「火星物語」
火星物語 小説

火星物語 小説 『恐怖』

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27話『風のいない宇宙』にて
アスラに向かうまでの間







一切明かりのない暗闇の虚空を見つめていると、まるで自分自身が闇の中に飲み込まれそうな気がする。
これ以上暗闇に包まれた空間を見ていられずに、目を逸らす。
―フォボス。よく聞いてください!!私たちは火星の風。宇宙空間に出ることは出来ないのです。
大気圏を出る寸前の藍色の風の元場が鮮明に蘇る。
―この暗い世界では、風を…使うことが出来ない。
その事実はフォボスの心に重くのしかかり、彼の不安をより一層深める。
今まで身近に纏っていた”風”の気配が、一切感じられない恐怖にフォボスの身体が震える。
不安と恐怖。それは彼が久しく感じていなかった感情だ。
セイラ達の手前、自分の感情を悟られないように、意思の力を総動員させて体の震えを抑えていた
フォボスの様子に気づかずに、物珍しそうに宇宙空間を眺めるタローボーと、好奇心に満ちた瞳で、外やコクピット内を観察しているセイラの姿に苦笑しつつも安心した。
彼らには絶対に知られたくなかった。
…自分が怯えているなんて。

フォボスが再び宇宙空間に視線を向ける。
―ここでは風が使えない……
彼の脳裏に今まで風の助けを受けていた事が思い起こされる。今まで生き延びられたのは、風がいたからだ。
その風の手助けをなくしたら、ここにいるのは”伝説の風使い”などでない。戦い方を知っているだけの”少年”だ。
―風が使えなくても大丈夫なのか…? 生き延びられるのか?
自問自答をするフォボスの脳裏に蘇るものは、今でも生々しく心身に焼きついているクエスの時代での戦場の記憶だ。
自分の身を守るために、初めて人を殺した感覚と、生きるか死ぬかという極限状態で戦ってきたこと。
恐怖と共に、生への執着が湧き上がってくる。だが、風を使えない今は、武器と防具を奪われ、丸腰で戦場に立っているようなものだ。
そんな状況に立たされた苛立ちと、無力な自分への怒りも湧き上がる。
―こんな事では、何かあった時に誰も守れない…!
拳を強く握り締める。
―無力なのは…弱いのは、嫌だ。守られてばかりで、最後に裏切られるのは…もう……
フォボスの心に、戦う術と生き延びる術を教えてくれた、兄姉と慕った二人の姿が浮かび上がるが、それを振り払う。

緊張した面持ちでセイラを見つめる。
セイラは宇宙空間を皆方、タローボーと話をしていた。
楽しそうに笑うセイラの姿に、僅かに羨みながら、安堵する。
セイラにはいつまでも笑っていて欲しい。戦いの恐怖も”敵”の血も、全て自分が引き受ける。
クエスやサスケがフォボスを守ってくれたように、フォボスはセイラを守りたかった。だからこそ、”守れない”状況に立たせたくない。
―こんな状態じゃ…セイラを…誰も守れない。
見つめていたセイラの姿と、彼が殺した人間の姿が重なり、思わず息を呑む。
クエスの時代で、いやでも身に着いてしまった”死のイメージ”と、セイラや自分が重なっていく。
強ければ生き、弱ければ死ぬ。それはフォボスが戦場で得た実体験だ。
”風”という強大な戦力をなくした今、自分は”強い”といえるのか?
久し振りに死神の釜が見えて、それが首筋をそっと撫でた…気がした。
―嫌だ!!
叫び出して、不安と恐怖を皆に曝け出して、救いを求めたい衝動に駆られるが、それをぐっと堪える。
主要戦力である彼がそんな事をすれば、他の者達を不安にさせるだけだ。
フォボスの師匠ともいえる二人は常に自信に満ちていたから、彼はアショカとの戦いという絶望的な状況でも安心することができた。
しかし彼らはもういない。そしてフォボスは、今は”守る”立場だ。だから不安や恐怖を表に出すことは出来ない。気丈にどんな不利な状況でも、自信のある言動をとり、仲間を安心させなければならない。
だが、幾ら厳重に封じ込めていたとしても、本当は……
―怖い、怖い……!
フォボスが身体の震えを少しでも抑えようと、相棒とも言える身の丈ほどのスパナを握り締める。
強く、固く…。心中に渦巻く感情を振り払うように、握り締める。

シルビーがアスラのある座標を設定して、オートパイロットにする。
緊張から解放されて、大きく息を吐いて肩を慣らす。

敵として戦ってきた者達に協力している今の自分に、因果なものを感じる。
自分の意思で行動しているが、それも何者かに操られているような気がしてならない。
―…これもアショカ神のお導きか…。
浮かび上がった考えに自嘲する。
―アショカの怨敵である風使いを、アショカ神が守っているとは思えなかった。
これ以上この問題について考えても意味がないと割り切る。

シルビーが何気なくセイラを見る。
子供らしく未知の世界への好奇心に溢れた瞳をしていた。シルビーがその”子供らしい”姿に微笑した後、宇宙空間を眺めるフォボスに視線を向ける。
一見普段の彼と何も変わらない印象を受ける。しかし目を凝らして観察してみれば、彼の全身が強張っており、何処か不安げな面持ちだった。
その瞳に宿る怯えに、シルビーが目を細める。
幾ら誤魔化そうとしても、目の中に宿る感情までは、特殊な訓練を受けていない12歳の子供には、完全に押さえつけることは困難だ。
伝説の風使いとはいえ、ここでは風も使えない、ただの少年なのだから、怯えて当然。…フォボスを知らなければそう結論付けていた。
だが、それは違う。この少年はそんな事で怯えるような人間でない。
幾度か戦ってみて分かったが、彼は12歳の少年にしては戦い慣れている。…いや”殺し慣れている”という表現が正しい。
的確に相手の弱点と急所を見抜き、攻め、尚且つ自分の身を守り抜く事など大人でも難しい。なのにこの少年は、それが染み付いている。
会うたびに血の臭いと戦場の影を、より強く纏っていく少年。
初めて会ったときは、本当にただの子供だった。だが今では自分や仲間の身に危険が迫れば、何の躊躇いもなく人を殺せる。そんな戦士特有の冷酷さを身につけていた。
但し本人にその自覚はないから、否定するだろう。
―いったい何なのだ…?風使い…お前は何処でそんな影を纏ってくる?
大規模な戦争などない現代では、こんなに色濃い戦場のにおいを纏う事など、まずない。それなのに……
彼の身に何が起きているのかを聞いてみようと、口を開きかける。だが、フォボスの顔を見てその言葉を飲み込んだ。
今目の前にいるのは戦士などではない。怯えて必死に押し隠そうとしている、ただの頑固な少年だ。
自分の役割をしっかりと理解して、不安を露わにしないのは立派な心掛けだが、心がそれについていけていない。

大きな戦力を奪われ、強大な敵が待ち受ける未知の世界に戦いに向かう。
そんな状況に立たされたら怯えて当然だ。しかし、ここまで怯えているようなら、一言声をかけてやるべきか。
フォボスに怯えて当然なのだと、そして彼が怯えている事をセイラたちに知らせなければ。
押し隠していても空気は伝染してゆく。何が起きるかわからないから、それは防がなければならない。
そう結論付けてフォボスに声をかける。
「怯えているのか風使い? お前らしくないぞ」
その言葉にフォボスが目を見開き、セイラとタローボーが驚いたようにフォボスを見る。
フォボスが非難するようにシルビーを見て、厳しい表情になる。
「僕は、怯えていません」
強い口調でハッキリと答える。
否定と共に自分の言い聞かせるような声音に、シルビーが苦笑する。
―意地っ張りめ。
苦々しい思いで心中に吐き捨てた後、言葉を紡ぐ。
「風使い。お前は”子供”だ」
「僕は”大人”です」
「命名の儀のことか? あんなもの子供を分類し、仕分けるためだけのものだ。 …”大人”という基準にはならないぞ」
シルビーが皮肉混じりに吐き捨てる。その言葉にフォボスが眉を顰める。
「風使い。お前は自分の仲間を信用していないのか?」
「そんなことはない!!」
フォボスが勢いよく立ち上がり、否定の声を大きく上げる。
セイラの魔法にはいつも助けられており、タローボーに背中を預けられる。…だが仲間の助けがあっても、フォボスが主要戦力である事には変わらない。
シルビーはそれ以上何も言わずに、フォボスの真意を確かめるように彼を見る。それに対しフォボスは強い意志の籠もった目で見返す。

”外”と同じだけの沈黙が部屋を満たすが、それはシルビーの大きな吐息によって霧散した。
「私は暫く席を外す」
思いもよらないシルビーの言葉にフォボスが唖然とするが、キッと彼女を見据える。
彼女を咎める鋭い眼差しに、シルビーが肩を竦める。
「私は所詮部外者だ。関係のない人間がこれ以上口出す問題ではないだろう。 後は”当事者”同士でゆっくり話し合え」
シルビーが席を立ち、セイラの隣を通った時に彼女の肩を軽く二回叩く。シルビーの意図にセイラが目を丸くして振り返ると、もうシルビーは部屋を出た直後だった。
セイラがフォボスの顔を見つめる。
その顔にはシルビーへの怒りは苛立ちが浮かんでおり”恐怖”の色はなかった。
フォボスが懸命に押し隠していたとはいえ、どうして今まで気づかなかったのか。後悔の念が込み上げる。
恐怖とは無縁の環境にいたセイラに”恐怖”がわかるわけない。分からなくて仕方ないのだが、彼女は納得できなかった。
だが、それを隠そうとしたフォボスの気持ちも分かるから、どうして何も言ってくれないのかと、責める気持ちにならない。
フォボスは様々な事を抱え込んで、背負い込んでしまう。その重荷を取り去ることはセイラには出来ない。
今、彼女に出来るのはフォボスの負担を減らすことだけだ。

セイラ達には気づかれたくない本心を言われて、フォボスが腹立たしい思いを抱えていた。
何か言って、セイラたちを安心させないといけないのだが、いい言葉が浮かばなかった。
「…フォボスさん…」
心配げなセイラの声に彼女の方を向く。
セイラがフォボスを励ますように笑顔になる。
大好きな彼女の笑顔を見ていると、フォボスの中で巣食い、彼自身を飲み込もうとしていた恐怖が少しずつ晴れていった。こんな簡単に恐怖が薄れて言ったことに驚いた。
不安を、恐怖を…知られたくないと思っていたけど、本当は知ってほしかったのかもしれない。
”知られてはならない”という重荷を不本意ながらどかされたことで、少しは心が軽くなった。
―だからこんなに呆気なく消えたんだ。

そして下手に気を遣われるよりも、普段どおりに接してくれたことが嬉しくて、ありがたかった。
「風さんがいなくても大丈夫ですよ。 フォボスさんは十分強いですから」
フォボスは強い。風の力を借りることなく敵を倒して、自分達を守ってくれた。そもそもフォボスはそれ程風に依存していなかったので、ここまで思いつめているとは思わなかった。
セイラが身を乗り出して、フォボスの手をしっかりと握り締める。そして、顔を赤らめるフォボスに微笑を浮かべる。
「それに私達がいるから、安心してください」
二人が見つめあう形になった時に、タローボーが咳払いらしき音を立てる。その音にセイラが顔を赤らめて、フォボスから手を放す。
「せいらノ言ウトオリダゾ、ふぉぼす。 俺達ガ着イテイル。ドーント大船ニ乗ッタツモリデイロ」
フォボスが二人を見つめる。
信頼できる、大切な仲間。
守られてばかりでもない、守ってばかりでもない。守って、守られて…そんな、仲間。
感謝の気持ちを込めて、微笑する。
「……ありがとう」



2010/10/28に未完から小説へ移行しました
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