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「火星物語」
火星物語 小説

火星物語 小説 『必要不可欠』

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時期的に18話だけど、フォボスとセイラとタローボーしか出てきません。
あくまでも、もし何回もクエスの時代に行けたらという前提の話です。
(ゲームではクエスの時代にいけるのは三回だけです。アンサーの時代は二回しか行けません)















チェーンウォッチが眩い光を放つ。それは、過去への扉が開かれらという報せ。
この不思議な力でフォボスは現代から過去へと送り出される。その間、一緒に行くことも、彼の安否を知る術もないまま、無事に帰ってくるまで待ち続けるしかない。
時空転移をしている間でも、現代と過去でも同じ時間が流れているため、彼が帰ってくるまでは何日も会えない日々が続く。もし流れる時間が異なり、彼が”すぐ”に帰ってこられたらどんなにいいことか。
このまま彼をこの時代に引き留めたい衝動に駆られるが、それをグッと堪える。
セイラがポケットからチェーンウォッチを取り出してフォボスに差し出す。
一瞬顔を伏せるが、昂然と顔を上げ、力強い目でフォボスを見つめる。
「さぁ、フォボスさん。 どうぞ」

過去と現在を繋ぐ橋渡しであるチェーンウオッチを見つめる。
時を渡れるのはフォボスだけ。セイラや他の者が触れても、彼らは過去には行けない。
何故フォボスだけが時空転移できるのか、そもそもこれは何なのか。その答えはわからない。ただ、彼に分かっていることはチェーンウォッチが光り輝くとき、過去で彼を必要としている人間がいるということだ。
そしてその相手はクエス達やアンサー達といったフォボスの友人達だ。

前後の会話を思い返す。
―この場合、クエスの時代だよな…。 ん?あぁ!!
心の叫びを口に出していたのか、セイラとタローボーが目を丸くしてフォボスを見ていた。
その視線に気まずさと恥ずかしさがこみ上げてくる。
「ちょっと待って!!今、荷物を持ってくるから…それまで、これをそのまま保っていて!!」
突然の無茶な頼みに、セイラの思考が一瞬停止した。その僅かな隙を与えたのが不味かった。
捲くし立てたフォボスが、全速力でどこかに走り去っていく。12歳にしてはやけに足が速かったが、それは日頃の訓練の賜物。
セイラとタローボーが唖然と見送った後、タローボーが口を開く。
「……ふぉぼす、何ヲ忘レタンダ?イツモ色ンナモノヲ持チ歩イテルノニ」
身の丈サイズのスパナを愛用し、主要な武器にしているだけでなく、巨大ハンマーや大きなナイフとフォーク。かなり頑丈なグラブに電圧不明の強力なスタンガンを常に持ち歩いていた。最近では改造銃まで持ち歩いている。
色々と物騒な事件に巻き込まれるから、これらの道具は必要だというのがフォボスの言い分だ。
「…さぁ…?」
「…マタ新シイ”道具”ヲ持ッテクルツモリナノカ…?」
以前フォボスが自作の機械を持っていこうとした時があった。しかし過去へ行く前に爆発して全員瀕死になった前例が二人の脳裏に鮮明に蘇る。
何処か不安そうな面持ちになるタローボーに、セイラが安心させるように笑顔で話しかける。
「大丈夫です!フォボスさんもあれから機械氏としてのスキルを上げましたから、爆発はさせませんよ」
タローボーに語りかけているが、その実自分に言い聞かせていた。
ふと、違和感を覚えてセイラがチェーンウォッチに視線を落とす。
先ほどの眩い光と比べて、明らかに光が弱くなっており、今にも消えそうな弱々しい光だった。
―このまま光が消えてしまったら、タイムスリップが出来なくなってしまう…。
確証はないが、彼女はそう確信していた。
フォボスに過去に行って欲しくない。けれど遥か過去であっても、憧れのクエスを助けて欲しい。
徐々に儚くなっていく光に、不安げな面持ちを浮かべて、フォボスが走り去った方向を見つめる。
―フォボスさん。何をしているのか分りませんが、早く帰ってきてください。
今の状況を心のどこかで喜んでいる事を封じ込めて、一刻も早くフォボスが戻ってくる事を願う。

蜻蛉のごとく儚い光を辛うじて発していたチェーンウォッチの光が、徐々に強まっていく。それはセイラの待ち人が近付いている証。
セイラが彼の姿を求めて、周囲を見回し、彼の名を呼ぶ。

走ってきたフォボスの姿に、セイラとタローボーが驚きのあまり目を丸くする。
大きなリュックを背負い、幾つものバッグを肩や肘に提げ、見るからに重そうな姿だった。
そうして彼が彼女達の元まで着いた時には疲労困憊で、肩で苦しそうに息をしていた。
バッグを幾つか下ろして、大きく深呼吸し呼吸を整えると、流れ落ちると汗を手の甲で拭う。
「……お待たせ」
あまりのインパクトの強さに喋ることを忘れていたセイラが、我に返る。
「フォボスさん! その荷物なんですか?」
「水と食料だよ」
「ソンナ物ヲ持ッテイッテ、ドウスルツモリダ?」
タローボーの問いに、セイラが何度も頷く。
水や食料など現地調達すればすむ話だというのがセイラ達の考えであり、水の豊かな世界で暮らす人間の一般的な考えだ。
だが、度々水のない時代に通っていたフォボスの考えは違った。
「過去には水が殆どないから、色々と必要なんだよ。 それに皆料理が全く作れないから、加工品と保存食は必要なんだ」
400年前、火星の地形や生態系を大きく変えたという超特大地震により、地下に蓄えられていた水が全て地上に溢れ出した。それ以前の火星は水が極端に少なく、砂と荒野しかない乾ききった星だった。
僅かな水を求めて戦争が繰り返されていた時代。水が豊かと富の象徴とされていた時代。水が最も貴重とされていた時代に行くのだから、様々な用途から多量の水が必要になる。
それまでフォボスを観察していたタローボーがおもむろに告げる。
「…推定重量50キロ…。 ふぉぼす、ヨクソンナ重イモノガ持テルナ」
感嘆の思いを滲ませながらタローボーが言葉を紡ぐ。
「……そんな大荷物をずっとフォボスさん一人で持ち歩くつもりですか?」
驚きのあまり言葉を失っていたセイラが、やや時間を置いて話す。
「大丈夫だよ。クエスとサスケに手伝ってもらうから」
「クエス様にそんなことをさせるんですか!?」
セイラが眉をひそめて、批難の声を上げる。
彼女にとって絶対的なアイドルのクエスが、荷物持ち!!
いくらどんな事情があっても、これは許せない。
セイラの憤りの前にフォボスの目に翳りが宿り、顔を伏せる。
「……僕だって、彼らに荷物持ちをさせるのは嫌だよ。 でもこればかりは仕方ないんだ」
水は必要だ。
三人とも筆舌を尽くしがたいほど料理下手で、”一名”は生物の許容範囲内の料理すら作れない。だから加工品と保存食は必要不可欠だ。
フォボスの言い分に、セイラが本心とは裏腹に納得してしまう。

フォボスが地面に下ろしていた荷物を抱えなおして、チェーンウォッチに触れる。直後、フォボスを囲むように光の壁が現れ、彼の姿が消える。
それを見届けたセイラがポツリと小さく呟く。
「……せめてフォボスさんが人並みの料理を作ることが出来たら、クエス様の負担も減るのに…」
フォボスが持っていた多量の荷物を思い浮かべる。例え彼が料理を作れても、持っていく水の量が変わらないが、半分以上を占めていた保存食はなくなる。
…フォボスに料理を教える。…言うだけなら容易いが、それは何よりも難しい。
彼は手先も器用で、記憶力もいいので、料理を覚えようと思えば出来るはずだ。
―でも……
ある光景が鮮明に蘇り、セイラの顔色が蒼白になり、大きな溜息を漏らす。
フォボスの料理の腕は壊滅的で、無害の食材から地獄の殺人料理が出来るほどだ。
彼の料理を始めて見たときは、目の前の物体が”食材から作られた料理”とは到底信じられなかった。その衝撃はこの数ヶ月間の様々な出来事に埋もれることなく、今でも鮮明に残り続けている。
よくあれで両親を亡くしてからの数年生活できたなぁと思ったが、外食やアービンやランプーに作ってもらっていたというのを聞いて、納得した。
セイラが思案に明け暮れていると、タローボーがセイラを見上げる。
「……せいら。アノふぉぼすニ料理ヲ教エルノカ?」
無理だ、不可能だという思いがヒシヒシと伝わる。
タローボーの問いにセイラは何一つとして言葉を返せなかった。
セイラだって、衝撃の料理を前にして何もしなかったわけでない。徹底して料理の基礎から応用まで丁寧に教えた。その甲斐あって手際だけを見れば完璧だ。だが、正しい料理法と食材を用いて、正しい手順で作っているにも関わらず、未だに殺人料理のままだった。
最近ではフォボスも意地になって料理の勉強と練習をしているが、その結果は凄惨を極めていた。毒見味見役となる人々の心身に深い傷を負わせ続けている。
フォボスを殺人シェフから脱却させる。
セイラにもそれがどんなに困難極まるかわかっている。だが人間にはやらなければならないときがある…のだが……。
彼女の脳裏に、初めてフォボスの作った”料理”を前にした時の記憶が甦る。食材や料理の概念を根底から破壊しつくした、思い出すのも忌まわしい負の記憶だ。
すぐに思考を別の方向に持っていこうとするが、頭の中では映像や音声、感情…。なにやら効果音らしき物々しい音楽も伴って再生されてゆく。
せっかく作ったのだから、食べろとばかりに強要するフォボスの強い押しに負けたアービンがそれを口にした…。直後アービンと一緒に食べさせられたアロマン獣が痙攣を起こし、泡を吹き、瞳孔が開きかかったところまで思い出された。その先の記憶を振り払うように、勢いよく頭を振るう。
―食べ物なのに……。何であんな劇薬が出来るの!?
幾ら考えてもヒントすら出ない謎が彼女を覆いつくし、頭の中で絶叫する。

「せいら、せいら!!」
必死に呼びかける声に、セイラがハッと我に返り、声の主を見下ろす。
「大丈夫カ?サッキカラ呼ンデモ全ク反応ナカッタゾ」
「…タローボー……」
「無理スルナ。ふぉぼすノ、トンデモナイ殺人しぇふハ治シヨウガナイゾ」
「……そうはいきませんよ……。このままでは多くの人々が犠牲になるし、何よりクエス様の負担を減らすためにはフォボスさんの料理を少しでも改善させなきゃならないんです」
だが、レシピ通りに作っていても、何故か出来上がるのは殺人料理。それは今のセイラの究極の謎だ。
例え下手でもいい!せめて生物の許容範囲内にあればいいと妥協しているが、フォボスはそれ以前の段階だった。
「何モ無理ニ教エナクテモ、せいらガ作レバイイジャナイカ」
タローボーからすれば何気ない言葉だ。
作れない人間に無理に教えようとしても無理なのだし、それなら作れる人間が作ればいい。
そう考えれば、遥かに楽なのだろう。けれど…
「私もこれからずーっと料理を作りたくないですよ」
「ソウカ?楽シミナガラ作ッテルンジャナカッタノカ?」
「料理は趣味ですから楽しいですけど、やっぱりたまには手伝って欲しいし、手料理だって食べたいんです。 それに初めから炊事だけ私の担当だって決まっているのも……」
それはそれで嫌だ。
黙り込んで色々と考えに耽るセイラを眺めていたタローボーがにんまりと笑う。
「……せいら。マルデ結婚ヲ前提ニシテイルヨウナ物言イダゾ」
「え?」
一瞬タローボーが何を言ったのかわからなかったが、やや遅れて頭がその言葉の意味を理解する。
途端、全身が赤く染まっていく。
「な…何言ってるんですか!?タローボー!! 私はただ今後のフォボスさんの生活を心配しているだけで、け、結婚とか夫婦だなんて…そんなつもりはありませんよ!!」
勢いよく捲くし立てるが、顔を紅潮させたその言葉には全く説得力はなかった。


2011/4/25 小説へ移行
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