで愚かな考えだ。

核を貫かれ、絶命した妖魔の体が塵となり、霧散する。
妖魔の手から解放され、、膝を突いた少年が激しく咳き込む。
美獣が少年を見下ろすと、少年は青い顔で彼女を見上げていた。
その姿に、これが最後の闇の血族かと、少なからず失望する。
彼女が期待していたのは……。
冷静な目で少年の姿を観察して、より落胆を深めた。
人から隔絶された暮らしをしているから、ある程度は覚悟していたが、これはあまりにも酷い。唯一の救いは、その目の中に知性の光が宿っていることくらいだ。
―あのお方は、どうだっただろう……?
遥か古の記憶を探ろうとするが、雲を掴む様な望みのない試みを早々に諦めた。
前身だった頃の主をこの少年との比較対象にしようにも、その姿も声も、何一つ思い出せなかった。
そもそも比較すること自体無意味であり、双方への侮辱だと、自らに言い聞かせる。
「お前には、自分が何者かを知る前に教育が必要だ」
少年が纏う襤褸布の重なりに視線を落とす。
幾枚も布を体に巻きつけるように纏っているその皮から僅かに漂う妖力から、それが妖魔の皮を剥ぎ取って作られたものだというのはすぐに分かった。
美獣が呪文を唱えると、一言ごとに子供の纏っていた襤褸が変化してゆき、全身を覆う服へと姿を変えた。
「……あなた、は……?」
少年の発した音に美獣がちょっと驚いた後に、感嘆の息を吐く。
唸り声、もしくは呻き声のように言葉になっておらず、まるで獣の鳴き声だ。
それでも少年の意思が言葉として変換されて伝わるのは精神感応の力によるものだろう。まだ幼いのに、ここまで強力なテレパシーを自然に行えるとは。
流石は闇の血族だと感心すると共に、少年への評価を少し改めた。
美獣が少年に手を差し伸べる。
神秘的な威厳を漂わせる美獣に従う形で、少年が恐る恐る彼女の繊手を手に取り、立ち上がる。
少年が美獣の目を見つめ、美獣が真っ直ぐ見返した。
吸い込まれそうな瞳で見られて、少年はわけもわからなかったが、それでも今まで出会った事のない”存在”に心惹かれてゆく。
「私は美獣。 これからお前を教え、守る者だ」
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